岸田政権、実行力が疑われ早くも流れる短命説…最大のがっかり人事は「松野官房長官」

岸田政権、実行力が疑われ早くも流れる短命説…最大のがっかり人事は「松野官房長官」

岸田新首相

「生まれ変わった自民党の姿をしっかりと国民に示す」

 総裁選勝利の直後、自民党議員の前で高らかに宣言した岸田新総裁。この言葉の本気度と実行力を測る試金石となるのが、内閣と党役員人事です。いわずもがなですが、政治は総理大臣一人ではできません。全体の布陣を見ることで、その姿勢が明らかになるのです。【青山和弘/政治ジャーナリスト】


■色濃い安倍氏麻生氏の影響力


 今回の人事では当選3回から福田達夫総務会長をはじめ、デジタル担当相に牧島かれん氏、ワクチン担当相に堀内詔子氏、経済安全保障担当に小林鷹之氏など、若手を登用した目玉人事も散見されます。また総裁選で主張していていた二階前幹事長の影響力を削いだことは確かです。

 しかし党の要・幹事長に安倍元首相、麻生前財務相側近の甘利明氏、党の政策を握る政調会長に高市早苗氏、内閣の要・官房長官に安倍氏の出身派閥・細田派の松野博一氏を起用するなど、政権中枢から自らの派閥を排し、安倍氏、麻生氏の影響力が色濃く残る布陣となったことは間違いありません。政権運営の姿勢や方向性が、今までを踏襲したものになるのは避けられないでしょう。ある自民党の中堅議員はこう語っています。

「今回の人事は、自民党は変わりませんというメッセージとしか取りようがない。」

 そして立憲民主党の枝野代表は私にこうこぼしました。

「この人事は、我々が舐められているってことかな」


■政権の浮沈を決める官房長官


 特に注目すべきは、官房長官の人事です。官房長官は首相を最も近くで支え、政策実現に向けて官僚組織をグリップし、内閣のスポークスマン役を果たすポストです。官房長官と首相の二人三脚は極めて重要で、足並みを揃えてこの3つの役割をきちんとこなさないと、政権の屋台骨が揺らいでしまうのです。

 歴代政権でも官房長官が浮沈のカギを握ってきました。2001年から5年5か月政権を担った小泉純一郎首相は、福田康夫氏、細田博之氏、安倍晋三氏と3人の官房長官を任命しましたが、必ず自派閥から登用しました。「聖域なき構造改革」を掲げて郵政民営化、道路公団民営化など党内の抵抗が強い政策を遂行するためには、官房長官は絶対の味方でなければならなかったからです。そして郵政解散の前には幹事長までも、自ら「小泉首相の偉大なるイエスマン」と言ってはばからない武部勤氏に代えて、法案採決で反対した議員を党から除名した上で総選挙で刺客を送り込み、大勝しました。


■安倍元首相は失敗して学んだ


 一方、2006年に小泉首相の後を受けた安倍首相は、他派閥で当選同期(当時4回)の塩崎恭久氏を官房長官に抜擢しました。塩崎氏は政策通でしたが、霞が関はおろか官邸内もうまくまとめられず、「お友達内閣」と揶揄されて第一次安倍政権の躓きの原因となりました。

 捲土重来を期した安倍氏はその反省を活かして、2012年の第二次政権では盟友でありかつ実務能力があり、官僚にも睨みが利く菅義偉氏を官房長官に据えて、安定政権を作り上げたのは皆さんご存じの通り。安全保障関連法案も森友・加計問題も菅官房長官が霞が関を抑えつつ首相を徹底的に守らなければ、良くも悪くも7年8か月もの長期政権にはならなかったでしょう。


■菅政権 挫折の教訓


 その菅氏は昨年自らが首相になると加藤勝信氏を官房長官に起用しました。これは加藤氏を引き上げたい安倍総理への配慮と、答弁の隙のなさを買った人事で、政策の調整能力や菅氏への忠誠心は重視しませんでした。

 そこに襲い掛かったのがコロナウイルスの感染再拡大です。加藤官房長官は政府対応の取りまとめ役として機能せず、菅首相がすべてを決める事態に陥りました。そのため判断が遅れた上に偏って、コロナ対策は後手後手にまわりました。閣僚の一人は「官房長官がもうちょっと菅首相と連携して政権のために汗をかいていれば、こんなことにはならなかった」と嘆きます。


■疑問符が付く松野氏の起用


 こうした過去の事例や菅政権挫折の教訓がありながら、岸田新首相は官房長官に自派閥の側近議員ではなく、細田派から松野元文科相を起用しました。松野氏はおとなしくて温厚な性格で、これまでさほど目立たず当選7回を重ねてきた政治家。松野氏を良く知る自民党議員はこう評します。

「バランス感覚があるいい人だけれども地味。申し訳ないけど、発信力とか霞が関をグリップする能力とかはないよ」

 岸田首相はなぜそんな松野氏を登用したのか。それは総裁選での勝利に貢献した細田派から「幹事長か官房長官」を要求されたからです。幹事長には安倍氏・麻生氏の盟友で総裁選勝利の最大の功労者・甘利氏を充てるため、官房長官を差し出すしかなくなった。細田派の中では当選回数も手ごろで、岸田氏が政調会長時代に政調会長代理を務めて少しは気心が知れた松野氏が選ばれたというわけ。つまり消去法です。

 しかしこんな消去法で最重要ポストの官房長官を決めていいんでしょうか。政権運営では国家的な危機に直面したり、スキャンダルで窮地に追い込まれることもある。そんな時、細田派の松野官房長官が自らが集中砲火を浴びても岸田首相を守るでしょうか。自民党内に岸田おろしの動きが起こったときに、体を張って鎮圧に乗り出すでしょうか。未知数と言わざるを得ません。


■岸田カラーとは何か


 もう一つ重要なのは、岸田首相が望む政治の姿を実現できるのかです。岸田政治の方向性を一言で集約すると、総裁選直後の記者会見で語った「丁寧で寛容な政治で、国民の一体感を取り戻す」ということでしょう。

 これは「丁寧さに欠け、狭量で、国民を分断させた」安倍・菅政治を修正するということで、まさに岸田氏が率いる派閥・宏池会的です。岸田氏は著書「岸田ビジョン」の中で「宏池会は結成されてから今日まで、その名の通り、リベラルで自由な社会を目指し、権力には謙虚に向かい合ってきた」と語っています。

 私は2014年に、当時安倍内閣の外務大臣だった岸田氏とひざ詰めで将来のことを語り合う機会を得ました。その時、岸田氏が「今は安倍政権を支える身だが、いずれ宏池会的な政治が求められる時が来る。その時に向けて準備する」と、静かに闘志を燃やしていたことが強く印象に残っています。

 今回の人事ではデジタル化の推進や経済安全保障といった、岸田首相が力を入れる政策に有能な若手を抜擢したのはいいのですが、自派閥の宏池会から政権中枢に一切登用せず、岸田氏がこれまで目指し、総裁選でも約束した政権運営ができる態勢になっているのか。チームとして足並みを揃えていけるのかが、今後問われることになるでしょう。

 安倍氏、麻生氏への強い配慮は、岸田首相の「弱さ」なのか、「したたかさ」なのか、岸田派幹部の一人にストレートに聞きましたが、「今回の総裁選はいろんな方にお世話になりました。すべて岸田さんに任せています」と言葉少なに話すのみでした。


■総選挙での審判に向けて


 衆議院総選挙まであと1か月あまり。短い期間ですが国民は、岸田首相の本気度をしっかり見極める必要があります。そしてこれから訪れるかもしれない日本の危機にきちんと対応していく実行力があるのか。コロナ後の日本をどの方向に導こうとしているのかきちんと問い、審判を下さなければなりません。

青山和弘(あおやま・かずひろ)政治ジャーナリスト
1968年、千葉県生まれ。東京大学文学部卒。92年、日本テレビ放送網に入社し、94年から政治部。野党キャップ、自民党キャップを歴任した後、ワシントン支局長や国会官邸キャップ・解説委員を務める。与野党を問わず幅広い人脈を持つ。本年9月からフリーの政治ジャーナリスト。

デイリー新潮取材班編集

2021年10月4日 掲載

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