連立与党入りに突き進む国民民主「玉木代表」 背景にトヨタショックと麻生太郎の囁き

連立与党入りに突き進む国民民主「玉木代表」 背景にトヨタショックと麻生太郎の囁き

玉木雄一郎氏

「自民党に行くなら、玉木一人で行って欲しいよ」

 立憲民主党の幹部は電話口で声を荒らげました。国民民主党が衆議院本会議での2022年度予算案の採決で、野党として異例の賛成に回ったのです。1年間の政府与党の施策に賛成したと取れる行動。しかし、この背景には、弱小野党の単なるスタンドプレーでは片づけられない、大きな時代のうねりも見え隠れします。自民党の補完勢力で終わるのか、日本政治の地殻変動の始まりなのか。その裏側を取材しました。【青山和弘/政治ジャーナリスト】


■トヨタショックと連合の変質


 国民民主党が後ろ盾にしているのは労働組合。7月の参院選で改選を迎える議員は7人いますが、比例選出の4人はすべて労働組合の組織内議員です。そしてそのうちの一人がトヨタ自動車出身です。そのトヨタ労組は昨年10月の衆院選で、野党陣営を揺るがす大きな動きを見せました。トヨタお膝元の愛知11区で、連続6回当選してきたトヨタ労組出身の野党議員が総選挙直前に出馬を断念し、自民党を支持する方向に舵を切ったのです。

 この「トヨタショック」は国民民主党、そして自動車業界の労働組合「自動車総連」を抱える連合に大きな衝撃を与えました。当時の連合幹部は苦虫をかみつぶしたような表情で語ります。

「トヨタの豊田章男社長の一存で決まった。組合はまったく逆らえなかった」

 トヨタ自動車の幹部に背景を聞くと、こう話してくれました。

「トヨタのみならず、自動車業界はカーボンニュートラルの流れの中で、生き残りの瀬戸際に立っている。政府と一体になって国際社会と渡り合って、電気自動車や燃料電池車の開発普及に努めないと、会社自体がなくなってしまう。政府と対立している時代じゃないんです」

 こうした中、昨年10月に連合の会長に就任した芳野友子会長は、「労働者のためになることなら与党も野党も関係ない」と周辺に語り、共産党への厳しい態度と自民党に接近する姿勢を見せました。この動きは野党の分断を図り、選挙基盤をさらに強固にしたい自民党にとってまさに「渡りに船」。岸田政権で組織運動本部長となった小渕優子元経産相が、水面下で芳野会長と接触を続けました。小渕氏は周辺にこう語っています。

「芳野さんは時代の流れをすべてよくわかっている」


■麻生副総裁のささやき


 そして自民党と国民民主党も接近します。安倍元首相、菅前首相は独自のパイプがある日本維新の会との連携を重視していました。しかし維新とのパイプを持たない岸田首相は、協力相手のプライオリティを国民民主党にシフトしたのです。国民民主党が与党の協力勢力になれば、参院選挙後の憲法改正の動きも睨んで公明党への強い牽制にもなります。交渉の先導役となったのが、公明党と距離のある麻生副総裁でした。

 一方の国民民主党も切羽詰まっていました。政党支持率は毎月1%か2%(NNN読売新聞世論調査)。さらに立憲民主党の泉代表が「政策立案型政党」を標榜したことで、国民民主党が掲げてきた「対決より解決」と似通ってしまい、国民民主党の存在感の低下が懸念されていました。党幹部は実情を吐露します。

「衆院選では何とか議席を増やしたけど、参院選で議席を減らしたらこんな党は崩壊してしまう。立憲よりも何か注目されることをしないといけない。簡単に言うとそういうことですよ」

 そうした中、麻生副総裁は玉木代表にこうささやきました。

「政策は立案するだけじゃなくて、実現してなんぼだろ」

 そして玉木代表はこう話すようになりました。

「冷戦構造の延長のような政治的な振る舞いでは、国民や国家の利益に役に立たない」


■後付けの「トリガー条項」


 国民民主党の本予算への賛成は、最後は玉木代表との協議に自民党の茂木幹事長と岸田首相の最側近・木原官房副長官が入って決まりました。そして国民民主党が賛成の理由に掲げた、ガソリン価格の高騰対策のためのトリガー条項の凍結解除は最後に合意されました。自民党幹部は「予算案賛成の流れの中で、最後にトリガー条項の話が出てきた。」と内情を語ります。

 この国民民主党の「変節」に慌てたのは立憲民主党です。国民民主党を「兄弟政党」とまで呼んで連携を模索していた泉代表にとっては、梯子を外された格好です。泉代表はすぐに連合の芳野会長に電話しました。

「国民民主党が予算に賛成するようです。これは野党とは言えない判断ですよ」

 しかし芳野会長の元には事前に自民党側から連絡が入っていました。泉代表との電話の後、芳野会長は周辺にこぼしました。

「泉代表はえらい剣幕だったけど、野党はこうあるべき、とかそういう考え方がもう古いのよ」


■選挙協力も視野に


 玉木代表は表向き「我々は明確に野党」と話していますが、国民民主党は自民党との参議院選での選挙協力も視野に入れています。7月に改選を迎える7人の参院議員は、選挙区では3人。うち1人区は山形と大分の2人だけで、山形の舟山議員は自民党が支援に回る可能性が十分あると見ています。自動車総連出身を含む4人の労組系議員を抱える比例区に関しては、政策実現力が明らかになれば当選の可能性が増すし、自民党にとっても労組の支援で各選挙区での票の上積みも期待できるという算段です。自民党幹部は「自民党にとってもプラスだと思う」と語ります。

 ただ事実上の与党入りとなる選挙協力には、公明党の強い反発が予想されます。また連合内部でも自治労や日教組など立憲民主党系の労組が反対することは間違いないため、協議がどこまで進むかは予断を許しません。ただ国民民主党はもはや野党共闘からは外されるでしょうし、自民党も参院選後を見据えて何らかの協力体制を構築していくことになると見られます。


■野党のガラパゴス化懸念


 こうした国民民主党の動きを立憲民主党は強く批判しています。立憲幹部は「民主主義は野党の存在と報道の自由によって成り立つ。野党がなくなれば独裁政治だ」と嘆きます。確かに与野党が緊張感をもって切磋琢磨することや、野党が政府の問題点を指摘することは、政治を健全に保つために必要です。また中堅議員は「与党に協力した小政党はこれまでもすべて消えていった。国民民主党も自民党に利用されてなくなるだけだ」と突き放しています。

 その一方で、中国の台頭に加えてロシアのウクライナ侵略による世界秩序の転換、また少子化による労働力人口の大幅減少、カーボンニュートラルによる社会構造変革といった国の浮沈がかかる課題の前に、野党が旧態依然とした主張を繰り返せば、世の中の流れから取り残されることも懸念されます。立憲民主党幹部は率直にこう話します。

「我々がガラパゴス化しないように注意しないといけない。何でも反対ではなくて、より先を見た大胆な主張をする必要がある」

 世界的なパラダイムシフトの時代に野党はどうあるべきなのか。日本政治も大きな転換点を迎えていることは間違いありません。

青山和弘(あおやま・かずひろ)
政治ジャーナリスト 1968年、千葉県生まれ。元日本テレビ政治部次長兼解説委員 92年に日本テレビに入社し、94年から政治部。野党キャップ、自民党キャップを歴任した後、ワシントン支局長や国会官邸キャップを務める。与野党を問わない幅広い人脈と、わかりやすい解説には定評がある。現在、各種メディアや講演などで精力的に活動している。

デイリー新潮編集部

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