なぜ君「小川淳也」は野党の“希望の星”になれるか 不安要素は「消費税」と「共産党」

【立憲民主党の代表選】後任候補に急浮上した小川淳也氏に不安要素2点を指摘

記事まとめ

  • 立憲民主党・枝野幸男代表の後任候補の一人に、小川淳也氏が急浮上している
  • 小川淳也氏は東大法学部卒の元総務官僚で、実家はパーマ屋の庶民派である
  • 代表選挙では共産党との共闘路線の是非が最大の焦点だが、小川氏は共闘に積極的

なぜ君「小川淳也」は野党の“希望の星”になれるか 不安要素は「消費税」と「共産党」

なぜ君「小川淳也」は野党の“希望の星”になれるか 不安要素は「消費税」と「共産党」

10月27日高松市内にて(撮影:青山和弘)

 あなたは「小川淳也」という政治家を知っていますか?

 去年6月公開の映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」の主人公として知った方、先日の衆院選で自民党の平井前デジタル担当相を小選挙区で破ったことで初めて名前を聞いたという方もいるでしょう。一方、「誰それ?」という方も依然少なくないと思います。

 小川氏は衆院当選6回の50歳。まだ知名度が高いとは言えませんが、今、立憲民主党・枝野代表の後任候補の一人に急浮上しています。「立民唯一の希望の星だ」と話す議員までいます。

 小川淳也とはどんな人物か。そして政策の方向性は。野党を政権交代可能な勢力として再生できる政治家なのか。2005年の初当選以来、16年の取材を元に考究します。【青山和弘/政治ジャーナリスト】


■選挙期間中に見せていたリーダーへの強い意欲


「この国の政治に欠けていたのは、国民に対する共感であり、国民生活を想像する力であり、思いやりであり、いたわりであり、真摯さであり、まじめさであることをコロナ禍が証明してしまったのではないでしょうか!」

 10月27日秋晴れの高松、小川淳也は枯れてきた声を絞り出していました。スーパーマーケットの前には平日昼にも関わらず100人以上の聴衆。福島県から演説を聞きに来たという親子連れもいました。会場の熱気から私は、小川氏の小選挙区での勝利は揺るがないと確信しました。

 おそらく小川氏自身も手応えを感じていたのでしょう、早くもこう語りだしました。

「野党を何としても政権の受け皿にしなければ国民は浮かばれない。日本の民主主義は本物にならない。近い将来、その先頭に立たせて頂きたいと思っています」

 聴衆を前に野党勢力のリーダーを目指す考えを示しました。さらに前日に応援に駆け付けた枝野代表が、映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」に触れて「総理になるためには自分が選挙に強くならなければならない」と激励されたことを披露しました。

 今回は2万票近くの差をつけて小選挙区で当選し、前回比例復活の雪辱を果たした小川氏。代表選出馬に向けた動きを今後加速させていくことは間違いありません。


■実家が「パーマ屋」の庶民派


 小川氏は東大法学部卒の元総務官僚という経歴の一方で、実家は「パーマ屋を経営する普通の家庭」だと強調しています。

「国民の悩みや不安を分かち合い、我が事として引き取れる政治は、庶民の間から根を生やすように生まれてくる政治勢力なんじゃないでしょうか!」

 街頭演説では対抗馬が政治家3世で地元メディアのオーナー一族であることを意識して、庶民の気持ちが分かるのは自分だと訴えかけます。

 小川氏がまだ当選1回の頃、ふと私も商売人の息子で実家は小売り酒屋だという話になりました。すると小川氏は嬉しそうにして「そういう生活の原点を持っていることが、政治を語る上で大事なんですよ」と熱く語っていました。

 当時から「誠実・実直・熱意」を全面に出した、将来を嘱望される議員だった小川氏。ただこのまま複雑な調整が迫られる政治の世界を渡って行けるのか、一抹の不安を感じたのも確かです。


■北欧型社会を目指し消費税25%を提唱


 野党のリーダーを目指す上で重要なのが具体的な政策です。小川氏の政策最大の特徴は、今の社会制度を転換して高福祉・高負担社会を目指す姿勢です。

 小川氏はかねてから超高齢化社会を迎える日本を、みんなで負担を分かち合い幸福度が高い北欧型社会に変えていかないといけないと主張し、そのために消費税の増税が必要だと訴えていました。そして2014年、『日本改革原案 2050年 成熟国家への道』(光文社)という著書を上梓。最低保障年金の導入と保険料負担の引き下げを条件に、消費税率を最大25%に引き上げることを提唱しました。これによって日本の持続可能性と国民の将来にわたる安心を獲得するというものでした。

 ただ小川氏は2021年、この本に増補原稿を加えました。ここでは引き続き消費税増税にも触れている一方で、現在の格差拡大やコロナ禍においては消費税減税を検討すべきと書き足しています。

 私はそんな小川氏が、今回の総選挙で立憲民主党が掲げた「消費税率5%に引き下げ」「年収1千万以下の所得税の実質無税」「低所得者に年12万円支給」といった壮大な分配政策をどう捉えているのかとても気になりました。選挙前に尋ねてみると「コロナ禍とはいえあまりに大盤振る舞いで、有権者に本気じゃないと見られる。唐突な政策だ」と厳しい評価でした。もっとも、小川氏は私が訪れた街頭演説でもこうした党の公約にはまったく触れていませんでした。

 代表選挙では消費税を含む税制と分配を含む経済政策のあり方が必ず争点になるでしょう。ポストコロナに向けた対策をどうするのか。そして持論の高負担高福祉社会をいつからどの程度目指すのか。小川氏の政策の現実性・実現性が質されることになります。


■共産党との共闘に積極的


 そして小川氏の政治姿勢で目に留まるのは共産党との共闘に積極的なことです。小川氏は常々「自民党と本気で対抗するために野党候補の一本化は必要だ」と語っています。

 2016年の参院選、小川氏は民進党香川県連の代表として香川選挙区の野党候補を共産党候補者に一本化する先頭に立ちました。共産党候補への一本化は香川県だけで当時話題となりました。この時小川氏は共産党香川県委員会に歩み寄りを求め、「日本社会に必要なのは社会主義的変革ではなく資本主義の枠内での民主的改革」「日米安保条約の破棄や自衛隊の解消と言う政策は持ち込まない」「天皇制を含めた現行憲法の全条項を守る」などの確認書を交わしました。

 私はこの小川氏の前のめりな姿勢を懸念して、議員会館を訪ねました。そして「共産党と組むと民進党がどんどん浸食され、左傾化するんじゃないか」と率直に尋ねました。それに対して小川氏は「僕は変わって行くのは共産党の方だと思う。欧州のような共産党の現実化・中道化は時代の流れでしょう。欧州も入り口は選挙協力でした。今回はその第一歩ですよ」と話していました。

 欧州ではユーロコミュニズムと言われる共産党がソ連共産党と距離を置く動きが広まり、イタリアでは1990年代に共産党が解党して左翼民主党になり、「オリーブの木」という連立政権に参加しました。しかしあの参院選から5年。日本共産党は選挙協力にはさらに積極的に応じるようになりましたが、党名の変更はもちろん、綱領の抜本的な改定には踏み切っていません。

 代表選挙では共産党との共闘路線の是非が最大の焦点になります。比例代表で大きく議席を減らした今回の選挙結果を受けても、小川氏は共闘しながら共産党に中道化を求める立場を貫くのか、厳しく問われることになるでしょう。


■期待を集めるか見放されるか


 映画でも描かれた小川氏のまじめさや正義感は、立憲民主党が失った信頼や期待感を取り戻す可能性を感じさせます。一方で、ある立憲民主党のベテラン議員は私にこう語りました。

「小川さんがこの難しい局面で代表になったら間違いなくつぶれる。粗削りだし軽すぎる。そこが魅力でもあるんだけど」

 まだ小川氏が推薦人20人を集めて代表選に出馬できるかは分かりません。ただもし立候補に漕ぎつけた場合、小川氏がイメージだけでなく具体的にどのような政策や方向性を掲げるのか。それによって出てくる異論や批判にどう応えるのか。そして立憲民主党の議員、国民は小川氏の主張について行くのか、行かないのか。

 野党の信頼回復・再生への道のりは果てしなく遠く険しいものです。しかし誰かがやらねば、日本の民主主義に希望はないのです。

青山和弘(あおやま・かずひろ)政治ジャーナリスト
1968年、千葉県生まれ。東京大学文学部卒。92年、日本テレビ放送網に入社し、94年から政治部。野党キャップ、自民党キャップを歴任した後、ワシントン支局長や国会官邸キャップ・解説委員を務める。与野党を問わず幅広い人脈を持つ。本年9月からフリーの政治ジャーナリスト。

デイリー新潮取材班編集

2021年11月8日 掲載

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