五輪マラソン札幌移転の裏に「橋本聖子五輪相」と「北海道カジノ利権企業」の繋がり

五輪マラソン札幌移転の裏に「橋本聖子五輪相」と「北海道カジノ利権企業」の繋がり

橋本聖子五輪相

「東京五輪マラソン」は「北海道カジノ」の生け贄にされた。本誌(「週刊新潮」)はその構図について詳報してきたが、橋本聖子・五輪担当相もキーマンの一人。彼女への「違法献金」を取り沙汰された企業グループは、なぜカネと土地を差し出してまでカジノ誘致に邁進するのか。

 橋本聖子・五輪担当相の半生はオリンピックと共にあった。生まれたのは1964年、東京五輪が開幕する5日前。北海道の早来町(はやきたちょう)(現・安平町(あびらちょう))で牧場を経営する父、善吉氏は聖火にちなみ、「聖子」と名付けた。そんな彼女がスピードスケートでサラエボ冬季五輪に出場したのは19歳の時。以降、自転車競技も含めて計7回五輪に出場し、92年に開催されたアルベールビル冬季五輪では銅メダルを獲得している。それは、日本の女子選手が冬季五輪で初めて獲得したメダルであった。

 参議院選挙で初当選を果たしたのは95年。現在5期目の彼女はずっと大臣の椅子とは無縁だったが、今年9月の内閣改造で初めて五輪担当相に就任した。それから1カ月余りが経過した10月中旬になって突如浮上した、2020年東京五輪のマラソン・競歩「札幌開催案」。北海道出身の橋本氏が五輪担当相の椅子に座っているタイミングで「札幌案」が計画され、先頃正式決定となったことは決して偶然ではない。

 マラソン・競歩を札幌で行う代わりに鈴木直道・北海道知事にカジノ誘致を了承させる――。本誌は2週にわたって「札幌開催案」の背景にあるそんな構図を詳報してきたが、橋本大臣は早い段階でその計画について知らされていた一人だ。そして実は、北海道におけるカジノを中心とする統合型リゾート施設(IR)の“重要プレイヤー”が、橋本大臣と深い繋がりを持つ企業グループなのである。

 競走馬の産出・育成事業で圧倒的な実績を誇る「社台グループ」。複数の牧場と馬主クラブなどで構成されるこのグループを率いるのは吉田3兄弟だ。社台ファームは長男の吉田照哉氏、ノーザンファームは次男・勝己氏、追分ファームは三男・晴哉氏がそれぞれ代表を務めている。ちなみにノーザンファームは、あのディープインパクトを生み出した牧場としても知られている。

「競馬をやっていて社台グループを知らない人はまずいません。社台が存在しなければ日本の競馬は成り立たないといっても過言ではない。獲得賞金の額で見ても、全体の半分以上を社台の馬が占めている」(競馬記者)

 いわば、競走馬界の「巨人」。そんな社台グループと橋本大臣の関係が明るみに出たのは16年のことだった。

「当時、自民党の参院議員会長だった橋本さんが代表を務める『自民党北海道参議院比例区第83支部』が、農林水産省の交付金の交付決定を受けた北海道の2社から計42万円を寄付されていたのですが、そのうちの1社で12万円を同支部に寄付していたのが社台グループの『社台コーポレーション』だった」

 と、政治部記者。

「政治資金規正法では、国の補助金などの交付決定を受けた法人に対し、通知から1年を経過するまで政党や政治資金団体への寄付を禁じている。つまり“違法献金”ということ。橋本さんは慌てて両社に寄付金を返還しました」

 2015年分の政治資金収支報告書が公開されたことで明らかになったこの不祥事。それを報じる新聞各紙では触れられていないが、報告書を改めて確認すると、そこには興味深い事実が記されていた。社台グループの企業からの寄付は「社台コーポレーション」だけではなく、「ノーザンレーシング」も12万円を寄付。さらに、吉田3兄弟が揃って12万円ずつ寄付しているのだ。その翌年は照哉氏と勝己氏が12万円ずつ。翌々年の17年は晴哉氏が12万円を寄付しており、橋本大臣と社台グループの関係が脈々と続いていることが分かる。

 ちなみに、補助金などの交付決定を受けた法人からの寄付はアウトだが、その法人の社長などが個人で寄付した場合、違法とはならない。そのため、問題が発覚した際、橋本氏は「社台コーポレーション」からの寄付金12万円については返還したが、同社の吉田照哉社長からの寄付金は返していない。が、「社台コーポレーション」と吉田照哉社長は当然ながら一体。社長が個人で献金した分を返還しないのは法の網をすり抜けるかのような行為で、橋本大臣の意識の低さが窺えよう。


■世界の富豪


 両者の結びつきを示すのは、「献金」だけではない。吉田勝己氏が経営する「ノーザンホースパーク」では11年から毎年、ノーザンホースパークマラソンが行われているが、その大会会長を務めているのが橋本大臣なのである。

「このマラソン大会の開催にこぎつけるために、橋本さんが尽力したという情報もあります」

 と、道政関係者。

「大規模なマラソン大会となると警備上の問題から警察との協力が欠かせないのですが、その許可を取るのがなかなか難しい。そこで動いたのが橋本さんで、北海道警に度々かけあったと言われています」

 橋本大臣の事務所にノーザンファーム及び吉田勝己社長との関係について聞いたところ、

「安平町早来、苫小牧市は橋本が生まれ育った故郷であり、全国比例とはいえ、地元の皆様には広く支援いただいています。『ノーザンファーム』代表の吉田勝己氏にもパーティ券も購入いただいており、法令に基づいて適正に処理しています」

 との回答が寄せられた。

 では、橋本大臣と様々な繋がりを持つ社台グループは「北海道カジノ」に如何なる形で関わっているのか。

 道内の優先候補地となっている苫小牧市。IOCの調整委員会で東京五輪マラソンの札幌開催が正式に決定する直前の10月28日、苫小牧市議会でカジノ誘致を求める決議案が可決されたことは本誌11月7日号でお伝えした通りだが、

「ノーザンファームの吉田勝己さんは、カジノ誘致を推進する『苫小牧統合型リゾート推進協議会』の副会長を務めています」(苫小牧市政関係者)

 それだけではない。吉田氏の“本気度”が分かる記事が10月2日付の北海道新聞朝刊に掲載された。

〈IR用地「ノーザン」提供 誘致時 苫小牧市に約100ヘクタール〉

 そんな見出しの記事によると、道がカジノ誘致を決め、苫小牧市内での誘致が固まった場合、前出の「ノーザンレーシング」社が約100ヘクタールもの土地を市に無償譲渡する方向で調整しているというのだ。同社の社長は吉田勝己氏。いかにカジノ誘致の旗振り役とはいえ、広大な土地をポンと寄付するとは何とも太っ腹――と思っていたら、どうやらそうではないようだ。そこには“戦略”があるのである。

「カジノ誘致に成功すれば、ノーザンレーシングの吉田さんは無償提供した土地の代金などすぐに回収できるほど大きなメリットを得ることになります」

 と、先の苫小牧市政関係者は言う。

「馬を購入する馬主は日本だけではなく、全世界にいます。しかし現状では、そういう人たちが苫小牧に来たとしても泊まれるところがない。それを解消してくれるのがカジノ。カジノが出来て高級ホテルが建ち、新千歳空港にプライベートジェットの発着場まで整備されたら、世界の富豪、例えばアラブの石油王とかヨーロッパの貴族などがどんどん苫小牧にやって来るようになるはずです」

 現状では、世界の富豪たちがノーザンの馬を購入する場合、ネットなどを利用することが多いが、

「苫小牧に高級ホテルがあれば富豪たちは実物を見て馬を買うことが出来ますから、今とは比べ物にならないほどのお金がノーザンに落ちるようになるでしょう」(同)

 世界に目を向けたビッグビジネスチャンス。土地の無償提供はそのための「先行投資」というわけなのだ。


■3兄弟の“格差”


「ノーザンファームの吉田社長はたくさん稼いでも、その金で新しい種馬や繁殖牝馬を買ったりして、どんどん“次”に突っ込んでいく。そういう投資をずっと続けている人で、それでノーザンファームをここまで大きくしたのです」

 と、先の競馬記者。

「実は、社台グループの中でも吉田3兄弟の間でかなり“格差”が出てきています。もちろんダントツなのはノーザンファーム。GIレースの出走馬を見ても、ノーザンファームが圧倒的に多く、時折、社台ファームを見かけるくらいです。日本の競馬界はノーザン一強になっています」

 国内に敵なし。吉田氏の“次”のターゲットが世界の富豪となるのは、必然だったのかもしれない。

「吉田さんはイギリスのロンドンで馬を売り買いしている大富豪たちの目を自分のところに向けさせたいのでしょう。日本という国は、アラブの王族たちにとってはやっぱり遠く、まだまだな国ですからね……」

 とは、競馬業界関係者。

「あと、今年の7月にディープインパクトが死んでしまったことも大きかったと思います。ディープインパクトの種付け料は一番高い時で1回約4千万円。1年で200回種付けするとして、全部で80億円です。ノーザンとしては、とんでもない金を稼ぎ出していたディープインパクトが死んでしまった“穴”を埋める必要があるのです」

 無論、カジノ誘致が実現しなければ、吉田氏が描く様々な“夢”は全て幻に終わる。

 では、そのカジノを巡る今後のスケジュールはどうなっているのかと言えば、すでに“待ったなし”の状況である。約2カ月後の来年1月7日に政府はカジノ運営を監視する「カジノ管理委員会」を設置。20年度内にも最大3カ所のカジノ開設地を決める予定となっている。が、北海道の鈴木知事はまだ誘致表明を行っていない。

「北海道新聞が行っている世論調査では、道民の6〜7割がカジノに反対している。また、北海道新聞は紙面でカジノ反対のキャンペーンをはっており、道民の意識を変えるのは中々難しい状況。そのため、鈴木知事は誘致表明に二の足を踏んでいるのです」

 と、先の道政関係者。

「さらに鈴木知事にとって頭が痛いのは、与党である自民党の道議会議員が一枚岩でないところ。自民党の所属でありながらカジノは大反対と公言している議員がいるのです。また、創価学会も婦人部がカジノに反対しており、公明党の議員もどちらに転ぶか分かりません」

 つまり、鈴木知事にとってカジノ誘致表明は、政治家としての今後の命運を左右しかねない“賭け”となる。決断のためには誰かに背中を押してもらう必要があるが、東京五輪のマラソンと競歩の「札幌開催案」はまんまとその材料として使われたわけだ。

 五輪マラソンまで呑み込んで膨れ上がる「北海道カジノ利権」。ポーカーフェイスを崩さないプレイヤーたちの“騙し合い”はすでに始まっている――。

「週刊新潮」2019年11月14日号 掲載

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