「ウクライナが日本に感謝を示さない」と怒る日本人の心理 識者は「今後も同じ議論起こる」

「ウクライナが日本に感謝を示さない」と怒る日本人の心理 識者は「今後も同じ議論起こる」

ゼレンスキー大統領(自身のFacebookより)

 4月26日、女性自身(電子版)は「『ウクライナ支援国のなかに日本がない』自民議員が苦言“感謝のカツアゲ”との声も」との記事を配信した。

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 発端は4月25日、ウクライナ外務省の公式Twitterが、各国の支援に感謝の意を述べたことに遡る。

 動画もアップされ、その中では31カ国の名前が字幕で列挙された。アメリカ、イギリス、イタリア、カナダ、ドイツ、フランスというG7の国は、日本を除いて全て入っていた。

 それだけではない。アゼルバイジャン、トルコ、ブルガリアといった国々にも字幕で感謝の念が伝えられた。

 日本も様々な支援を行っている。なぜ、日本が感謝されていないのか──こう指摘して話題となったのが、自民党の山田宏・参議院議員(64)だった。ツイートを引用させていただく。

《ウクライナ政府が感謝している国々の中に日本がない。外務省を通して確認しています》

 同じ自民党の佐藤正久・参議院議員(61)も《これはダメだ》とツイートし、《今朝の自民党部会でも問題になった》と明らかにした。

 政府側はウクライナを擁護した。松野博一官房長官(59)は26日の午前、「軍事支援の文脈において謝意が示されたとものと推察している」と説明した。

 同じ26日の午後にも、林芳正外相(61)が「ウクライナ側から説明を受けた」と発表した。


■最終的には追加


 説明の内容は松野官房長官の“推察”の通りで、「軍の関係者が軍事支援の文脈において謝意を示したもの」とのことだった。

 だが、松野官房長官と林外相の説明には矛盾がある。

 例えば、ブルガリアは武器の支援を拒否した。同じくトルコも、民間企業が開発したドローン兵器が対ロシア戦で大きな戦果をあげているが、国家としては武器の支援を拒否している。

 おまけにトルコは、ロシアと友好的な関係を保っている。それはトルコが停戦交渉の窓口になろうとしたことからも明らかだ。

 日本の抗議を、ウクライナは把握したらしい。だが、反論や弁明をすることはなかった。

 その代わりウクライナは、4月27日に動画を再投稿した。テレ朝newsは翌28日、「ウクライナの“支援国感謝動画”に日本が加わる」との記事を配信した。

《ウクライナ国防省は27日に改めて動画を投稿し、日本をはじめ、韓国などの7カ国を追加し、37カ国に対して謝意を示しました》

 抗議したら日本の名前が追加された──果たして、これは日本にとって名誉なことなのだろうか?


■大統領は瀬戸際


 担当記者が言う。

「日本の国名が加わったからといって、世論が大喜びしたわけでもありません。結局、何のための抗議だったのでしょうか。抗議して感謝されるというのは順番が逆ですし、かなり恥ずかしいことだと思います」

 防衛大学名誉教授の佐瀬昌盛氏は、国際政治が専門だ。2007年には、当時、総理大臣だった安倍晋三氏(67)の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の有識者委員を務めた。

 今回の問題は、日本の国際貢献や安全保障のあり方と関係がある。どう受け止めるべきか、取材を依頼した。

 佐P氏は「そもそも今のウクライナに、100点満点の外交を求めること自体が間違っています」と言う。

「最近はCNNでウクライナ情勢を把握していますが、同局の報道を見ると、改めてゼレンスキー大統領が生きるか死ぬかの瀬戸際であることがよく分かります。大国ロシアが、いきなり侵略してきたのです。彼は軍事作戦の指揮だけで手一杯なのは明らかです」


■文句より支援


 もし、これが平時であったなら、まずゼレンスキー大統領の側近がリストを作成しただろう。

 大統領は目を通し、「日本が入っていないじゃないか」と注意したかもしれない。

「しかし、今は非常時です。ゼレンスキー大統領(44)が感謝を表明する国のリストに目を通していなくても不思議ではありません。スタッフを非難することは可能かもしれませんが、彼らもロシア軍と生きるか死ぬかの戦いに臨んでいます。日本がリストに入っていないとあれこれ言うのは、ウクライナの現状について、あまりに理解が乏しいと言わざるを得ません」(同・佐P氏)

 佐P氏はゼレンスキー大統領の手腕を高く評価しているという。

「もしゼレンスキー氏以外の人物が大統領だったら、今ごろウクライナはロシアに屈服しているのではないかと思うほどです。NATO(北大西洋条約機構)の直接的な武力援助を得られなくても、ロシアに対して善戦しています。日本人は『支援したのに感謝されていない』と文句を言う暇があるのなら、『ウラジーミル・プーチン大統領(69)を倒すまで頑張ってください』と支援の姿勢を示すべきだと思います」(同・佐P氏)


■国際貢献はお礼目当てか?


 そもそもウクライナの人々にとって、日本は「地球の裏側」と言っていいほど遠い国だ。

「CNNで被害を訴えるウクライナ人の多くは、白い肌に青い目です。同じ外見の人々は西欧にもアメリカにも大勢います。白人が多数派を占める国であっても、ウクライナとは言葉も宗教も違います。とはいえ、ウクライナの人々にとって日本のようなアジア圏に位置する国家は、ヨーロッパ圏の他国とは比べものにならないほどの“異国”でしょう。ウクライナの人々がヨーロッパの国々に対して精神的な“近さ”を感じ、日本には“遠さ”を感じたとしても無理はありません」(同・佐P氏)

 どこの国に感謝を表明するか──この問題に直面したウクライナの人々が、ヨーロッパ諸国を優先し、アジアの日本を“失念”していたとしても、ある意味では仕方ないという。

 それに日本人だって、ウクライナのことをよく知っているわけではない。

「国際貢献というものは、対象国からお礼を言ってもらうために行うものでしょうか? だとしたら、あまりにもカッコ悪いでしょう。本当なら『それでは男らしくない』と言いたいのですが、男らしさや女らしさという言葉は、最近では使ってはいけないと言われるので、止めておきます(笑)」(同・佐P氏)


■「Show the FLAG」


 佐P氏は「私は『ウクライナは戦争中だし、遠い国だからお礼は必要ない』と言っているわけではありません。近い国でも同じです」と言う。

「平和で距離も近いアジアの国々に支援を行ったが、礼を言ってもらえなかった。こんな場合でも、私はそれでいいではないかと思います。そのため、日本人が支援の内容を議論することも、本来なら必要ないと考えています」

 だが、日本人は常に支援の内容を議論してきた。特に「資金援助だけでいいのか、軍事支援も必要ではないのか」との論点は、国を二分するほどの激論が繰り広げられたこともあった。

 1990年の湾岸戦争では、日本は総額130億ドルの資金支援を行ったにもかかわらず、クエートの感謝リストには入っていなかった。

 日本は「顔の見える支援」が必要だと判断し、1992年には国際平和協力法に基づく国際連合平和維持活動(PKO)として、自衛隊がカンボジアに派遣された。

 2001年にアメリカ同時多発テロが発生すると、当時、国務副長官を務めていたリチャード・アーミテージ氏(77)が日本に「Show the FLAG」と迫ったとの報道が大きく取り上げられた。


■常に同じ議論


「Show the FLAG」は、単純に「旗幟を鮮明にせよ」と訳すべきという意見も根強いが、少なくとも当時の日本では「顔の見える貢献をせよ=金ではなく人を出せ」と要求されたとの解釈が圧倒的だった。

 ちなみに、アーミテージ氏は「Show the FLAG」とは発言しなかったという証言もある。未だに真相は藪の中だ。

「しかし『Show the FLAG』発言が日本に与えたインパクトは相当なものがありました。同時多発テロ後、海上自衛隊がインド洋に派遣され、アメリカなどの“対テロ戦争”で給油という“国際貢献”を果たしました。更に2003年、陸上自衛隊がイラクに派遣され、戦後の復興、特にインフラ整備で支援を行いました」(前出の記者)

 90年代以降、日本人は事あるごとに「真の国際協力とは何か」という問題で激論を戦わせてきた。

 今回の「ウクライナ感謝リスト問題」も、往時のPKO問題に比べれば社会的反響は小さいかもしれない。だが、根っこは同じだろう。

「どれだけ議論しても、国際貢献について理解が深まったり、コンセンサスが得られたりすることはないと思います。今回のウクライナ支援でも、武器と見なされてもおかしくない物品が含まれているとされ、実質的に『武器輸出三原則』が見直されたのではないか、とも指摘されています。こうした議論も昔から行われてきました」(前出の佐P氏)


■変わらない日本人


「武器と見なされてもおかしくない物品」とは、具体的には民生用ドローンだ。日本政府は「民生品なのだから武器ではない」という理屈で押し切ったが、ウクライナの戦場では実質的に兵器として使用される可能性がある。

「賛成する人、反対の人、意見は様々でしょうが、防衛省が努力を重ねたのは事実だと思います。しかし、それで日本人の意識や議論が変わるのかといえば違います。ウクライナが感謝を示さなかったということから、昔と変わらない『国際貢献とは何か』という議論が起きました。きっと日本人は、これから何年たっても、同じ議論を繰り返すのかもしれません」(同・佐P氏)

デイリー新潮編集部

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