石破茂「古いシステムは見直さなければならない」 「東京は豊かさ最下位」という衝撃データを受けて

■東京の家庭は日本一豊かか 石破茂の異論正論(14)


「心の豊かさ」「人情」「魚の旨さ」等々、それぞれの人が故郷について何らかの分野で「日本一だ」と思っていることだろう。しかし一方で「経済的豊かさ」でいえば東京が日本一、と思っている方がほどんどではないだろうか。

 しかし、石破茂元自民党幹事長は、あるデータを示しながらその「常識」に異を唱える。ポスト菅の政権における政策面でのキーマンとも目される石破氏は何に着目しているのか。そこから話は、国家のグランドデザインを見直す必要性にも発展していく――

 石破茂の異論正論、第14回である。

 前回、少子高齢化や経済など大きな問題についての議論が進まないまま時が過ぎてしまっていることに触れました。

 たとえば日本の1人当たりGDPはG7で最下位であり、それを改善する見通しも立っていないとご説明しました。一人一人の収入が増えなければ経済が伸びるはずがありません。

 たとえばこのために税制を見直すという視点を前回は述べました。企業の利益がより従業員に還元されるような仕組み作りが必要だ、ということです。

 関連して、今回は国民の豊かさについての興味深いデータから話を始めてみましょう。

 47都道府県の中でもっとも経済的に豊かなのはどこだと思われるでしょうか。おそらく多くの方は「東京」と思っていらっしゃるのではないでしょうか。

 これは統計によっては正解で、厚生労働省の発表している「賃金構造基本統計調査」では都道府県別賃金の1位は東京で373万円となっています(令和2年版)。そのあとに神奈川、大阪、愛知と続きます。これだけを見れば「やっぱり東京は豊かなんだな」と思われても無理はありません。

 しかし、別のデータからはまったく異なる現実が見えてきます。

 国土交通省国土政策局が発表している「都道府県別の経済的豊かさ(可処分所得と基礎支出)」という資料があります。

 これによると、可処分所得の順位は全世帯平均で見た場合、東京は3位で1位は富山県、2位は福井県です。

 それでもまだ東京は上位ですから、意外性はないかもしれません。

 しかしこの資料では可処分所得の「中央世帯順位」も示しています。平均にするとどうしても富裕層が多いところの平均は上がってしまうし、貧困層の多いところは下がってしまいます。それぞれの都道府県での平均的な世帯の可処分所得を比べてみよう、ということで、可処分所得の上位40%〜60%の世帯の平均を出して比較したのがこの順位です。

 この順位を上から見ると、富山、三重、山形、茨城、福井、愛知、神奈川、埼玉、京都、新潟がベスト10。岐阜が続き、東京はようやく12位にランクインします。つまり富裕層や貧困層を除いた「平均的な世帯」の可処分所得を比べると、東京は決して上位ではないことになります。

■東京が最下位に


 さらに資料では「基礎支出順位」も示しています。上の「平均的な世帯」における基礎支出(食料費や家賃、光熱費など)です。これが多いほど、生活にかかる基本的な出費が多いことになります。こちらは当然、東京が1位で神奈川、埼玉、千葉、京都、大阪と大都市を抱える都府県が並びます。逆に一番出費が少ないのは大分で、次いで宮崎、沖縄、佐賀、鹿児島、長崎、高知と九州、四国が並びます。

 中央世帯の「可処分所得」から、この「基礎支出」を引けば、食・住関連以外に出費できる金額が出ます。その順位を見ると、1位三重、2位富山、3位茨城……で、東京は42位になっています。要するに可処分所得が12位であっても、出費が多いので、実際に使えるお金はかなり少なくなるわけです。ちなみに東京の下は大分、大阪、長崎、青森、沖縄となっています。

 これだけでも東京の方にとっては気分が良くないかもしれませんが、さらに資料では参考値として、ここから「費用換算した通勤時間」を引いた順位も出しています。都道府県の平均的な通勤時間を算出して、それをお金に換算してみたうえで、所得からひいてみるのです。一般的な考えとして、通勤時間が長いことは自由に使える時間が短くなることにつながります。

 こうして「可処分所得」から「基礎支出」を引き、さらに「通勤時間(の費用換算分)」を引くとどうなるか。

 上位は三重、富山、山形、茨城、福井。東京はここでついに全国で最下位、47位となります。

 もちろん、これは一つの統計にすぎません。しかし、東京こそが豊かであるという、これまでの前提を考え直すには重要な視点を提示しています。首都にはもっとも富と人材が集中する。そんな常識ももはや古くなってきているのかもしれません。

 なぜこんなデータをご説明したかといえば、国のグランドデザインと直結すると考えるからです。

 余談ながら興味深いのは、これを国土交通省の一つの部局が出しているという点です。国交省はかつて「国土庁」だった頃は、総理府の外局でした。そのため国家のグランドデザインを内閣総理大臣に出す立場にあったのです。だから今でもこうした資料を作っているのでしょう。

 ともあれ、この統計を見れば東京に住んでいる人の幸福度が高いかは疑問に思われることでしょう。

 これからの日本は「自立精神旺盛で持続的な発展を続けられる国」を目指すべきだ――これは私の持論です。大筋で多くの方が賛同してくださるのではないでしょうか。しかし、その実現のためには国のグランドデザインも見直していく必要があるでしょう。

 その際、国民一人の幸福度はとても重要な要素となります。そしてそのためには、たとえば1人当たりGDPを最大化していく必要があるでしょう。

 おそらく明治以降作ってきた日本のシステムは限界にきているのではないか。そのように考えています。以前の著書でも書いたのですが、日本は明治維新以降、50年ごとに国を作り変えて成功してきた国です。明治維新からの50年で欧米列強からの独立を果たし、昭和初期からの50年は大戦、敗戦から占領を経て奇跡的な復興と高度成長を成し遂げました。

 しかしこの高度成長があまりにもうまくいきすぎたので、そのあとシステムを見直すことを怠ってしまった。もういい加減、このシステムを見直し、新たなグランドデザインを考えなければなりません。

 さきほど述べた東京の中間層の問題の他にも、「何かおかしいのでは」と感じられることは皆さんの身近なところにもあるはずです。

 子育てをしている方であれば、教育の格差が気になることでしょう。たとえばいつの間にか東大に入れるのはお金持ちの子弟が中心になってしまった。東大生の家庭の収入が平均よりも格段に高い、といったデータがあります。これが格差の再生産を生む可能性は極めて高い。おかしな話です。

 また、日本の税金は決して高いほうではありません。北欧など高福祉国家に比べればはるかに安く、しかも高度な医療を格安で受けられる。治安の良さも折り紙付きです。

 ところが日本の納税者の満足度は極めて低い。つまり「払っただけのことはある」と思っている方がとても少ない。

 これもシステムに限界がきていることのあらわれだといえます。

 日本のグランドデザイン、といった大きなテーマは国会などでもほとんど議論されません。しかし、それではもう国が立ち行かないのではないか。大きな議論をするためにはどうすればいいか。これについては次回にまたお話しします。

(本稿は8月末に書かれたものです)

2021年9月8日 掲載

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