これでは権力者が二階から甘利になっただけ…投開票を前に自民党内に漂う不穏な空気

 メディアの衆院選情勢調査で「単独過半数」の維持が微妙と伝えられる岸田文雄首相(自民党総裁)率いる自民党。野党共闘が一定の効果をもたらし、4割近くの小選挙区でしのぎを削っているとも報じられ、もはや余裕は感じられない。新政権発足から1カ月あまり、すでに足下の党内には怒りや不満も漏れ出しているようで――。


■自民党に不穏ムード、2つの理由


「自民が単独過半数の攻防」(日経新聞)

「自民単独過半数へ攻防」(産経新聞)

「自民単独過半数は微妙」(読売新聞)

 衆院選投開票日(10月31日)が間近に控える中、次々と報道される情勢調査では自民党が公示前勢力(276議席)から減らし、衆院定数の過半数(233議席)を単独で維持できるかどうかの攻防が続いている、とされる。接戦となっている選挙区も多く、情勢はなお流動的だが、選挙取材で奔走する全国政治部記者は「新政権発足のご祝儀ムードはありません」とした上で、こう語る。「まだ発足から1カ月も経っていませんが、自民党には不穏な空気も漂ってきていますよ」。

 その理由は2つあるという。1つ目は、超短期決戦となった衆院選の告示前にバタバタと行われた党執行部による公認調整や比例名簿の登載順位をめぐる「裁定」だ。岸田総裁や甘利明党幹事長は、党本部で実施した調査結果などを基準に候補者が競合する約10の選挙区を調整したが、選挙区での公認が得られず比例転出を余儀なくされた候補者やその派閥には不満が残る。

 さらに比例単独候補59人のうち、当選の確率が高まる比例名簿上位で優遇された12人の決定プロセスを疑問視する声が出ており、ある現職閣僚も「なんでこの人が比例名簿の上位で評価されるのか」と怒りをにじませる。新政権発足の「ご祝儀相場」のまま衆院選に流れ、そして圧勝するとの岸田総裁のシナリオは危うく、接戦や苦戦の選挙区が増えるにしたがって「嫌な空気」が漂うようになっているという。

■2つめの理由は…


 そして、2つ目の理由は「3A」にある。9月の自民党総裁選で、国民の人気が高かった河野太郎前ワクチン担当相をおさえて勝利した岸田氏。その最大の勝因に安倍晋三元首相、麻生太郎党副総裁、甘利幹事長という「3A」の影響力があったのは今や国民が知るところだ。権勢をふるった二階俊博前幹事長から「キングメーカー」の座を奪い、人事や政策でも存在感を見せる「3A」。彼らに支えられ、岸田総裁は党内基盤を安定させたはずだが、一体何が起きているのか。

 首相官邸を担当する全国紙記者は、こう声を潜める。「党役員・閣僚人事、政策にも甘利幹事長の意向が大きく反映されています。それに比べて、最大派閥・細田派を事実上牽引する安倍元首相は意中の人物を官房長官にしてもらえず、思ったよりも岸田氏から距離を感じています。そりゃ、激怒してますよ」。

■安倍への露骨な嫌がらせ


 安倍氏は最側近の萩生田光一経済産業相を岸田総裁とのパイプ役に、人事や政策面での影響力を保持するつもりだった。しかし、その意をくみ取らずに岸田氏が官房長官に起用したのは萩生田氏ではなく、松野博一氏だ。松野氏は細田派所属ではあるが、麻生派幹部の甘利幹事長が2011年に結成した派閥横断グループ「さいこう日本」のメンバーでもある。ちなみに、このグループからは岸田内閣で山際大志郎氏や金子恭之氏ら4人の「甘利印」が閣僚に就いている。ある閣僚経験者には「安倍氏への露骨な嫌がらせ」に映るという。

 一言で「3A」といっても、もはやそのパワーバランスに微妙な変化が生じているというわけだ。岸田氏は先の総裁選で麻生派の河野氏陣営ではなく、自身の支持を固めた甘利氏に頭が上がらず、経済安全保障などの政策や人事でも「甘利カラー」を積極的に採り入れている。安倍氏と二人三脚で長期政権を築いた麻生氏も副総裁にまつり上げられ、もはや実質的に権力を握るのは甘利氏という「1A」状態にある。

 安倍氏に近いとされる産経新聞は10月28日、「自民・甘利幹事長試練 議席大幅減なら不満矛先に」と題する記事を配信。超スピード決戦となった衆院選で「結果を残せば求心力は高まるが、議席を大幅に減らせば責任問題に発展しかねない」としている。

 上には弱いが、下には高圧的との評もある岸田首相。その軸足が甘利氏に傾く中、くすぶる火種の後に安倍氏の怒りを感じる関係者は少なくない。総選挙後の力学の変化に神経をとがらせる財務省幹部からは「これでは権力者が二階氏から甘利氏に変わっただけ。総選挙後に一波乱あるのではないか」との声も漏れている。

取材・文 小倉健一 ITOMOS研究所所長

デイリー新潮取材班編集

2021年10月30日 掲載

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