「日本人は先進国の中で最も他人を信頼していない」という調査を深刻に考えるべき理由

「日本人は先進国の中で最も他人を信頼していない」という調査を深刻に考えるべき理由

岸田首相の今後の経済政策が注目されている

■それとも「改革」か


 衆議院選挙で自由民主党が勝利した。岸田文雄総理が経済政策に「新しい資本主義」を唱えていることから、「成長」と「分配」のどちらを優先させるべきかが議論となっている。衆議院選で日本維新の会が議席を大幅に伸ばしたことから、「国民は改革を求めている」との指摘もある。

「成長」か「分配」か、それとも「改革」か。望ましい資本主義のあり方を巡っての論争は大いに結構だが、筆者は「3つのキーワードを有効に機能させる第4のキーワードがあるのではないか」と考えている。そのキーワードとは「信頼」だ。

 まず第一に、「成長」と「信頼」の関係を見てみたい。

 そもそも資本主義社会は信頼を基本として成り立つ社会だ。他人への信頼が高い社会であれば、経済取引が円滑に進みやすい。経済学では近年、「人々の互恵的な考え方や他人への信頼の程度が経済成長に影響を与える」という研究結果が報告されている。その研究によれば、「他人は信頼できる」と考えている人の割合が高い国は、そうでない国と比較して経済成長率が高かったという。興味深いのは「もともと他人への信頼が高い国が、大きな経済成長を実現していた」という関係は確認されたものの、「経済成長したから他人への信頼が高くなった」という関係は認められなかったことだ。


■「信頼」が最も重要な要素


 次に「分配」と「信頼」だ。他人への信頼が低い(互恵的な考え方が浸透していない)国では、自らが稼いだ金銭を他人のために利用されることへの抵抗感は強いだろう。

「改革」と「信頼」の関係についても、相互の信頼感が醸成されていない国では、「身を切る」改革を断行するための国民的なコンセンサスを形成することは難しい。

 資本主義が有効に機能するためには、「信頼」が最も重要な要素なのだ。

 資本は通常、(1)金融資本(現金や株式など)、(2)物的資本(建物や設備など)、(3)人的資本(労働者の能力など)に分けられる。だが「信頼」の重要性が認識されたことで、「社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)」という概念が生まれている。社会関係資本とは、他人への信頼や「持ちつ持たれつ」などで表現される互酬性の規範、人々の間の絆である「ネットワーク」を指す言葉だ。


■最も他人を信頼していない


 残念ながら、日本のソーシャル・キャピタルは世界的に見てお粗末な状態にある。

 英国のレガタム研究所が発表している「レガタム繁栄指数」の項目に、「ソーシャル・キャピタル度」がある(ギャラップの世論調査などから指標を作成)。2020年の結果を見てみると、日本は167カ国中、総合指数では19位なのに、ソーシャル・キャピタル度の項目では140位と振るわない。世界の社会科学者が実施している「世界価値観調査」でも、日本人の他人への信頼度は年を追う毎に低下し、「先進国の中で最も他人を信頼していない」ことが明らかになっている。米国やドイツと比較すると、日本人が何らかの組織に参加(社会参加)している人が少ないこともわかっている。

 日本人はけっして他人に対して冷たいわけではないと思う。地縁組織などへの参加率が低下していることからわかるように、既存の社会制度が消滅しつつある今、日本人は他人との関係をどうしてよいのか困っているのではないだろうか。

 欧米では相互扶助とケアで成り立つコモンズ(人々が共同で管理し共有する資源や生活システム)をベースにして、社会を再構築しようという動きが活発化しつつある。その対象は従来の土地や水などにととまらず、医療や介護、子育てなどに及んでいる。コミュニケーションや実験などを重ね、互いに支え合い、話し合いながら、共有の資源をつくり、維持していくプロセスを指す「コモニング」という言葉も生まれている。


■協同労働の輪が広がれば


 企業による雇用に代わる「協同労働」という働き方に注目が集まりつつある。協同労働とは労働者1人1人が出資(一口3〜5万円)して、経営方針について話し合い、各自の意見を反映させるというワークスタイルだ。日本でも高齢者福祉や学童保育などいわゆるエッセンシャルワークの分野で協同労働が広まりつつある。だが法的な枠組みが整備されていないことから、これまでのところ、NPO法人などの制度が活用されている。「お金もノウハウもみんなで出し合う」やり方は、他人を信頼するための良きトレーニングの場になるというメリットもあるだろう。

 11月2日、筆者が訪問したあゆみケアサービス(東京都墨田区、組合員25人)は、訪問介護や通所介護の事業を展開している。ユニークなのは利用者の遺体引き取りや葬式を手掛けたことをきっかけに、組合員や利用者のための共同墓を埼玉県川越市のお寺に設立した点だ、季節の節目毎に供養(酒盛り)を行っている様は、協同労働を基盤に擬似的な家族のような安心感が醸成されていると言っても過言ではない。

 昨年12月、超党派の議員が提出した「労働者協同組合法」が成立し、来年10月から日本でも労働者協同組合は設立できるようになる。1年後の法施行に向け、全国各地で設立準備が進んでいるという。

 岸田総理のお膝元である広島県広島市は、2014年から「協同労働プラットフォーム」モデル事業を開始している。100万円を上限に立ち上げ費用の半額を補助しており、今年3月末時点で19団体が活躍している。東京都特別区(23区)でも同様の動きが出ている。

 協同労働の輪が広がれば、日本のソーシャル・キャピタルの水準は向上する。そうなれば資本主義のパフォーマンスは自ずと上がると思う。

 ソーシャル・キャピタルの充実を支援することが、新しい資本主義構築のために最も重要な第一歩になりうるのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮取材班編集

2021年11月11日 掲載

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