総裁交代後も自民党は変わらない? 総裁選で見えた党内の「メタ野党」とは

総裁交代後も自民党は変わらない? 総裁選で見えた党内の「メタ野党」とは

岸田文雄氏

 29日に行われた自民党総裁選投開票の結果、岸田文雄が新総裁に選出された。予想のできない展開となった今回の総裁選だったが、評論家の古谷経衡はどのように見たのか。

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 菅義偉総理が9月3日に不出馬を表明して以降、エンターテインメントを鑑賞するような気持ちで、自民党総裁選に注目し続けてきました。こんなに面白いコンテンツはない、と思いながらテレビを見たりラジオを聴いたりしていました。

 やはり、それぞれの候補者の個性が光っており、最後の最後まで結果が見通せなかったところが非常に面白かった。特に現在はコロナ禍ですので、テレビを見ていても、街に出てみても、肌感覚で情勢を掴みにくい。何しろ、街頭演説をやっていないわけですから。

 例えば2001年の総裁選では、小泉純一郎さんが党員・党友票で圧倒し、当初は本命といわれていた橋本龍太郎さんに逆転勝ちしました。その際は、街頭演説の様子などから、「小泉旋風」の勢いを肌で感じられた。しかし、今回はそうした実際の聴衆の反応が分かりません。ネット上の動画の視聴回数や再生回数のような、単なる数字でしか、聴衆の反応がつかめない。そのような状況こそが、フタを開けるギリギリまで本当に結果が分からないという、最高の面白味を生み出したのかもしれません。

 今回の総裁選では多様な候補者が乱立し、自民党の幅の広さを見せつけられました。「安倍一強時代」が長く続いたため、自民党がその出身派閥、清和会に牛耳られたかのような見方が世間にはあったかと思います。しかし、今回の総裁選に注目した大勢の人は、自民党には、宏池会もある、経世会の竹下派もある、中曽根派の流れをくむ二階派もある、と改めて幅の広さを認識したはずです。中選挙区時代と同じような、昔から変わらぬ自民党の多様な姿がそこにあった、と言ってもいいでしょう。実は、自民党は清和会的なタカ派勢力に支配されていたわけではなかったのです。安倍前総理の傀儡のように見える岸田文雄さんですら、アベノミクスの修正と、所得の再配分を訴えていました。その他の政策においても、候補者ごとの違いがはっきりと出ていました。

 今回浮かび上がってきたのは、確かに派閥の力は以前に比べて弱まっているのかもしれないが、未だに厳然として派閥が存在している、という事実でした。池田勇人の宏池会があり、佐藤栄作・田中角栄系の竹下派があり、福田赳夫の清和会がある。自民党がその歴史の中で育んできた党内の構造そのものが、いまだに生きていることが分かり、やはり“腐っても自民党”だと感じさせる。派閥は単に権力闘争の結果生まれたわけではなく、それぞれに歴史があり、なんだかんだで政治信念に基づいて分かれていることを再認識させられました。


■自民党内の「メタ野党」


 今回の総裁選を通して見えたのは、自民党がその内部に野党を抱えているという、メタ的な構造です。そして、自民党の中で政権交代のようなものが起こるかもしれない、という期待感を多くの人が抱いたのだと思います。野党にとっては、安倍一強の清和会支配が続いていた方が戦いやすかったのは間違いありません。しかし、自民党内の「メタ野党」の存在をここまでハッキリと見せつけられると、野党の支持率は伸びようがない。特に野田聖子さんが出て立憲民主党と近似する政策論争をやったのは大きかったでしょう。

 ただ、本来の政権交代とは、前政権を否定するものですが、自民党内における「党内交代」では、前政権の完全否定まではできません。自民党政権が続く以上、構造的に前政権の完全否定ができないのは当然のことです。

 総裁が決まった瞬間には、まるで政権交代が起こったかのような錯覚を覚えるかもしれません。が、総選挙が行われる頃にはやはり、これまでの路線を大きくは修正できない、という現実が見えてくるでしょう。

「週刊新潮」2021年10月7日号 掲載

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