日大事件の教訓はどこへ…「学校法人ガバナンス改革」を私大経営者と文科省が骨抜きにしようとしている

日大事件の教訓はどこへ…「学校法人ガバナンス改革」を私大経営者と文科省が骨抜きにしようとしている

「学校法人ガバナンス改革会議」の様子はユーチューブで確認することもできる

■会議はまさに“バトル”


 12月3日、文部科学省に設置された「学校法人ガバナンス改革会議」は、最終報告書をまとめた。役人の「腹話術」と揶揄される役所の審議会は、有識者のご意見を拝聴したうえで、役人が報告書を書き上げるのが通例となっている。ところが、改革会議では座長(増田宏一・元日本公認会計士協会会長)自らが報告書を執筆、役所には一切触れさせないという異例の展開になったという。対する文科省は、この報告書を何とか「骨抜き」にしようと必死だ。会議関係者が明かす。

「3日の会議では文科省私学部長の説明に座長が声を荒げ、委員からも批判の声があがる“バトル”の様相を呈していました。文科省が座長に用意したペーパーに、報告書のとりまとめが終わった後、最後に事務方が発言して、報告書をパブリック・コメントに付すことを委員に伝えると書かれていたからです」

 パブリック・コメントというのは行政手続法に定められたもので、省庁が省令などルールを作る際に一般に意見を聞く手続きだ。

「“一般”と言えば聞こえは良いが、役所側の都合の良い意見を利害関係者に提出させる仕組みです。通常、審議会など民間有識者の報告書にパブリック・コメントを付けることはありません。この件では、私学関係者の意見を文科省が選択するであろうことは見え透いていました。座長はそれを“暴露”し、報告書をパブリック・コメントに付すなど聞いたことがない、私は反対だが、皆さんどうか、と発言したのです。初めてそれを聞いた委員も猛反発。私学部長は最後まで抵抗していましたが、結局、パブリック・コメントに付す件は撤回されたのです。

 これまで私立大学経営者は報告書の内容には反対で、文科省の課長クラスを呼びつけては『何とかしろ』と迫っていました。文科省は『最後、法案にするのは文科省の仕事ですので、ご安心ください』と説明していたといいます。つまり、法案化の過程で私学経営者に有利に進めようとしていたのですが、役所が独断で報告書の内容を変えるわけにはいきません。そのためパブリック・コメントという裏技を考えたのでしょう」(同)


■大学はおいしい存在


 そんな役所の姑息な対応が、座長らに見抜かれてしまった。改革会議のメンバーのひとりが話す。

「文科省は私立大学経営者の言いなりです。文科省と言えば、2017年に組織的な天下り斡旋による公務員法違反で、歴代事務次官らが大量に処分されました。当時の前川喜平事務次官が停職相当の処分を受ける直前に退職したことも話題になりました。

 私立大学は早稲田大学が年間約100億円、日本大学が約95億円の助成金を受け取っており、文科省からはかなり多くの人数がこれらの大学の職員として天下っていました。各省庁の官僚たちは退職後に教授に転職するケースも多く、大学はおいしい存在です。そのため、受け入れの決定権を握る大学理事長とは“蜜月”になるわけです」

 それにしても、改革会議が提出した報告書は大学経営者がこぞって反対するほどの内容なのか。取材しているジャーナリストが説明する。

「いえいえ、一般の財団法人や社会福祉法人と同等のガバナンス体制に変えると言っているだけで、実際は大した内容ではありません。ちなみに財団法人は全国に5000以上もある。理事の選解任権を評議員会に持たせることや、決算や予算、重要な財産の処分などで評議員会の議決が必要になるだけです。税制上の恩典を受けているうえ、国民の税金から多額の補助金をもらっている大学が透明なガバナンスを求められるのは当然のことでしょう」


■税金をむしり取る鉄のトライアングル


 にもかかわらず、報告書をつぶそうとするのはなぜか。

「学校法人は理事長に権限が集中していて、何でもできます。理事もイエスマンで固め、評議員会もけん制機能をもっていません。日本大学の田中英寿理事長(逮捕後辞任)が、元理事の井ノ口忠男被告から妻などを介して多額の現金を受け取っていたのではないかと見られていますが、他の大学でも似たようなことが繰り返しおきています。ガバナンスの仕組み自体に欠陥があるのです」(同)

 もともとこの改革会議が設置されたのは、相次ぐ不祥事を受けて政治が動かざるを得なくなったためだ。そのため、財団法人や社会福祉法人など他の公益法人と同等のガバナンスを導入すると骨太の方針に盛り込まれ、閣議決定されてもいる。

「ところが、文科省はまったくやる気がなく、3月に報告書を出した有識者会議でも踏み込んだ改革案は示せませんでした。大学経営者がメンバーに入り、反対していたので当然です。そこで、今回の会議は政治主導で大臣直属の会議体として設置され、弁護士や会計士、学者などガバナンスに詳しい専門家だけが集められました」(同)

 世間一般から見れば、学校法人の改革は当然のことと思えるが、大手新聞の文科省担当記者は、「改革できるかどうか、微妙なところでしょう」と語る。

「改革会議は萩生田光一前文科相が事務方を抑えて設置させたのですが、岸田内閣で就任した末松信介文科相はまだ状況がつかめていないようです。大臣の記者会見でも事務方の振り付け通り、『改革会議の報告書はひとつの意見』と発言していました。要は“参考程度”にするということなのでしょう。しかも、大臣に報告書を手交することになっているのに、座長が繰り返し求めても事務方は日程調整もせず、記者会見も設定しない『抵抗』に出ているそうです。自民党の文科部会でも『(報告書の)改革案を白紙に戻せ』といった声が出ており、大学経営者からの働きかけを受けて反対に回る議員は多そうです。政治と官僚と大学経営者の“政官業の癒着”と言っても過言ではありません。まさに鉄のトライアングルが国民のカネをむしり取っている構図と言えます」

デイリー新潮編集部

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