暴走に見えた安倍前総理の“高市支持”のウラにあった謀略とは 新政権の課題は“長老”の排除か

暴走に見えた安倍前総理の“高市支持”のウラにあった謀略とは 新政権の課題は“長老”の排除か

安倍晋三元総理

 激戦の末に自民党総裁選は雌雄を決し、日本のかじ取りは新総裁に任されることとなった。権力の椅子を巡る熾烈な争いで浮かんだのは女性候補を支持しながら「河野・岸田」を踊らせた前総理の存在。そこには新政権の人事まで左右しかねない謀略が渦巻いていた。

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 そもそも大本命と目されていたのは、菅義偉総理が支援する河野太郎ワクチン担当相(58)だった。9月17日に菅総理がぶら下がりで河野支持を表明。その理由について官邸関係者は、

「安倍さんが攻勢を強める中で、菅vs.安倍をむしろ鮮明にして、戦う姿勢を示す狙いがありました」

 しかし、その河野氏から滲み出る「危うさ」を党員も議員も感じ始めていた。

 その一つが政策である。例えば、河野氏は抜本的な年金改革をしなければならないとし、最低保障年金に税を充てるべきだと提唱した。すると、所属する麻生派の麻生太郎財務相から「民主党内閣と同様の案」と一蹴され、さらに、

「厚労相を2度務めた加藤勝信官房長官は“物価などに応じて年金の給付水準を調整するマクロ経済スライドは世界的に見ても優れた制度だ。それをいじる危険性をわかっているのか”と不満を漏らしていました」(同)

 安倍晋三前総理も周囲に、

「河野さんの年金政策を聞いたら党員だって心配になる。迷走してるよ」

 とバッサリ。政府与党の重鎮から集中砲火を浴び、結局、河野氏は年金改革に関する発言をトーンダウンさせる始末だった。

 もう一つの彼の危うさは「キレる」ことだ。

 9月26日のフジテレビ「日曜報道THE PRIME」冒頭では、キャスターから岸田文雄前政調会長(64)を1回目の投票で3位に落とすために河野陣営から高市陣営に票が回る可能性を指摘され、突如「フェイクニュースだ!」と叫び、スタジオが騒然となった。

 永田町関係者が言う。

「フジに出演した後、河野さんはまだ腸(はらわた)が煮えくり返っており、OA中は抑えていたものの、スタジオを出てすぐ、“けしからん!”と怒鳴り散らし、周囲をギョッとさせたのです」

 民主党政権の菅直人元総理は怒りを爆発させる様子から“イラ菅”といわれた。これでは“イラ太郎”といわれても仕方あるまい。

 安倍氏はこうした振る舞いについて「彼の場合、これまではそれで許されたけどね」と総理の器に疑義を呈していた。ところが、当の安倍氏も、直前まで周囲が心配するほど高市氏に肩入れしていたのも事実だった。

 政治部デスクが解説する。

「出身派閥である細田派の若手にまで電話し、高市支持を訴えていた。派閥幹部の世耕弘成さんは“このままでは岸田さんを凌いで、高市さんが2位になってしまう”と泣きついたものの、安倍さんはそのそばから高市さんを擁護するツイッターを投稿していました」

 取材する記者や他派閥からすれば、“暴走”に見えた安倍氏の行動。その真意はどこにあったのか。


■“岸田さんは頼りない”


 本誌(「週刊新潮」)は9月30日号で安倍氏の背後に森喜朗元総理がいること、一方で岸田選対に自身の腹心である今井尚哉元総理秘書官を送り込んだことを報じたが、安倍氏の弟である岸信夫防衛相は別の見立てを披露していたという。

 防衛省関係者によれば、

「岸さんは周囲に安倍さんの思いを概ねこう代弁しています。曰く“河野さんもダメだけど、対中国政策で岸田さんは頼りない。心の底でどう考えているのかよくわからないんだよね”と。台湾有事が起きるといわれている中で、新総裁には中国との距離感も重要だというわけなんです」

 岸田氏は第2次安倍政権時代から4年以上の長期にわたり、外務大臣を務めた。日中関係については、日米同盟を基軸としつつ、対話を閉ざすわけにはいかない、としていた。

 河野氏は先日、弟の二郎氏が社長を務める日本端子株式会社が中国に関連企業を保有、と報じられた。

「中国から見れば、タカ派の高市さんは0点、岸田さんは50点、河野さんは100点になるでしょう」

 と指摘するのは、産経新聞台北支局長の矢板明夫氏。

「岸田さんは安倍路線を継ぐというものの、靖国参拝もしないし、台湾有事に関しては、高市さんよりも穏当な対処をするとみられています。河野さんは外相時代に中国の女性報道官とのツーショット写真が中国メディアで好意的に紹介されたこともありました。中国当局も今までの安倍路線と決別し、新しい関係をもたらしてくれるのでは、という期待感があったのです」

 こうした点を踏まえ、先のデスクが言葉を継ぐ。

「安倍さんは今年の都議選や横浜市長選で保守の票が逃げている、と分析をしていました。“横浜市長選では自民支持層の4割しか票がとれていない。7割はとれないと選挙は勝てない”と。今回の総裁選では、高市さんを立てることで保守層を振り向かせる狙いもありました。結果、河野さんは女系容認等の皇位継承問題などで、岸田さんは対中政策や敵基地攻撃能力の保有などで保守に寄る形となった。結局、総裁選最終盤に安倍さんは“岸田さんはたくましくなった”“仲間もいないのに出馬しようなんて高市さんはおかしいよ”と漏らすようになりました」


■「麻生氏は『準備不足』と指摘」


 かたや河野陣営といえば、

「陣営の麻生派議員からは“小泉進次郎さんと石破茂さんが勝手に動いて困る”と責任を擦(なす)り付け合う声まで聞こえていました。麻生さんは菅さんが支援する河野さんのことを“準備不足だ”と指摘していた一方で、当選した時に手綱を引くため毎日のように河野さんと電話をして、相談役になっていた。もっぱら、河野さんからかかってきていました」(同)

 キングメーカーを狙った人々の策動が入り乱れた総裁選。政治アナリストの伊藤惇夫氏が言う。

「今回は安倍・麻生連合と菅・二階連合の対立構図が明確になり、新政権は長老たちの頸木(くびき)から逃れられないということになります。過去を繙(ひもと)けば、中曽根康弘元総理も田中角栄さんの強い後押しで総理の座に就くことができました。“田中曽根内閣”とも揶揄されましたが、時間をかけて田中さんから離れ、長期政権を樹立しました。今後、長老たちの影響力をいかに排除できるかが、新政権の課題となるでしょう」

 前総理が暗躍し誕生する新政権は「分水嶺」にある。そこに流れる水は「長老支配」と「世代交代」、一体どちらに向かうのか。

「週刊新潮」2021年10月7日号 掲載

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