防衛費“5兆円増”で自衛隊が購入すべき兵器は? 専門家が「トマホーク」を挙げる理由

防衛費“5兆円増”で自衛隊が購入すべき兵器は? 専門家が「トマホーク」を挙げる理由

巡航ミサイル・トマホーク(U.S. Navyderivative work: The High Fin Sperm Whale, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で)

 防衛費の増額問題が、にわかに脚光を浴びている。時事通信は5月26日、「防衛費増へ調整着手 公明理解、規模焦点に 政府・与党」の記事を配信、YAHOO!ニュースのトピックスに転載された。

 ***

 記事のポイントと言える部分を2箇所、引用させていただく。

《自民党は勢いづく。同党は先月の提言で、北大西洋条約機構(NATO)が加盟国に求める国内総生産(GDP)比2%の国防費を目安として「5年以内に必要な予算水準の達成を目指す」よう提唱した》

《防衛省の当初予算に限ると、日本の現行水準はおおむねGDP比1%弱。22年度は5兆4005億円だ。安倍晋三元首相は23日の会合で、5年間でNATO並みに増やすことを念頭に、23年度の防衛費は「6兆円台後半」とするのが適当だとの見方を示した》

 今後5年間で防衛費5兆4000億円を段階的に増やし、最終的には10兆円台に乗せる、ということのようだ。

 有権者も防衛費の増額に理解を示している。例えば産経新聞(電子版)は4月18日、「防衛費『増額すべきだ』57% ウクライナ侵攻で関心高く」の記事を配信した。

《産経新聞社とFNNの合同世論調査で、日本の防衛費について尋ねたところ、「大幅に増やすべきだ」と「ある程度増やすべきだ」の回答が合わせて57・0%となり、「今のままでいい」(33・0%)などを上回った》


■5兆円で何が買えるか?


 5兆円と聞けば、日常的な金銭感覚なら天文学的数字だろう。しかしながら、軍事費としてなら決して高額ではない。

 産経新聞は2017年7月、「米、42年ぶり新型原子力空母『フォード』就役 大統領『敵震える』」の記事を掲載した。この中に、空母の建造費について触れた部分がある。

 新型フォード級原子力空母の1番艦「ジェラルド・R・フォード」、2番艦「ジョン・F・ケネディ」(建造中)、3番艦「エンタープライズ(3代目)」(計画中)の開発・建造費の総額は、430億ドル(約4兆7760億円)という。

 5兆円など3隻の空母で簡単に吹っ飛ぶことが分かる。まして空母だけ建艦しても意味がない。艦載機であるF−35は、1機あたり約127億円と言われる。これを何十機も用意しなければならない。

 むしろ“家計”の限度を考え、賢い買い物をしなければならないわけだ。どんな兵器が必要なのか考える前に、改めて防衛費増額の意義を確認しておこう。担当記者が言う。

「ロシアのウクライナ侵攻は、先進国に衝撃を与えました。フィンランドとスウェーデンが北大西洋条約機構(NATO)への加盟を表明するなど、ロシアに武力で対抗する姿勢を鮮明にしています。ロシアと関係の深い中国も、覇権主義を隠していません。そして日本は、ロシアと中国、更に核開発を進める北朝鮮と、いずれも近隣国です。防衛費増額の議論が起きるのは、当然と言っていいでしょう」


■空中給油機の必要性


 では、自衛隊が整備すべき兵器を具体的に見てみよう。軍事ジャーナリストが言う。

「最優先なのは空中給油機でしょう。ロシアとウクライナは地続きですから、陸上が主戦場です。一方、日本は四方を海に囲まれています。戦争が起きた場合、様相は全く異なります。ロシアであれ中国であれ、本気で日本を占領しようとするなら、陸戦部隊を海上輸送し、揚陸させる必要があります。防衛する自衛隊にとって、現場空域における航空優勢の確保と維持が、陸海空全ての作戦に不可欠であることは言うまでもありません」

 特に尖閣有事が起きた場合、沖縄や本土からの飛行距離が長い。自衛隊機が長距離、長時間の飛行を行うためには、空中給油機の支援が欠かせない。

「もちろん自衛隊も空中給油機の重要性は分かっています。現在はKC−767という給油機を4機、運用しています。これに加えてKC−46Aを4機、一括購入することが決まっています」(同・軍事ジャーナリスト)

 ちなみにKC−46Aの購入費は、時事通信の記事によると、4機一括で計1121億円だという(註)。

 2024年度までに2機増やすことも決まっている。実現すれば、KC−767が4機、KC−46Aが6機で、合計10機という陣容になるわけだ。


■AWACS


「給油機の整備、給油空域への進出、帰投という一連の流れは、複数機でローテーションを組んで実施します。4機に4機が加わった8機体制でも、回すだけでやっとでしょう。やはり10機体制で、初めて現実的な運用が可能となります」(同・軍事ジャーナリスト)

 おまけにKC−767は給油システムの都合で、アメリカ海軍と海兵隊の戦闘機、更に2024年度から配備予定となっている航空自衛隊のF−35Bなどに給油ができないという。

「もし防衛費が増額になるのなら、KC−767が給油できない問題を解決し、KC−46Aの導入配備を急ぐことが求められているのではないでしょうか」(同・軍事ジャーナリスト)

 先に紹介した時事通信の記事では、自衛隊内で「空中給油機を増やすより、早期警戒管制機(AWACS)を増やすべきではないか」という意見が根強いことを伝えている。

「防衛費が増額になるのであれば、空中給油機も増やし、AWACSも増やすというのが正論でしょう。有事の際、ロシアや中国の陸海軍の動向を正確に把握し、迅速な指示を下す必要があります。2010年時点で自衛隊は4機のAWACSを保有していますが、更に数機が整備されたなら理想的です」(同・軍事ジャーナリスト)


■ドローン兵器は急務


 侵攻してきたロシア軍に対し、ウクライナ軍はドローン兵器を効果的に活用して撃退した。この“戦訓”は多くの国に衝撃を与えた。もちろん日本も学ぶ必要がある。

「自衛隊はドローン兵器の活用という点では、かなり後れを取っています。攻撃能力を持たない偵察用のRQ−4『グローバルホーク』が青森県の三沢基地に3機、配属されたばかりです。おまけに航空自衛隊の通信システムが時代遅れのため、RQ−4が送ってくる膨大なデータを処理できないとも言われています。まずはシステムの早急なバージョンアップが必要でしょう」(同・軍事ジャーナリスト)

 中国軍は既に国産のドローン兵器を運用しており、尖閣諸島付近を飛行している様子が確認されている。

「偵察タイプだけでなく、攻撃能力のあるドローンも配備が必要です。例えばMQ−9『リーパー』は長い航続距離と高い監視能力だけでなく、攻撃能力も兼ね備えています。ロシア軍が侵攻してきた際の北海道防衛はもちろん、尖閣諸島の防衛でもMQ−9は活躍が期待されます。まずはアメリカ軍が鹿児島の鹿屋航空基地で運用を開始する計画ですが、航空自衛隊の本格配備は急務でしょう」(同・軍事ジャーナリスト)


■北朝鮮にはトマホーク


 MQ−9は北朝鮮への“抑止力”になりうる可能性もあるようだ。

「自衛隊が“敵基地攻撃能力”を保有すべきかどうか、国会でも議論が続いています。ただ、北朝鮮への抑止力を考えれば、保有すべきであることは確かです。北朝鮮が発射したミサイルを撃破するより、発射しそうだという情報をキャッチしたら、ミサイル基地を爆撃して潰すほうが確実です。北朝鮮も『日本は我が国のミサイル基地を攻撃する能力がある』と理解すれば、抑制的な行動を取る可能性が期待できます」(同・軍事ジャーナリスト)

 たとえ敵基地攻撃能力の保有が国会の議論で認められたとしても、有人機による北朝鮮爆撃はリスクが大きい。

「北朝鮮の敵機撃墜能力も、かなり整備されているという情報があります。そもそも、敵国の爆撃はリスクが高いのです。撃墜され、パイロットが捕虜になったりすると、北朝鮮は“人質”として利用することができます。一方のMQ−9なら、たとえ撃墜されても無人です」(同・軍事ジャーナリスト)

 北朝鮮にプレッシャーを与えるとすれば、巡航ミサイル「トマホーク」の配備も検討すべきだという。


■ミサイルの改良


「意外に思われるかもしれませんが、自衛隊はトマホークを持っていません。このミサイルは水上艦からも潜水艦からも発射が可能です。無人で目的地に誘導できるのは、ドローンと同じです。海上自衛隊の護衛艦がトマホークを積み、日本海を航海すれば、北朝鮮が受けるプレッシャーは相当なものがあるでしょう」(同・軍事ジャーナリスト)

 増額した防衛費を研究・開発費に振り向けることも可能だろう。北朝鮮に睨みをきかせるという意味では、陸上自衛隊が持つ12式地対艦誘導弾の改良が考えられるという。

「陸上から敵艦を狙うためのミサイルですが、様々な改良が研究されています。その一つに航続距離の延長があり、今の約200キロを1500キロまで伸ばそうという計画があります。距離を伸ばし、航空機に搭載できるようになれば、戦闘機のF−2が、九州上空から北朝鮮の基地を攻撃できるようになります」(同・軍事ジャーナリスト)


■戦車の問題


 ここからは陸上戦を考えてみよう。ウクライナ軍がドローンや対戦車ミサイルを活用し、ロシア軍の戦車を多数、撃破した。この戦訓から「戦車無用論」を導き出す関係者もいるが、これは極端すぎるという。

「ウクライナ侵攻でも、東部戦線は戦車や榴弾(りゅうだん)砲が戦果を発揮しました。北海道で想定されるロシア軍との戦闘でも同じでしょう。戦車がいいとか、ドローンがいいとか、一方に決めるべきものではありません。戦車、ドローン、対戦車ミサイルの全てを均等に充実させていくべきでしょう」(同・軍事ジャーナリスト)

 まず戦車だが、自衛隊では第2世代の74式戦車、第3世代の90式戦車、第3・5世代の10式戦車が稼働している。防衛省は74式を10式に置き換える方針を採っている。

「そもそも戦車の数が減らされているという問題があります。近々、本州では戦車が実質0台となります。その上で、10式は確かに高い性能を持っています。例えば、各戦車がネットワークでつながっており、1台の10式が敵を発見すれば、他の戦車も敵の情報を共有することが可能です。74式を10式に置き換えるという方針は間違ってはいませんが、時間がかかるという欠点があります」(同・軍事ジャーナリスト)


■“旧式”の戦車


 世界各国の陸軍は、常に最新型の戦車を整備しているわけではない。軍事費の問題から、旧式の戦車を改良し“バージョンアップ”させるほうが多い。

「第3世代の90式は非常に設計がしっかりしており、とても完成度の高い戦車です。90式に最新型のネットワーク機能を付け加えるなどの改良を施せば、10式と遜色のない性能になります。問題は予算です」(同・軍事ジャーナリスト)

 90式の改良は、10式を新しく製造するより安いのは事実だ。しかし、そこに“財務省の壁”が立ちはだかる。

「兵器の改良・改修の予算は、財務省の理解が得られにくいという問題があるのです。更に、90式を改良すると、意外に高くつく可能性もあります。『ならば、いっそのこと10式を整備しよう』というのが防衛省の本音でしょう」(同・軍事ジャーナリスト)

 だが、“バージョンアップ戦略”の場合、スピードが速いという利点がある。

「ロシアの覇権主義を国会議員も有権者も痛感し、防衛費増額の議論が起きたはずです。特に有権者は日本の防衛力を早急に高めてほしいと考えているでしょう。その想いを重視するなら、まずは90式の“バージョンアップ”を優先するほうが、予算の使い方としても効果的ではないでしょうか。有権者の理解も得られやすいはずです」(同・軍事ジャーナリスト)


■和製ジャベリンの問題点


 軍事に関心の高い人なら、“和製ジャベリン”と呼ばれる01式軽対戦車誘導弾が話題になっていることをご存知だろう。その高性能に関心が集まっている。

 ところが、現場の評価は決して高くないという。

「本物のジャベリンは射程が最大で2・5キロあります。かなりの重量があり、高額な照準ユニットは持ち帰らなければなりません。しかし、2人の兵士が運用し、2・5キロの距離を確保しているため、敵戦車を攻撃できるのです。一方、01式誘導弾は射程が1・5キロしかなく、運用は1人です。敵戦車との距離が近く、照準ユニットの回収作業を考えると、命がけの発射と言っても過言ではありません」(同・軍事ジャーナリスト)

 ウクライナ軍の場合、距離が近いロシア軍には、NLAWという対戦車ミサイルを使って攻撃するという。

「NLAWの射程距離は最大で800メートルです。その代わり軽量のため持ち運びが楽で、発射器は使い捨てです。つまりNATO軍の戦略は、距離がある敵戦車はジャベリンで狙い撃ちし、接近してきた戦車はNLAWで対抗するという二段構えになっているわけです。01式軽対戦車誘導弾も現場の評価に耳を傾け、射程距離を伸ばしてほしいですね。性能自体は非常に高いそうですから、これではもったいないです」(同・軍事ジャーナリスト)


■自衛隊の苦手分野


 ロシアや中国を相手にする陸上戦では、正規軍同士の戦いになる。これに対し、北朝鮮は特殊部隊や決死隊によるゲリラ攻撃が想定される。

「実は、自衛隊が苦手にする分野が、対テロ・対ゲリラを想定した『市街地戦闘訓練』なのです。一時期は力を入れていたのですが、自衛隊内部で『まずは正規戦の訓練にこそ力を入れるべき』と異論が出るなど、なかなか内部で統一見解が取れていないのです」(同・軍事ジャーナリスト)

 防衛費の増額に、少なからぬ有権者が理解を示すという状況は、日本の戦後史を考えれば異例だと言える。

 自衛隊からすれば千載一遇のチャンスだろう。この好機を最大限に利用し、本当に強い防衛力を構築することが求められているのは言うまでもない。

註:米国製最新鋭機を次々調達=新型空中給油機は鳥取−大型無人機部隊、三沢に・防衛省(2019年9月1日)

デイリー新潮編集部

関連記事(外部サイト)