防衛費5兆円増でも…自衛隊員から「財務省に殺される」という悲鳴が上がる現実

防衛費5兆円増でも…自衛隊員から「財務省に殺される」という悲鳴が上がる現実

財務省から「コスパが悪い」と指摘された10式戦車

 朝日新聞デジタルは5月25日、「ウクライナでも次々破壊、戦車はコスパ悪い? 財務省と防衛省の攻防」の記事を配信した。財務省が防衛省に「戦車は高額な割にコストパフォーマンスが悪い、安くて役に立つ対戦車ミサイルを増やせ」と“注文”をつけたという内容だ。

 ***

 記事の一部をご紹介しよう。

《4月20日にあった財政制度等審議会(財政審)。委員に配布された資料には厳しい言葉が並んでいた》

《財政審は財務相の諮問機関で、取りまとめた建議(報告書)は財務相に提出され、予算編成に生かされる。資料は議論のたたき台で、財務省の考え方がにじむ。そこで「課題を抱える装備品」の一例に挙げられたのが戦車だった》

《疑問視されたのは費用対効果だ。その根拠として、ウクライナ軍が米国製の携行型対戦車ミサイル「ジャベリン」でロシア軍の戦車を多数破壊している事実が示された。資料は「対戦車ミサイルを活用することはコストパフォーマンスを高める」と指摘する》

 財務省はそこまで口を出すのか、と驚いた方も多いだろう。担当記者が言う。

「財務省が“戦車不要論”を唱えたのですから、かなりの反響がありました。東洋経済や産経新聞も記事にしています。複数の軍事専門家が“戦車必要論”を主張して反論したこともあり、『財務省が日本を滅ぼしてしまう』と指摘する識者もかなりの数にのぼっています」


■雨漏りする倉庫


 本稿では、戦車が必要か不要かという問題は取り上げない。デイリー新潮は6月4日に配信した「防衛費“5兆円増”で自衛隊が購入すべき兵器は? 専門家が『トマホーク』を挙げる理由」の中で、戦車不要論は正しいかどうか専門家に取材している。興味のある方は、そちらをご覧いただきたい。

 本題に戻ろう。とにかく財務省が防衛費に対し、細かなところまで口出ししていることを理解してもらえれば、それで充分だ。

 ロシアがウクライナに侵攻したことで、世論調査では有権者の過半数が防衛費増額に理解を示しているという(註)。

 さぞかし自衛隊では士気が上がっているだろうと普通なら思う。ところが現場を取材してみると、「高額で高性能な最新兵器より、私たちの身の回りを整備してほしい」という切実な声が多いようなのだ。さる軍事ジャーナリストが言う。

「自衛隊の現役隊員に『防衛費が増額したら、何を整備してほしい?』と質問すると、『雨漏りする倉庫を改築してほしい』という答えだったので驚きました。財務省の予算査定が厳しいため、駐屯地の倉庫は老朽化が進んでも改築は後回し。中も狭くて装備品で埋まっているそうです。『最新兵器を買ってもらっても置く場所がない。雨漏りもひどいから故障したら大変だ』と言うのです」


■装甲車を青空駐車


 ウクライナ侵攻により、先進国間で“二極化”が進むのではと懸念する声がある。

 北大西洋条約機構(NATO)の加盟国や支持国はウクライナ支援で団結する一方、覇権主義や“反NATO・反米”を掲げるロシアと中国は関係を深めている。

 明日にでもロシアや中国が日本を侵略する可能性は低いにしても、両国が日本に対して軍事的な威圧を強めているのは間違いない。

 また、台湾有事の場合は決して絵空事ではない。北朝鮮の瀬戸際外交や挑発行為はエスカレートするばかりだ。日本が東アジアにおけるプレゼンスを高めるためにも、防衛力増強が急務であることは言うまでもない。

 防衛省は対中防衛の一環として、鹿児島県の馬毛島から沖縄県の石垣島を結ぶ線を“防衛ライン”として捉え、ミサイル部隊など駐屯地の建設に着手している。

 日本防衛における“最前線”だが、ここでも取材をすると切実な悲鳴が聞こえてくるという。

「沖縄県内の駐屯地では部隊の車両車庫まで予算が回らず、装甲車なども青空駐車で塩害に悩まされています。野ざらしだと車両の劣化が早く、整備に手間を取られてしまう。ただでさえ人手不足なのに、余計な作業が増えて困っているそうです。『防衛費が増額されるなら、車両の車庫が欲しいですね』とのことでした」(同・軍事ジャーナリスト)


■「掩体壕」の重要性


 装甲車の駐車場に屋根がないというのも困った話だが、これが軍用機となると、国防上の大問題に発展してしまう。

「航空自衛隊の基地には、ほとんど『掩体(えんたい)壕』がないのです。『掩体』とも呼ばれますが、平たく言えば“軍用機用の防空壕”です。格納庫が鉄骨で作られるのに対し、掩体壕は鉄筋コンクリートです。青森県の三沢基地など、いくつかの基地では掩体壕が整備されていますが、全くないという基地も珍しくありません」(同・軍事ジャーナリスト)

 ロイターは20年8月、「日本の脆弱な航空機および艦艇の地上防護態勢【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】」の記事を配信した。

《空自の掩体壕は、三沢基地で2個飛行隊40機分、千歳基地及び小松基地において1個飛行隊20機分が確保されているだけで、その他の7つの基地では全くの未整備である》

 掩体壕は本来、爆弾やミサイルなどによる攻撃に耐える必要がある。だが、現場はそんな“贅沢”な性能を求めているわけではないという。

「戦争が勃発すれば、敵軍は真っ先に航空基地を襲い、制空権の奪取を狙うのは常識中の常識です。そして、現代の軍用機は精密機械の固まりです。敵ミサイルが基地内に着弾爆発したら、飛び散った無数の破片が周りの味方機に損害を与える可能性が懸念されているのです」(同・軍事ジャーナリスト)


■「空自15分全滅説」


 表面的には無傷でも、細かな破片が電子機器やエンジンを破壊してしまうこともあるという。

「航空自衛隊の現場からは『贅沢は言わない。破片の飛散から機体を守れるぐらいの強度でいいから、全機が収納できる掩体壕を整備してほしい』という要望が多いのです。何しろ1発のミサイルで、基地の全機が使い物にならなくなる危険性があるわけです。航空戦を戦う前に敗北という、『空自15分全滅説』は以前から指摘されてきました」(同・軍事ジャーナリスト)

 世界中どこでも、軍隊の「基本教練」では小銃の取り扱いを学ぶ。陸軍だけでなく、海軍でも空軍でも必須だ。

 陸上自衛隊では現在、最新型である20式小銃の配備が始まった。ところが、予算の関係から一斉に導入されるわけではないという。

「本来は一括購入したほうが単価は安くなります。ところが、防衛費には上限があるので、一斉に20式小銃に切り替えると予算超過となってしまう。そのため、何年もかけて順次、新式の小銃を配備していきます。実際、1世代前の89式小銃も、まだまだこの先も長く使い続けられますし、一部の現場では更に古い64式小銃も現役です」(同・軍事ジャーナリスト)


■現場は常に物不足


「64」という数字は、1964(昭和39)年に開発されたことを意味する。こんな古い銃が未だに使われているのだ。

 いや、時代遅れの小銃が使われているだけではない。迷彩服や軍靴でさえ、全員分が充分に揃っているわけではないという。

「『隊員の制服や靴も、実は足りていません。予算が増えるなら、こうした個人貸与品の整備に使ってほしい』という意見もかなりの数にのぼりました。物品不足の北朝鮮を笑うことはできません」(同・軍事ジャーナリスト)

 小銃の話に戻れば、駐屯地にある「銃の格納スペース=銃架」にも問題があるという。

「一部の駐屯地では、小銃だけに合わせたサイズの銃架を使っています。そのせいで、例えば光学照準器を装着したままでは、銃架に収まらないのです。正確に調整して取り付けた照準器を片付けるたびに外すなど、常識では考えられないことです。『予算が増えるなら銃架を何とかしてほしい』という現場からの要望もありました。裏を返せば、財務省の厳しい予算査定だと、銃の格納場所も満足に改造できないというわけです」(同・軍事ジャーナリスト)

 いかにも財務省が好みそうな「アウトソーシング(外部発注)による経費削減」の行きすぎにも、現場は不安視しているという。


■“アウトソース”の弊害


「陸上自衛隊と航空自衛隊は、自前の輸送システムを持っています。ところが海上自衛隊の分は、財務省が認めないのです。『船で大量の物品を運べるから、輸送網の整備は必要ない。港での積み下ろしは、民間企業にアウトソースしろ』というわけです。百歩譲って、平時ならそれでもいいでしょう。ただ有事となると、軍港は敵軍が狙う最重要拠点になります。アウトソーシングなど論外です」(同・軍事ジャーナリスト)

 戦争が勃発すれば、敵軍は全力で軍港の破壊、占領を狙う。そんな危険な場所で、運輸会社に勤務する民間人を働かせていいのか、という問題だ。

 有事で運輸会社の人間が逃げ出しても、彼らを責めることはできない。港から輸送担当者が消えてしまったら、一体どうするのか。

「給養員さんの問題もあります。護衛艦で働く調理師さんのことです。財務省は同じ理屈で『護衛艦の給養員が海上自衛官であることは認めるが、陸上基地の食堂は民間にアウトソースしろ』と言います。しかし有事になると、護衛艦の給養員が急に必要となる時があります。その時のため、基地の給養員も海上自衛官である必要があるのです。有事に備えるということは、そういうことなのです」(同・軍事ジャーナリスト)


■財務省は自衛隊員を殺す


 財務省に自衛隊員は殺される──こんな物騒なことを言う隊員もいるという。陸上自衛隊の隊員が携行する「救急医療キット」が貧弱なためだ。

「かつて自衛隊のキットは、極端に言うと、包帯と三角巾ぐらいしか入っていませんでした。さすがに今は改善されましたが、アメリカ軍と比べると貧弱です。例えば、アメリカ軍の場合はモルヒネを筆頭に様々な医薬品が準備されていますから、負傷しても鎮痛などの応急処置を施され、救援を待つことができます。ところが自衛隊員は、激痛にのたうち回りながら戦死する可能性があるのです。薬事法の規制といった問題もありますが、財務省の予算査定が厳しすぎるのも原因の一つです」(同・軍事ジャーナリスト)

 もちろん、自衛隊員の“言い分”ばかりを聞き、財務省を悪役にするつもりはない。防衛省にも猛省すべき点があるという。

「防衛省は、有償軍事援助(FMS)の問題を抱えています。極めて簡単に言うと、自衛隊はあまりにもアメリカ側の“言い値”で武器を購入させられているのです。おまけに前金で、納期もアメリカ任せです」(同・軍事ジャーナリスト)


■求められる“適正価格”


 ドイツやフランスといった先進国でも、値引き交渉は当たり前のように行っているという。特に大口契約が安くなるのは、民間と変わらない。

「さらには、アメリカ政府に『わが国への民間投資を促進させてほしい』と“交換条件”を持ち出す場合もあります。武器を買う代わりにアメリカ企業に工場を作らせ、自国民の雇用を増やしたり、自国の農産物をアメリカに買ってもらったり、というわけです」(同・軍事ジャーナリスト)

 防衛費が増額されたなら、倉庫、掩体壕、小銃、迷彩服、救急キット……という、自衛隊員が切実に充実を願っている分野に振り向けるのも大事だ。

 その上で、アメリカ製の兵器について「効率の良い買い物をする」ことも求められている。

「値引き交渉を防衛省は行うべきなのです。『要求する販売価格は適正なのか、日本側の購入計画は適正なのか』を精査し、問題があれば、アメリカに正々堂々と要求すべきでしょう」(同・軍事ジャーナリスト)

註:防衛費「増額すべきだ」57% ウクライナ侵攻で関心高く(産経新聞電子版・4月18日)

デイリー新潮編集部

関連記事(外部サイト)