「金持ちが豊かになれば国が豊かになる」は間違いだ 石破茂元幹事長の考える成長への前提

「金持ちが豊かになれば国が豊かになる」は間違いだ 石破茂元幹事長の考える成長への前提

石破茂氏

 経済成長が重要である――どの政権もこう訴えるのだが、成長を多くの国民が実感することはこの十数年なかったのではないか。日本は物価も安いが賃金も安い、という状況から脱することはできていない。

 一体どこに間違いがあるのか。どこに解決策はあるのか。

 石破茂元自民党幹事長は、「大企業が儲かると最終的に国民が豊かになる」といった考え方に疑問を呈する。石破茂の異論正論、第18回である。


■地方創生しかない 石破茂の異論正論(18)


 岸田内閣は「新しい資本主義」をキャッチフレーズとして、新しい成長戦略を考えていく方針を打ち出しています。

 それがいかなるものなのか、現時点で詳細は不明ですが、我が国の成長につながるものであってほしいと心から願います。

 一方で、先日の総裁選での議論を含め、このところの政策論議では、地方創生の観点が抜けているように感じられるのは残念なことです。少子高齢化やそれに関連するGDPや消費の伸び悩み、地方と都市あるいは富裕層と中間層との格差の拡大等々、経済に関わる課題の多くを解決するには、地方の持つ多くの潜在力をその核とすることが欠かせないと考えているからです。

 国交省の作成した資料によれば、全国で一番可処分所得が少ないのは東京になる、ということは以前ここで書きました。簡単に言えば、見かけの所得は多くても、衣食住に関わるコストを引き、さらに通勤時間をコストとして考慮すると、東京での暮らしは自由になるお金が少ない、という結果になるのです。

 にもかかわらず、その東京に若い人が流入してくる。この傾向は今も変わっていません。

 そして、出生率は地方が高く、都市部は押しなべて低いというのも事実です。もちろん、都会でも子供を産み、育てやすい環境を整えることは重要ですが、やはり自然環境、人口密度、不動産価格など、子育て環境だけを考えれば、地方のほうが圧倒的に子育てしやすいということでしょう。

 若者が東京に出ていく時期は、大きく二つあります。一つめが大学進学時。そして二つめが就職時です。つまりこれからの地方創生は、この二つ、教育と仕事をどう変えていくかを中心に考えていくべきなのです。

 地方創生は単に地方を元気にするといった話ではなく、日本全体の未来を考えたうえで絶対に推し進めなければならない。そう私が繰り返し訴えているのも、こうした国全体の出生率や経済成長と直結するからです。

 この数年、日本の人口は年間50万人ほどのペースで減少を続けています。鳥取県の人口が約55万人ですから、毎年鳥取県が無くなっているのと同じ、といえばいかに深刻かわかりやすいのではないでしょうか。しかも新型コロナウイルスの影響で、今年は70万人が減るとも見られています。

 東京都内で出生率の地域差を見てみると、高いのは島嶼(とうしょ)部と、中央区や港区、そして大学などが多いような田園都市風の市部。子育て環境の良い自然豊かな島と、高額所得者が多い地域、と分析できます。経済的な豊かさが、出生率にも関係していることが見て取れます。

 結婚についても、25歳から35歳の女性が配偶者に求める収入は最低400万円以上、というデータがあります。しかし一方で25歳から35歳でその条件を満たす男性は全体の15%ほど。ここからは、経済力と婚姻率の低下との関係がうかがえます。

 こうしたデータを踏まえると、出生率の低下には、子育て環境という直接的な要因だけでなく、経済的な要因を無視できないことが分かります。

 人口が増えないこと、経済が低成長であることを是とする考え方にも、理解できる面は多くあります。私自身も、単純に経済力のみを追求するあり方から、国民それぞれの多様な幸せを実現できる国になるべきだと思っています。しかし、その「多様な幸せ」の中に、子どもを産み育てたい、子どもは1人よりも2人がいい、そういう願いが多く含まれているのですから、まずはそういった希望をかなえることのできる環境を作るべきです。

 そして、人口を維持できることは、結果として経済力や国力にもつながります。

 日本のGNP(昔はこう言っていました)がアメリカに次ぐ2位になったのは昭和40年代前半のことです。この頃、人口は順調に増えていました。

 そして日本が中国にGDPで抜かれたのも、中国における人口の増加と無関係ではないでしょう。

 DXが進み、AI、ドローンなどの技術がある今、人口だけが経済力のバックボーンだと言うつもりは全くありません。しかし一定程度の人口が維持できなければ、国際社会、それもむしろ全体人口は増加傾向にあるアジア地域において日本がどのような地位を占めることになるかを想像することは、それほど難しくないのではないでしょうか。

 なんとしても急激な人口減少に歯止めをかける。経済的豊かさを多くの国民が享受できるようにする。そのために、新しい内閣が「分配と成長の好循環」を打ち出しているのは、正しい方向性だと思います。


■労働分配率を上げよ


「新しい資本主義」が何を志向するのか、具体的な方向性はまだわかりませんが、少なくともこの30年ほど続いた金融資本主義への反省という視点はあってしかるべきだと思います。

 もちろん資本主義である以上、リスクを取って投資してくれる株主の存在は重要です。しかしながら、経営者が過度に株主の意向を重視したらどうなるか。短期的な利益を上げるには、コストカットがもっとも有効です。従って従業員をリストラしたり、賃金を抑えたりする方向に動く――あたかもそれだけが合理的な経営であるかのような時期が長く続きました。

 平成の30年間の経済低迷の要因はいろいろな分析がなされています。しかし俯瞰して見たときに、設備や人材に適切な投資がなされず、新しい需要を喚起できず、個人消費も伸びず、賃金も上がらない…こういった負のスパイラルに陥っていたことは事実でしょう。

 2009年以降、日本の労働分配率は低下を続けており、戦後最低水準になっています。2018年には43年ぶりの低水準になったと伝えられました。アベノミクスで企業は空前の利益を上げた、といったことが伝えられた一方で、労働者の賃金は上がりませんでした。株価が上がったことのメリットを直接に感じるのは、ごく一部の人です。日本人で株を持っているのは、人口の9%程度に過ぎません。

「まずは〇〇が豊かになることだ。そうすれば、その富がだんだん下に降りて来て好循環になる」

 〇〇は「企業」や「大企業」という場合もあれば「富裕層」という場合もありますが、こういう論理は「トリクルダウン理論」などと呼ばれます。アベノミクスの背景にはこの考え方があったという人もいます。

 金融緩和で円安を誘導したことで、たしかに一部の大企業は収益を上げて、株価も上がりました。失業率も下がりました。これらはいずれもとても良いことでした。

 しかし、この十数年、賃金労働者は経済が良くなった恩恵をあまり受けないまま、景気が良くなったという実感あまり持てないままで、結果として個人消費や内需は伸びませんでした。

「新しい資本主義」の具体策はこれから出てくるのでしょうが、労働分配率を上げるために政治が関与していく、ということには私も大賛成です。令和4年度予算において、看護、介護、保育、幼児教育などの現場職の方々の給与の3%引き上げを決めたことは評価されるべきだと思います。

 共産党は企業の内部留保に課税をせよといった主張をしていますが、これには賛同できません。内部留保というのはすでに税金を支払ったあとに企業の手元に残ったお金なのですから、そこにさらに課税するというのは二重課税に等しい。現実味のある提案とはいえません。

 むしろ、人材育成や人材投資、労働分配率の向上などを実施した企業への優遇措置を取るといった政策の方が望ましいと私は考えています。

 国民一人一人の所得を上げることが重要だ、というのは2018年の総裁選でも訴えたことです。そしてこの点については、2021年の総裁選で私が応援した河野太郎氏も訴えていたところです。河野氏も労働分配率を上げた企業への減税を提案していました。これは国民全体にとって非常に重要な論点なのですが、あまり話題にならなかったのはとても残念です。

 少々長くなりました。地方創生については、次回、またお話しさせてください。

デイリー新潮編集部

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