笑顔のシバきあい…岸田首相は「脱アベ政治」で自民党内に流れる不穏な空気

岸田文雄首相が『脱アベ政治』 『史上最強の評論家』ぶりを発揮の安倍晋三氏に不満か

記事まとめ

  • 岸田文雄首相は安倍政権時代の『看板』をことごとく修正し、一定の距離を置いている
  • 岸田首相は『史上最強の評論家』ぶりを発揮する安倍晋三氏をうるさく感じているという
  • 一方、安倍氏も自分を否定するような岸田首相の動きに不満を持っているらしい

笑顔のシバきあい…岸田首相は「脱アベ政治」で自民党内に流れる不穏な空気

笑顔のシバきあい…岸田首相は「脱アベ政治」で自民党内に流れる不穏な空気

岸田文雄首相、安倍晋三元首相

 内閣支持率が上向く岸田文雄首相が「脱アベ政治」に舵を切り始めている。自民党総裁選で存在感を発揮した安倍晋三元首相は最大派閥のトップとして影響力を誇示するが、岸田首相は安倍政権時代の「看板」をことごとく修正し、一定の距離を置くスタイルに変化させているのだ。政権発足直後は「3Aの操り人形」とも揶揄された岸田首相が汚名返上へ脱皮しようともがいているように映る。

 9月の総裁選で麻生太郎前財務相、甘利明元経済再生相、安倍元首相の「3A」が岸田氏勝利に貢献したことは知られている。その論功行賞で岸田氏は麻生氏を党副総裁に、甘利氏は幹事長に起用したものの、残る安倍氏だけは無役のまま据え置いた。

 その裏側を岸田派議員の一人は「安倍氏は総裁選で高市早苗政調会長を全面支援した。下手をすれば高市氏に敗北していたわけですから、敵陣の大将をそこまで大切にする必要はないでしょう」と解説する。岸田氏は党役員人事や閣僚人事でも、安倍氏が期待した「萩生田光一官房長官、高市幹事長」案を無視。萩生田氏は経済産業相、高市氏は党三役の政調会長に就くことができたものの、安倍氏が率いる「清和政策研究会」(安倍派)からのポストは減ることになった。

 今後の政権運営や来年夏の参院選を見据え、自民党内には首相と安倍氏の間のすきま風を不安視する向きは少なくない。だが、安倍氏からの「禅譲」を期待したものの裏切られた岸田首相の苦い思い出はそう簡単には消えないようだ。11月に安倍政権の看板政策を進めた部署を相次いで廃止したかと思えば、最近は「脱アベ」宣言とも受け取れる言動をこれでもかとばかりに繰り返しているのである。


■桜を見る会、アベノマスクを“批判”


「大いに反省すべき点があるし、二度と起こしてはならない」。岸田首相は12月14日の衆院予算委員会で、安倍政権で問題視された政府主催の「桜を見る会」について、「少なくとも、私の内閣において開催することは考えておりません」と断言した。その理由として挙げたのは、招待基準の曖昧さや招待者数が膨れ上がっていたことなどで、いずれも安倍政権時代に国民からの厳しい批判を招いた点だった。

 首相の修正は、安倍氏肝いりの「アベノマスク」にも及ぶ。今年3月末時点で約8200万枚(115億円相当)が未配布のまま倉庫に眠る「アベノマスク」は、安倍政権が新型コロナウイルス対策の一環として国民配布用に調達した布マスクだ。大量の在庫の保管費用が6億円以上に上っていることも問題になっている。岸田首相はこの「失政」を当てこするように、「検証すべき、または反省すべき点があったということは、しっかり受け止めなければならない」と強調する。

 嫌がらせを嫌がらせで返すような両者の関係は本当に大丈夫なのか。自民党担当の全国紙政治部記者が語る。

「そもそもリベラル系の岸田氏と保守系の安倍氏は合わないんですよ。首相退任後、野にいる安倍氏は保守系議員をまとめて対中外交などで『史上最強の評論家』ぶりを発揮していますが、そういうのも岸田首相はうるさく感じているとは思いますよ」

 香港や新疆ウイグル自治区の人権問題などをめぐり、来年2月の北京五輪に政府高官らを派遣しない「外交的ボイコット」。米国や英国などでボイコットの動きが広がる中、岸田政権は「適切な時期にオリンピック、パラリンピックの趣旨、精神、外交上の観点といった諸般の事情を総合的に勘案した上で、国益に照らして自ら判断する」(首相)との立場を崩していない。


■中国、財政でも…


 真っ向から対立するのは安倍元首相で、12月13日のBS日テレの番組では「中国に対する政治的メッセージは日本がリーダーシップをとるべきだ」と指摘。その上で「時を稼いでどういう利益があるのか。日本は結局、物事を決められないのではないかと思われてはならない」と語り、判断に時間をかけている政権に圧をかけていると受け止められている。

 安倍氏ら保守系議員は、林芳正外相の早期訪中にも「誤ったメッセージになる」と再考するよう求めている。これに対して、福田達夫党総務会長は「国益を守るためにも、関係づくりをしなければならない相手に外相の職務を果たすのは当たり前だ」と反発。岸田氏と総裁選で争った河野太郎党広報本部長も「威勢のいいことを言っておけば良いとの無責任な声が増えているのは、大いに懸念しなければならない」と対中強硬派を強く牽制し、首相陣営と元首相陣営の溝は広がる。

 財政政策をめぐっても両者のスタンスは遠く、首相は党総裁直轄機関として財政規律を重んじる「財政健全化推進本部」(本部長・額賀福志郎元財務相)をスタート。一方の安倍氏は積極財政派が顔を並べる「財政政策検討本部」(本部長・西田昌司参院議員)の最高顧問に就いた。検討本部を自らの下に発足させた高市氏は「財政健全化を強く主張される方々が総裁の周りを固めており、政調会長への風圧は今かなり強い」とこぼすほどである。

 岸田首相の政権運営について、安倍氏は12月1日の日経新聞のインタビューで「政権が代わればそれまでの政権と違うものを期待される。その要請にこたえるのもトップリーダーの役割だ」と理解を示している。だが、宏池会を担当した全国紙政治記者は自民党内の雰囲気が不穏なものになりつつあると証言する。

「表向きは安倍氏も長期政権になってほしいとかにこやかに言っていますが、自分を否定されるような動きに腹の中は面白くないと思いますよ。岸田首相からすれば、憲法改正も、北方領土問題も、北朝鮮による日本人拉致問題も、あれだけ安倍氏は長期政権を担ったのに何一つ解決しなかったではないかとの思いを抱いているのではないでしょうか。積み残された宿題を着実にやっていこうというのに、自分のことを棚に上げて『辞めた後に、評論家みたいに騒がないでくれよ』という感じだと思います」

 宮澤喜一元首相以来30年ぶりに宏池会から誕生した国家の最高権力者と、最大派閥の「数」を背景に政権を操縦したい元首相。権力闘争が日常茶飯事の永田町とはいえ、そのパワーゲームは近年にない壮絶なものとなっている。

小倉健一(おぐら・けんいち)
イトモス研究所所長。1979年生まれ。京都大学経済学部卒。国会議員秘書からプレジデント社入社。プレジデント編集長を経て2021年7月に独立。

デイリー新潮編集部

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