【櫻井よしこ氏特別寄稿】安倍総理の魂はいまも生きている

【櫻井よしこ氏特別寄稿】安倍総理の魂はいまも生きている

首相官邸での対談(2015年)

■「安倍総理は松陰先生と似ているところがある」


 ジャーナリスト櫻井よしこ氏の本誌(「週刊新潮」)連載「日本ルネッサンス」の特別対談で、最も多くご登場いただいた政治家こそが、安倍元首相その人だった。志をひとつにしながら実は“緊張関係”にあったという二人。憂国の熱弁を揮った宰相の素顔を、櫻井さんの緊急寄稿で振り返る。

(この記事は、前・中・後編の【後編】です)

 ***

 地元山口県で長年安倍氏を支えてきた人物に清原生郎氏がいる。安倍氏がこう教えてくれた。長いつき合いだが一度も頼まれ事を受けた記憶がない。ただ、13年12月、(現職総理として)靖国神社に参拝したとき、「総理、ありがとうございます」と、お礼を言われた。こういう立派な人たちに支えられている自分は幸せだ、と。

 清原氏は吉田松陰の信奉者でもある。氏は「安倍総理は松陰先生と似ているところがある」と語る。信念を貫く意志と、抜群の行動力において共通するというのである。松陰は教育者であり、必ず率先垂範した。


■29年の短い人生を駆け抜け処刑された吉田松陰


 幕末、松陰は急(せ)いていた。早く変わらなければ日本は外国の侵略を受ける。彼は松下村塾の門下に書き送った。

「余りも余りも日本人が臆病になり切ったがむごいから、一人なりと死んで見せたら、朋友故旧(古くからの友人)残ったもの共も、少しは力を致して呉れうかと云う迄なり」

 松陰は、時代の大変革の中で、なぜ、皆は目醒めないのか、皆を目醒めさせるために自分が死んでみせようかと言っているのである。

「同じような烈しさが安倍総理の中にもあるのでしょうか」と清原氏は穏やかな口調で語る。

 松陰は29年の短い人生を駆け抜け処刑された。身分の上下を問わず、来る者全てを受け入れて、教えた。そして皆に、とりわけ女性や子供、貧しい人たちに優しかった。松陰の母への手紙は、平易な仮名文字で、優しい言葉に乗せて母を大切に想う気持ちを綴っている。

「櫻井さん、松陰先生がほのかに心を寄せた女性のことを知っています?」

 と、安倍氏が聞いた。

 私は『吉田松陰全集』を読みかけているが、そこにはまだ到達していない。そう言うと、安倍氏が返した。

「あの女性(ひと)はね、松陰の初恋の人だと思うんだよね」

 安倍氏が少年のようにはにかんだ。


■昭恵夫人は「自分が死んだことを本人は知らないと思います」


 今、手元に一葉の写真がある。昨年12月、下関で一緒に撮影したものだ。総理の表情は優しく、くつろいでいる。こんな優しい表情を見せてくれたのは初めてだ。安倍氏と私の間にいつもあった小さな緊張感は、少なくともここでは消えている。

 暗殺される前の安倍氏は、恐らく、これまでの人生で最も充実した段階にあった。2回の首相体験が安倍氏の自信を盤石のものにしていた。まぶしい程に輝き、人生の絶頂にあった。

 おだやかな表情で横たわる御遺体の傍らで昭恵夫人は「自分が死んだことを本人は知らないと思います」と語った。

 苦しみもなく逝ったであろうと昭恵夫人は言う。

 私は想った。安倍総理の魂はいまも生きている。そう考えて、「日本を取り戻す!」と叫んだ安倍氏の遺志を継いでいこうと、決意した。

(了)

櫻井よしこ(さくらい・よしこ)
ベトナム生まれ。ハワイ州立大学歴史学部卒業。「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局員、日本テレビ・ニュースキャスター等を経て、フリー・ジャーナリストとして活躍。著書に『何があっても大丈夫』『日本の覚悟』『日本の試練』『日本の決断』『日本の敵』『日本の未来』『一刀両断』『問答無用』『言語道断』(新潮社)『論戦』シリーズ(ダイヤモンド社)『親中派の嘘』『赤い日本』(産経新聞出版)などがある。

「週刊新潮」2022年7月21日号 掲載

関連記事(外部サイト)