岸田首相の実行力は未知数 枝野代表の本気度に疑問符 見極めるべき公約の実行力とは?

岸田首相の実行力は未知数 枝野代表の本気度に疑問符 見極めるべき公約の実行力とは?

岸田首相、枝野代表

 衆議院選挙の投開票日まで1週間を切りました。メディアは各党の公約を盛んに比較しています。しかし、選挙向けにバラ色の公約を掲げるだけなら誰でもできる。重要なのがその公約に裏付けを与え、実現する実行力です。実行力を検証するとそれぞれのリーダーの資質も見えてきます。【青山和弘/政治ジャーナリスト】


■消えた「岸田カラー」


 岸田首相は首相に選ばれてまだ20日ほどしか経っていません。その実行力を測るには、この短い間にも自分が言ってきたことに信念を持ち、前に進めようとしているかで見ていくほかありません。しかし岸田首相は早くも、いくつかの主張の修正・封印に追い込まれています。

 自民党総裁選挙の時に掲げていた「令和版所得倍増」「健康危機管理庁の設置」「金融所得課税の強化」などは、所信表明以降まったく聞かれなくなりました。首相周辺によれば、イメージが先行しすぎたり、さらに検討が必要だったり、政策の優先順位の問題だと言うことですが、主張する時点でどこまで本気で実行するつもりだったのか疑われても仕方ありません。

 ある首相側近は「岸田さんはまだ慣れていないんだよ。もっとうまく修正できるのに」と擁護しますが、これから国や政権に不測の事態が起こった際に「慣れていない」を理由にされても困ります。

 そして公約の柱と言っていい「成長と分配の好循環」についても「新しい資本主義を実現する」という言葉は踊りますが、具体的にどの程度、何をしようとしているのかは不透明。これでは公約を達成したかを選挙後に測ることができません。


■「核なき世界」宣言の軽さ


 そして広島出身の岸田首相が所信表明演説で宣言したのが、「核のない世界」の実現です。

「これまで世界の偉大なリーダーたちが幾度となく挑戦してきた核廃絶と言う名の松明を私もこの手にしっかりと引継ぎ、核のない世界に向けて全力を尽くす」

 ところが公約には核廃絶について一言も触れられていません。自民党のある閣僚経験者は「公約はタカ派の高市政調会長の影響力が強くて、とても盛り込む雰囲気じゃなかった」と語ります。でも中国や北朝鮮の脅威にさらされている状況で、アメリカの核の傘の下にいる日本が核廃絶を目指すことが簡単ではないことは分かっていたはず。所信表明で岸田首相は、単なる個人的な希望を述べただけなのでしょうか。


■「聞く力」リーダーの実行力は未知数


 首相になってから医療従事者や飲食店経営者らと何度か行っている「車座対話」では、国民の声をしっかり聞こうとする岸田首相の丁寧な姿勢が見てとれます。「聞く力」を自らの長所としている以上、自分の主張への異論や慎重論にも耳を傾けるでしょう。ただそれによって、リーダーである岸田首相の信念や決断力が見えにくくなるばかりか、発言の信ぴょう性にも関わってきます。今後、掲げている政策を遂行するリーダーシップを発揮できるのか、実行力は未知数と言わざるを得ません。


■枝野代表の本気度をどう見るか


 一方、立憲民主党の枝野代表。政権交代を目指す野党の立場ですが、公約には自民党より具体的で耳心地の良い政策が並んでいます。実際に政権を取った場合の公約実現への本気度、実行可能性が問われます。

 枝野氏が「初閣議で直ちに決定する事項」として発表した「日本学術会議に任命拒否された6名の任命」や「森友・加計・桜問題真相解明チームの設置」といった7つの項目は、予算の裏付けも必要なく、政権が変わればすぐに実行するでしょう。また「政策の一丁目一番地」と位置付ける、選択的夫婦別姓制度の導入などは早期実現を図ってくる見通しです。立憲民主党の前議員の一人は、「選択的夫婦別姓賛成は違いが分かりやすい。岸田首相が慎重姿勢でありがたい」と語ります。


■「大盤振る舞い過ぎる」分配政策


 ただ今回の公約の柱となっている分配の強化策、「消費税率5%」「年収1千万以下の所得税無税」「低所得者に年12万円の現金給付」などは、1年の税収がおよそ60兆円の日本で20兆円近く使う政策です。財源を赤字国債だけに頼って、どの程度の効果と必要性があるのか精査しないと、無責任のそしりは免れません。

 枝野代表は「100年に一度の危機への対応策だ」と必要性を訴えますが、立憲民主党内からも「あまりの大盤振る舞いで、本気で政権を取る気がないと思われている」と苦々しい声も上がっています。税金を下げるのは簡単ですが、戻す際は実質増税になります。その前に新たな自然災害や経済危機などがやってこないとも限らず、戻す契機を失うリスクもあります。


■コストを語らない温暖化対策


 また枝野代表は地球温暖化対策として、「2030年に温暖化ガスの排出を2013年比55%以上削減し、自然エネルギー電力を50%にする」という極めて高い目標を掲げています。実現できれば素晴らしいですが、国民にどのくらいのコストを強いてこの政策を断行するのか、電気料金なのか税金なのか、これも赤字国債なのか。そのビジョンも覚悟も示されていません。経済産業省幹部の一人は「元経産相とも思えない不誠実な夢物語だ」と眉を顰めています。


■恐るべき公明党の一点突破


 自民・立民以外の政党については、現状では選挙後に総理大臣を出す可能性が極めて低く、他党との交渉の中で公約実現を目指すことになります。

 与党公明党ですが、山口代表は「未来応援給付」として「高校3年生までの子供に10万円相当の支援」を強く訴えています。自民党幹部は「こちらからするととんでもない政策だが、選挙後に何らかの形で飲まざるを得ないんじゃないか」と話します。2014年の総選挙で公明党は「消費税率引き上げの際の軽減税率導入」を一番に掲げて、選挙後に自民党内の抵抗を抑えて強硬にねじ込みました。その是非はともかく、与党の一角として一つの政策にこだわる執念は恐るべしです。


■曖昧な野党政権の姿


 一方野党系です。日本維新の会はこれまでも他の野党と一線を画した独自の動きで政策の実現を図ってきました。リーダーの松井代表が国会議員でなく大阪市長だという難しさは抱えていますが、選挙後も獲得した議席数や世論の動向に応じて、政策ごとに主張を盛り込もうとしていくでしょう。

 共産党、国民民主党は枝野政権が誕生した時、どの程度の距離感をもって政策決定に関わっていくのか不透明です。共産党は「閣外からの協力」ということですが、総選挙で結びつきは強まっています。立憲民主党の候補者は「共産党の支持者は組織立っていて動いてくれて、とても力になる」と話しています。こうした結びつきをテコに政策決定に影響力を強めてくる可能性もあり、テーマによっては混乱の火種にもなりかねません。


■未来につながる一票を


 総選挙でどこに一票を投じるべきか。100%納得のいく政党や候補者など望むべくもありません。どんな基準でもいいので何らかの引っ掛かりを見つけて、「少しでもベターな未来」につながる政党・候補者が誰なのか見極めていくしかありません。

 また政治の貧困が叫ばれる今、選挙区に未来の日本を背負うかもしれない有望な候補がいれば、与野党・無所属を問わず一票を投じる考えもあります。国民が次世代のリーダーを育てることは、この国のために絶対に必要です。

 投票日までに国民の大切な権利を是非行使してください。国民が政治に関心を失えば、政治家もそんな国民に関心を失うでしょう。

青山和弘(あおやま・かずひろ)政治ジャーナリスト
1968年、千葉県生まれ。東京大学文学部卒。92年、日本テレビ放送網に入社し、94年から政治部。野党キャップ、自民党キャップを歴任した後、ワシントン支局長や国会官邸キャップ・解説委員を務める。与野党を問わず幅広い人脈を持つ。本年9月からフリーの政治ジャーナリスト。

デイリー新潮取材班編集

2021年10月25日 掲載

関連記事(外部サイト)