憲法改正の本音を改憲勢力4政党のキーマンが語る 硬直する自民…国民・玉木代表は「野党も議論すべき」

憲法改正の本音を改憲勢力4政党のキーマンが語る 硬直する自民…国民・玉木代表は「野党も議論すべき」

玉木雄一郎氏

 先の総選挙における維新・国民の躍進によって、にわかに現実味を帯び始めた「改憲」の2文字。国難の渦中にもたらされた“好機”を前に、ハト派で知られる岸田文雄総理は確固たる覚悟を示すことができるのか。改憲勢力4政党のキープレーヤーが本音を明かす。

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「党是である改憲に向け、精力的に取り組んでいく。与野党の枠を超え、憲法改正の発議に必要な国会での3分の2以上の賛成を得られるよう議論を深めたい」

 11月1日、自民党本部での記者会見で、岸田文雄総理はそう語気を強めた。

 日本国憲法が1946年に公布されてから11月3日で75年が経過したことになる。その間、“改憲”は常に議論の的となってきたが、いまだ憲法の条文は一文字として書き換えられていない。歴代最長政権を率い、改憲に意欲を見せ続けた安倍晋三元総理ですら、それを成し遂げることはできなかった。

 だが、日本維新の会や国民民主党といった改憲に前向きな勢力が総選挙で躍進したことで、事態は風雲急を告げつつある。

 議席を約4倍増させて勢いに乗る、維新の馬場伸幸共同代表が語るには、

「日本国憲法は今年で75歳を迎えたわけですが、いまだに幼児の服を着続けている状況やと思うんです。憲法の基本は国民主権なのに、当の国民は一度も憲法を審判したことがない。これはもはやブラックジョークやないですか。75年前と現在の日本では国民生活も大きく変わっている。当然ながら、時代に合わせて憲法を改めていく作業は必要と感じます。しかも、維新や国民民主党のように憲法審査会を開くべきだと訴える野党が現れた。これでも議論を進められんとなったら、それはむしろおかしな話やと思いますね」


■改憲の二つのハードル


 そもそも、憲法を改正するには次のようなプロセスを踏む必要がある。

 まず、一定数の国会議員が憲法改正原案を提案し、衆参両院に設置された憲法審査会で審査が行われる。この改正原案が、両院の本会議において「3分の2」以上の賛成で可決された場合、国会は憲法改正の発議を行い、国民投票に至る。そして、国民投票での賛成が2分の1を超えると、総理大臣は直ちに憲法改正公布の手続きを取ることになる。

 今回の選挙で自民党は単独過半数を超える261議席を獲得。連立を組む公明党は32議席で、ここに日本維新の会(41議席)と国民民主党(11議席)を合わせると、改憲勢力だけで345議席に達し、「3分の2」を超える。同じく参院でも要件を満たしている。

 加えて、NHKが今年5月に行った世論調査では、憲法改正に向けた議論を「進めるべき」との回答が54%を占め、「進める必要はない」の2倍にのぼった。

 その上で、岸田総理が「精力的に取り組む」と明言したのだから、“機は熟した”と言うべきだろう。

 それでは、本当に改憲は実現するのか――。

 目下、取り沙汰されているのは、その前提となる“二つのハードル”だ。

 まずは、憲法審査会で熟議を積み重ねて国民の理解を深める必要性。次に、自民党内に加え、他の改憲勢力の間でも改憲の“中身”について見解が割れるなか、ハト派で知られる宏池会の領袖・岸田総理が、確固とした覚悟で議論を牽引できるのかという点である。


■「中山ルール」


 改憲を結党以来の党是に掲げる自民党は、党内に設けられた憲法改正推進本部を「憲法改正実現本部」に改称し、前向きな姿勢をアピールする。

「今年6月には改正国民投票法も成立して改憲への道筋が整いました。重要なのは各党が憲法改正原案を作成し、憲法審査会に持ち寄って議論を前に進めることに尽きる。これは主権者たる国民に対する責務です」

 そう断じるのは、衛藤征士郎・前推進本部長だ。

「現在の憲法はGHQがおよそ1週間余りで作った草案をもとに作成され、それが一度も変更されることなく戦後76年を迎えてしまった。その間に、日本と同じ第2次大戦の敗戦国であるドイツは65回、イタリアは16回も憲法を改正しています。しかし、日本だけは遅々として話が進まない。憲法審査会の前身に当たる憲法調査会が国会に設置されたのは2000年なので、すでに20年以上も議論を積み重ねてきた。にもかかわらず、ある会派が反対したら、週に1度の定例会すら開かれない状況が続いてきました」

 その背景には、衆院憲法調査会の初代会長・中山太郎元外相が考案した紳士協定の存在がある。憲法審査会の運営は基本的に与野党の合意を必要とするため、与党は「中山ルール」に則り、野党が開催を拒めば、無理に会合を開かないよう配慮してきたのだ。


■玉木氏は「議論そのものを避ける風潮は改めるべき


「ただ、共産党のように憲法には一切手をつけたくない、議論もしないという態度はいかがなものか。中山先生が会長を務めた時代とは憲法を巡る情勢も大きく変化しています。会合は満場一致ではなく、賛成多数であっても開催すべきでしょう」(衛藤氏)

 この点については国民民主党の玉木雄一郎代表も理解を示す。

「改正に反対する立場であっても、議論そのものを避ける風潮は早急に改める必要があります。我々は議論を尽くすために国会議員の身分を頂戴しているのですから、定例日に憲法審査会を開くこと自体が大きな争点になっている現状は異常と呼ぶほかありません。折に触れて国会を“開け”と与党に迫る野党が、憲法審査会についてのみ“開くな”と言うのでは筋が通らない。まずは議論の場を確保して、コンセンサスを形成することが大事だと感じますね」

 また、公明党の北側一雄副代表も、

「わが党は、国民主権・基本的人権の尊重・平和主義という憲法の3原則を守りつつ、時代の進展に伴う新しい価値観を憲法に加える“加憲”を掲げていますが、積極的に憲法論議を進めていく立場に変わりありません。憲法審査会でしっかりと論議を積み重ねることが大事なので、まずは週1回の定例日に審査会を必ず行う。その上で、テーマと優先順位を決めて、可能な限り広く合意形成に努めるのが肝要だと思っています」


■自民党の改憲案は


 しかし、憲法審査会での議論が本格化しても、ゴールにたどり着くには別の関門が立ちはだかる。

 改憲勢力の間でも具体的に“何を変えるのか”という点で、足並みが揃っているとは言い難いからだ。

 自民党は安倍政権下の2018年に「4項目」の改憲案をまとめた。その内容は以下の通りである。

(1)9条への自衛隊明記

(2)緊急事態対応の強化

(3)参議院の合区解消

(4)教育環境の充実

 先の衛藤氏によれば、

「自民党としては、憲法の基本3原則は堅持しながら憲法改正をしようと考えています。誤解されている方もいるようですが、憲法全文を変更するのではなく、あくまでも個別の改正と、条項の修正です。9条にしても全てを書き換えるわけではありません。その上で、国防は国家存立の基本なので“自衛隊明記”から手をつけたい。具体的には、新たに〈国及び国民の安全を保つために内閣総理大臣を指揮監督者とする自衛隊を保持する〉〈自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認などの統制に服する〉といった条文を書き加えるべきと考えています」

 さらに、自民の茂木敏充幹事長も読売新聞のインタビュー(11月12日付)において、

〈新型コロナウイルス禍を考えると、緊急事態に対する切迫感は高まっている。衆参の憲法審査会で手順を決めることになるが、具体的な議論に入ることが必要だ〉

 と、緊急事態対応の重要性を強調した。


■自民と公明はなぜ足並みが揃わないのか


 だが、公明党の北側氏は次のように指摘する。

「自衛隊を明確に位置付けたいという自民党の考え方は分かりますが、多くの国民は自衛隊の活動を理解し、当然のように合憲と捉えていると思うんです。ごく一部に自衛隊を違憲とする声があるからといって、憲法を改正する必要性については疑問が残ります。むしろ、日本最大の実力組織である自衛隊をどう民主的にコントロールするのか、指揮権は一体どこにあるのかとの観点であれば議論することはできると思います」

 長年かけて自衛隊が国民に親しまれ、認められてきたのだから憲法にきちんと明記すべしとする自民党と、だからこそ、わざわざ明確に位置付けることに慎重な姿勢を崩さない公明党。

 前提は同じであるはずなのに、あべこべな主張になるとは何ともおかしな話である。

 続けて、緊急事態条項については、

「たとえば、衆議院議員の任期が切れそうなタイミングで大災害が起きたとして、現実的に選挙は実施できない。その場合に一定程度、任期を延ばす仕組みなどは検討に値するでしょう。ただ、私権の制限については、現状で何もできないということではありません」(同)

 たしかに、居住、移転および職業選択の自由を規定した憲法22条には、〈公共の福祉に反しない限り〉との制約が付されている。

「加えて、災害対策基本法や、感染症法にも国民の権利を制約する手続きと、その範囲が定められています。憲法を改正すれば全てがうまくいくわけではないし、災害と疫禍では対応も全く異なるので、重要なのは平時のうちから危機管理法制を見直していくことだと考えています」(同)


■「公権力が自由に私権制限できる現状が問題」


 他方、玉木氏は自民党の訴える9条改正について、「実務面から見れば改正の必要性はなくなっている」と説く。安倍政権は2014年に閣議決定をもって、集団的自衛権の行使を認める憲法の解釈変更を行っているため、

「喩えて言えば、ライオンはすでに檻の外に出てしまっているわけです。そのため、単に古い檻を守る議論にはもはや意味がない。いま必要なのは新たな檻をどう作るのか、つまり、軍事的公権力の行使をどこまで認めるのかという議論です。また、自民党が主張するような、単に政府の権限を強化するだけの緊急事態条項の創設には反対です。むしろ、公権力が自由に私権制限できてしまう現状の方が問題です」

 実際、コロナ禍では何度となく緊急事態宣言が繰り返されており、

「何カ月にもわたって営業の自由が奪われ、十分な補償もないまま私権制限が行われました。その意味で、権力の行使に一定の歯止めをかけるための基本ルール作りは重要になる。そうした観点での緊急事態条項の議論は国会でやるべきでしょう。憲法以外の法律は国民を規制しますが、憲法は公権力を縛る法です。だからこそ、国民と共に議論しながら作り上げることが大事なんです」


■ハト派総理への期待と不安


 では、党の基本政策で、〈憲法9条についても、平和主義・戦争放棄は堅持した上で、正面から改正議論を行います〉と謳う維新はどうか。馬場氏が語る。

「9条改正に関して新しい条文立てをする、2項を削除する、3項を追加するなど、かなり争点が絞られています。ただ、改憲に向けて9条を最優先させるべきとまでは考えていません。緊急事態条項にしても、非常時における国会議員の身分や任期をどうするのかって話で進めるんなら、それは悪手ですよ。史上初の国民投票で、国民の暮らしや問題意識と乖離したテーマを持ち出しても“自分らには関係あらへんがな”と受け取られてしまうだけ。それよりも、高校・大学までを含めた教育無償化や、道州制の導入で東京一極集中を是正する統治機構改革といったテーマを先行させるべきやと思いますね」

 かように国会外では百家争鳴の状態。反対勢力を押し切ったとして、改憲勢力のなかで合意を形成することは困難な作業と言わざるを得ない。だが、中国や北朝鮮をはじめとする周辺国の情勢が大きく変化し、歴史的な疫禍にも見舞われている現在、国家の根幹を成す憲法を問い直す議論は不可欠だろう。先の玉木氏は、

「これまで立民や共産は“安倍政権下での改憲”に強く反対してきました。その点、ハト派とされる岸田総理が就任したことで冷静に議論を進められる環境になったのは事実。今後は野党も議論そのものを否定してはなりません」

 と期待を滲ませる。

 だが、馬場氏は自民党の姿勢に少々懐疑的だ。

「自民党が積極的になれへん理由のひとつは、国民投票を行ったものの否決されてしまった場合に、時の政権が吹っ飛ぶんじゃないかという恐怖感にあると思うんです。一世一代の大勝負というかね」


■「安倍さんのスタンスが見えない」


 先日、自民党との二幹二国(双方の幹事長と国対委員長による)の会談に臨んだという馬場氏は、

「定例日にきちんと憲法審査会を開くよう自民党にリーダーシップを発揮してほしいと伝えたら、茂木幹事長は“ご意見を受け止めて前向きにやっていきます”と仰っていた。しかも、岸田総理も意欲を示されている。これで何もやれへんかったら、自民党が“やるやる詐欺”と批判されても仕方ないやろね」

 一方、自民党最大派閥の清和会は、細田派から安倍派に衣替えした。安倍氏のスタンスを考えれば、今後の改憲議論にも影響を与えそうだが、派閥の幹部は周囲にこう漏らしている。

「安倍さんは極めてプラグマティック(実利を重んじる)な性格だから。どこまで憲法改正を推していくのか見えないところがある」

 また、政治部デスクはこう指摘する。

「安倍さんと違って、岸田さんはこれまで改憲には慎重な姿勢を崩さなかったが、安全保障政策については保守的な部分があるし、保守層からの支持を取りつけたい意図も見え隠れする。また、総理としてのレガシーを考えた時に、自民党結党以来の宿願である改憲を成し遂げることへの色気もあるはず。ただ、新型コロナ対策や経済立て直しといった喫緊の課題と同時に、国民世論を二分しかねない改憲議論を推し進めるのは相当困難だと思います」

 各党のキーマンからは“四者四様”の意見が飛び出し、着地点は見出せない。

 これまで時代が変化しても憲法は1ミリも変わらなかった。図らずも環境が整い、機が熟したというのに、いざとなったらその本気度に疑問符が付く自民党。憲法における自衛隊の位置付けを曖昧にしたい姿勢が透けて見える公明党。奇妙な按配に苦笑するほかない。これを得意の“聞く力”だけでまとめるのは至難の業。果たして、岸田総理は疫禍の最中にもたらされた“好機”をものにできるのか。

「週刊新潮」2021年12月9日号 掲載

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