バラマキ合戦の総選挙で議論されない「分配」の原資 野党の「金持ちから取ればいい」は無理筋

バラマキ合戦の総選挙で議論されない「分配」の原資 野党の「金持ちから取ればいい」は無理筋

分配の原資をどこから捻出するのかを各党はどう話しているのか。左から自民党・岸田文雄総理大臣、共産党・志位和夫委員長、立憲民主党・枝野幸男代表

■はっきり増税に触れている共産党


 総選挙の投票が目前に迫っている中、各党の選挙活動が熱を帯びている。そんな折、政策の焦点になっているのが、「分配」か「成長」か、だ。岸田文雄首相は総裁選の最中、「新自由主義的政策は見直す」「アベノミクスで成長したが分配が不十分だった」と、分配優先の政策を打ち出した。「まずは分配」というのが左派野党の専売特許だったが、自民党が分配重視に傾いたことで、選挙は、分配合戦、バラマキ合戦の色彩が強まっている。だが問題は、分配の原資はどこから捻出するのか、ということである。

 大手新聞の政治部デスクが解説する。

「選挙戦で、はっきり増税に触れているのは共産党。法人税率の引き上げや富裕層への増税を明言しています。立憲民主党も政策集の中では、所得税の最高税率の引き上げや法人税への超過累進税率の導入などを書いていますが、選挙戦ではもっぱら消費税率の時限的引き下げのみを強調しています。ただ、岸田首相が『当面は考えていない』と述べた株の売買・配当利益に対する金融所得課税も強化する方向です」


■法人税引き上げを明言できない自民党


 岸田首相は総裁選の際、金融所得課税を強化すると明言していた。それが首相に就任するや早々に旗を降ろし、先送りをしている。財務省担当記者が言う。

「高額所得者は配当収入が多いので、1億円を超えるぐらいから実際の負担税率は下がってくる。そのことを示す資料は財務省が作ったもので、岸田さんの裏には、金融課税を強化したい財務省がいると見られていました。何しろ岸田さんは財務省の影響力が強いとされてきた宏池会の会長ですからね。ところが、商店経営者や、現役を引退している高齢者など自民党の支持層の多くは配当収入のある人たちです。一斉に反発の声が議員を通じて自民党に集まってきた。これでは選挙を戦えないと危機感を持った商工族の甘利(明)さんが幹事長に就任し、実権を握ったことで、財務省の目論見は潰されました」

 では、自民党はどうやって「分配」するための財源をひねり出そうと言うのか。前出のデスクが言う。

「自民党は、法人税率を引き上げるとは口が裂けても言えないので、結局、『成長』と言い出しました。まずは成長してパイを増やすことが重要だ、と。これではアベノミクスと変わりません。安倍元首相は『経済好循環』と言い続け、財界トップを呼んでベースアップを求めて実現させたり、最低賃金を引き上げるなど、『官製春闘』と揶揄されながらも、政府としてギリギリのことをやっていた。岸田さんはそれが不十分だと言うものの、どうやって給与を上げていくのか示すこともせず、いつの間にか、総裁選で口にしていた『所得倍増』も言わなくなりました」


■貧しくなった日本人


 一方、野党が言うような「税金は金持ちから取ればいい」という話にも無理がある、というのはさる大学教授だ。

「日本経済新聞なども書いていますが、日本は米国に比べて格差は大きくありません。経済協力開発機構(OECD)のデータでは、米国はトップ1%の富裕層が国全体の富の40%を独占していますが、日本はトップ1%が握る富は11%。金持ちから取ると言っても、実はそれほど金持ちの数は多くないのです。しかも、金融資産は国境を越えて海外に移動しますから、税率を上げても、簡単に税収が増えるというわけでもないのです」

 とはいえ、格差が拡大していると、多くの国民が感じているのは事実だろう。

「成功している人がごく一部で、大半の人が貧しくなっているからそう感じるのです。日本の平均年収は実質ベースで30年間ほぼ横ばいです。デフレ下で物価が下がったので、それでも生活できた。ところが日本だけが成長せずに為替が円安になったことで、輸入物価が上昇して生活が苦しくなってきた。日本人全体が貧しくなっているんです。一部の成功者から税金を取れば、全体が豊かになると考えるのは幻想です」(同)


■財務省の本音は消費税の引き上げ


 もっとも、野党がそろって主張している消費税率の時限的引き下げとなると、話は別だという。エコノミストが語る。

「ポスト・コロナで一気に景気を回復させる術として消費税率を引き下げるのは有効かもしれません。コロナで消費したくてもできない状況だったので、消費税減税をきっかけに消費が爆発する可能性が高い。税率を時限的に引き下げても、税収はそれほど減らないと思います。時間がある一部の人しか恩恵を受けられないGoToトラベルを再開するなら、すべての人に行き渡る消費税減税の方が平等です。実際、ドイツも時限的な消費税減税を導入しました。景気が過熱してきたタイミングで税率を戻せば影響は少ないでしょう」

 しかし、岸田首相は消費税減税だけは、きっぱりとやらないと言っている。

「財源としての金融課税強化や法人税率引き上げを封印したうえで、消費税率まで下げたら予算が組めないと財務省がかなり抵抗します。財務次官が月刊誌に寄稿して『バラマキ合戦だ』と批判しましたが、財務省の本音は、歳出の抑制ではなく消費税率の引き上げです。やっと実現させた消費税率10%を放棄することなど絶対にできない、ということでしょう」(同)

 総選挙が終われば、自民党では年末に向けて税制調査会が開かれ、税制改革が議論される。どうやって巨額の財政出動の原資を捻出するのか。選挙戦で言った「公約」とは関係なしに、そこで本音が見えてくるはずだ。

デイリー新潮取材班

2021年10月29日 掲載

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