人気沸騰の「吉村洋文」大阪府知事 私が聞いた“浪速っ子の琴線に触れる発言”

人気沸騰の「吉村洋文」大阪府知事 私が聞いた“浪速っ子の琴線に触れる発言”

吉村洋文知事(著者撮影)

 「トンネルの出口を示してくれたら元気でるわ」(飲食店主の60代男性)。「行動力あるし、すごい頑張ってる。ハンサムやし。ファンになりましたよ」(大阪市の30代の女性)。

 大阪府の吉村洋文知事(44)の人気が急上昇している。関西では連日のようにテレビ出演(リモート出演含む)し、スピーディに次々と手を打つ姿が、コロナウイルスによる緊急事態宣言で閉塞感に打ちのめされる府民の共感を呼ぶようだ。「吉村寝ろ!」との応援ツイートも話題になった。


■パチンコ店名を公表 具体的数字で説得力


 連休明けを待たず子供の日に吉村知事が打ち出した緊急事態宣言からの「出口戦略」は(1)新規感染者のうち経路不明者が10人未満(2)PCR検査数に占める「陽性率」が7%未満(3)重症患者向けの病床使用率が60%以下。この三つをすべてクリアした日が一週間続くことが解除の条件だ。

「この一か月、府民には血のにじむ思いで協力していただき、感染をずいぶん抑え込んだ。どうなったら解除できるのか。出口戦略をきっちり示す必要がある」と意気込んだ。実際、感染者数は着実に減少した。府内の感染者は7人と、三月末以来、初めて一桁になっている。GW中にも三条件ともクリアした日も日あった。

 これより前、吉村知事は4月24日、休業要請に応じなかったパチンコ店6店について、全国に先駆けて店名を公表した。これには「維新の会」で吉村氏を引き立ててきた橋下徹前大阪市長までが「このような形での名前の公表は明らかに罰金刑より重い罰」と懸念を示した。ところが公表した店には他府県からも客が押し寄せ、周辺住民から苦情が出ても休業しないため、吉村知事は「休業指示を出す」と発表した。罰則はないが、要請より上の行政命令であり、無視するのは違反になる。これも全国初。筆者が取材に行った堺市のパチンコ店は指示が出る日に閉めた。これで大阪府は全店が休業し、結果的には指示は出さずに済んだ。一方で「大阪の後追い」で名を公表した兵庫県は聞き入れなかった神戸市内の3軒に指示を出す事態になっている。

 遡るが3月の連休前に吉村氏は「兵庫県との往来を自粛してほしい」として物議を醸した。JRなら兵庫県の尼崎駅から大阪駅に行くより、大阪市内の天王寺駅から大阪駅へ行く方が長く電車に乗るわけで、「県境往来の自粛」にどれほど意味があったのか定かではない。この時、吉村氏は根拠とした厚労省の文面を読み違えており、ネットなどでは「日本語読めない弁護士」などと揶揄されていた。とはいえ「民には知らしむべからず」が沁みついている官僚(旧自治省)出身の井戸敏三兵庫県知事と違い、弁護士の吉村氏はすぐ厚労省の文書を公表し、テレビ出演して説明していた。吉村知事がコロナ騒動で「独自策」を積極的に打ち出すのはこの辺りからだ。


■懸念にも手放しで絶賛のメディア


 独自の「大阪モデル」について吉村氏は「リーマンショックでは8000人が自殺した。感染によって失われる命と経済によって失われる命がある。両方守っていく」とテレビで語っていた。しかし独自案には批判もある。りんくう総合医療センター(泉佐野市)で重傷患者を治療している倭正也・感染症センター長は「病床の基準の根拠などがはっきりと示されておらず、現場の医師らとの議論をせずに決めたという印象だ。大阪府内では新規感染者数が減る一方で、院内感染や施設内感染は増え、死者が相次ぐなど、懸念材料も残る。自粛が解除されれば、病院への負担が一気に増す恐れもある」としている。(読売新聞 5月6日朝刊)。大阪府だけが先に緊急事態宣言を解除すれば、兵庫、京都、和歌山などから人がなだれ込む恐れがある。吉村氏は数字を出したことの意義を強調するが、「匙加減」で判断できず、逆にその数字に縛られ、他地域が解除しても大阪が解除できないこともありえる。

 しかし5月31日までの緊急事態宣言の延長を決めた安倍首相が「可能であると判断すれば期間満了を待つことなく解除する考えであります」と抽象的なことしか言えない中、数字を示したインパクトの強い提言はそんな懸念を吹き飛ばすほどメディアにも礼賛されている。

 朝日放送(大阪)のニュースバラエティ番組ではゲストの弁護士が「解除してまた悪くなった時のこともしっかり示している」と吉村氏を手放しで称賛した。ぶり返すわけにいかないから対策に苦慮しているというのに。


■強運だった「入れ替えW選挙」


 吉村洋文氏は大阪府出身、九州大学法学部卒。顧問弁護士を務めていたやしきたかじん氏(故人)に推されて政治家を目指し、2011年大阪市会議員に当選、14年には「維新旋風」で衆院議員に当選した。翌年には橋下徹市長の辞任に伴い、自民党大阪のエース柳本顕市議団長を破って市長に当選した。当初は橋下氏や松井一郎知事の陰に隠れ、サンフランシスコ市との友好都市をサ市が従軍御慰安婦像を撤去しないことを理由に解消したことくらいが目立った。それも橋下氏が強く主張していたものを引き継いだだけだ。それがコロナ対策では独自性を打ち出し俄然、目立っている。

 かつて「おもろそうやんか。いっぺんやらしてみたらええやん」のようなノリで横山ノック(故人)を知事に選んでしまった浪速っ子。伝統的に「儲かりまっか?」で商売には関心は強いが政治や行政にはさして関心を持たなかった。横山ノック氏を継いだ太田房江元知事についても、彼女の政治よりも「土俵に上がるのか、上がらんのか」が主たる関心事だった印象だ(太田氏は大相撲大阪場所の表彰式で土俵に上がりたがった、相撲協会に「女性は上がれない」と拒否されひと悶着あった)。

 そんな浪速っ子に政治に初めて関心を持たせたのが橋下徹氏であることは間違いない。

 「民の不満」を巧みに掴んでゆく橋下手法を間近に学んだ吉村氏。今回、「あのパチンコ屋まだやっとるで、何とかせえや」「政府の発表では何もわからへん。いつまで我慢したらええんや」など鬱積する府民の不満を敏感に汲み取っては、先手を打つ皮膚感覚、さらには明快な説明力が高く評価されている。

 筆者が出席したある会見で吉村知事は「大阪の人は奔放な人ばっかり、みたいに言われてるけど、いざとなったら全国で一番団結してくださるのが大阪の人なんですよ。去年のサミットの時でも『車で動かないで下さい』とお願いしたら、街から車はさっと消えました」と浪速っ子の琴線に触れるような「持ち上げ」も忘れない。

 記者会見で前を向いているように見せかけて、用意してもらった原稿が映るプロンプターを見なければ何もできない安倍首相の「無能ぶり」が暴露される中、専門家会議などの助言は受けても自身で考え判断、発言する若い吉村氏の姿が評価されている。

 新型コロナウイルス問題では小池百合子都知事、吉村大阪知事を筆頭に全国の知事たちの露出が過去に例がないほどに多い。大阪だろうが横浜だろうが市長には知事ほどの露出はない。昨年4月、世間をあっと言わせた「維新奥の手」の「入れ替えW選挙」で松井知事と交代して大阪市長から知事に鞍替えした。これで今、全国の注目を集めるようになった。危なっかしいが強運な男でもある。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」「警察の犯罪」「検察に、殺される」「ルポ 原発難民」など。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年5月10日 掲載

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