第二、第三の吉村洋文知事を探せ… コロナ禍で奮闘する知事「5人」の素顔

【新型コロナウイルス】第二、第三の吉村洋文知事になる可能性のある5知事に注目

記事まとめ

  • 新型コロナを巡り、吉村洋文大阪府知事など都道府県の知事がクローズアップされている
  • 第二、第三の吉村洋文知事になる可能性のある5人の知事について、素顔に注目している
  • 岩手県の達増拓也知事、石川県の谷本正憲知事、鳥取県の平井伸治知事などに注目

第二、第三の吉村洋文知事を探せ… コロナ禍で奮闘する知事「5人」の素顔

第二、第三の吉村洋文知事を探せ… コロナ禍で奮闘する知事「5人」の素顔

達増拓也・岩手県知事(Markmark28/Wikimedia Commons)

 今ほど都道府県の知事がクローズアップされている時代はない。新型コロナウイルス対策に関する権限の多くを知事が握っているからだ。国による緊急事態宣言が解除されようが、知事と新型コロナとの戦いは終わらない。5人の知事の奮闘と横顔を点描する。


■達増拓也・岩手県知事(55) 2007年初当選 4期目 年間報酬1789万円(2018年)


 岩手県は全国の都道府県の中で唯一、新型コロナの感染者が確認されていない(5月20日現在)。運や偶然ではないようだ。いち早く対策に着手していた。

 五輪聖火リレーのリハーサルが東京で華々しく行われた2月15日から3日後の同18日、達増知事は自分を本部長とする新型コロナの対策本部を設置した。東京など7都府県に緊急事態宣言が発出されるより8日早い3月30日には「東京、神奈川、埼玉から来県する方は2週間、不要不急の外出を自粛し慎重に行動していただきたい」とアナウンスした。

 その2日後の4月1日、今度は県民に対し、東京などで1泊以上して戻ってきたら、2週間は不要不急の外出を自粛するよう要請している。

 一方、4月17日には出産のために千葉県から里帰りしていた女性が、破水して緊急搬送された際、2つの病院が受け入れを拒むという問題が発生。3番目の病院が、PCR検査によって陰性を確認した上で、帝王切開手術を行ったものの、批判の声が上がった。

 達増知事は事前に「医療機関の受診は必要な外出なので、不要不急ではありません」「医療機関の皆様は適切な感染症対策を行った上で、通常通りの診療をお願いします」と説いていた。だが、その認識は医療現場に浸透していなかった。

 小池百合子・東京都知事らが賛同する9月入学制度には慎重な姿勢。「(休校しても)教科を履修できる抜本対策こそ国に求めるべき」と主張している。

 5月15日の会見で検察庁法改正案について問われると、「(改正案を)国会審議から捨てて、新型コロナウイルスへの対策に集中すべき」と発言。同18日、改正案の今国会での成立は見送られたのは知られている通りだ。

 生まれは盛岡市。県内屈指の名門校である県立盛岡一高から東大法学部に進み、1988年に卒業すると外務省へ。在米大使館書記官や大臣官房総務課課長補佐などを歴任。在職中に国費で米国ジョンズ・ホプキンス大国際研究高等大学院を修了した。

 1996年の衆院選に岩手1区から出馬し、初当選。岩手県は、かつて「小沢王国」と呼ばれ、今でも小沢一郎・国民民主党総合選対本部長相談役(77)の影響力が強いが、達増知事の衆院選出馬も小沢氏が当時、党首を務めていた新進党からだった。以降、4期連続当選を果たす。

 2007年、やはり小沢氏が代表だった民主党の推薦で知事選に出馬し、自民党推薦候補らを大差で破って当選した。19年の前回知事選では立憲民主、国民民主、共産、社民の各党から推薦を受け、自民党と公明党県本部の推薦を受けた候補を退けた。

 知事1期目の2009年には県議会本会議で土下座している。08年度補正予算案を議会に提案したが、野党議員による減額修正案が賛成多数で可決してしまい、原案通り認めるよう再議(事実上の拒否権)を求めたからで、土下座した理由を「礼を尽くさせていただいた」と説明した。

 家族は陽子夫人と一男。陽子夫人は、小沢氏が所属していた日本未来の党公認で2012年の衆院選に岩手1区から出馬し、落選した。

好きな言葉は「浩然の気」(「孟子」より。天地にみなぎっている、万物の生命力や活力の源となる気のこと。義を行う時に感じられる)。


■谷本正憲・石川県知事(75) 1994年初当選 7期目 年間報酬1977万円(2018年)


 3月26日に東京、神奈川、千葉、埼玉、山梨の1都4県の知事が、不要不急の外出を控えるよう住民に求めた。それから一夜明けた翌27日、谷本知事は都民らに向けて「無症状の人は、石川県にお越しをいただければ」と呼び掛けた。

 この発言が、県内の感染拡大を招きかねないと批判される。支持基盤の自民党県連からも「観光産業を考えると、一定の理解は出来るが、県民への誤ったメッセージになりかねない」などと苦言を呈された。

 その後も自粛には消極的だったものの、県内での感染者が増え続け、80人を超えた4月6日になると、県民に対し外出自粛を要請。県立学校の臨時休校にも踏み切る。

 4月10日の記者会見では「局面が大きく変わった」との認識を示した上で、「石川県には極力入っていただかないよう対応しなくてはならない」と発言。「結果として認識が甘かった」と釈明した。同13日には金沢市と歩調を合わせ、県独自の緊急事態宣言を出す。

 その3日後の4月16日、国の緊急事態宣言の対象が全都道府県に拡大されると、石川県は東京など13都道府県と一緒に特定警戒都道府県の指定を受ける。特に重点的に感染拡大の防止に向けた取り組みを進める必要がある都道府県の1つとされた。5月14日、ほかの38県と一緒に国の緊急事態宣言が解除されると「今後は感染防止対策と社会経済活動を両立させていく」と確言した。

 兵庫県西脇市生まれ。県立西脇高から京大法学部に進み、卒業後の1968年に当時の自治省(現在の総務省)へ。75年に島根県総務部財政課長、86年に茨城県環境局長にそれぞれ就くなど地方自治体の要職を歴任した。

 1991年には石川県に出向し、副知事に就任。94年に現職知事が死去すると、知事選に出馬した。擁立したのは、県出身の有力者で当時の新生党幹部・奥田敬和氏(故人)ら。新生、公明、民社、日本新、社会の各党が推薦した。自民党はやはり県出身有力者の森喜朗氏(82)の眼鏡にかなった元農水官僚を推薦したものの、谷本知事が当選した。

 2018年の前回知事選では自民党県連、公明党県本部、民進党県連、社民党の推薦を得て7選を果たす。圧勝だった。現職知事では最多の当選回数を誇る。

 観光事業の推進に熱心で、2015年にはユーミンこと松任谷由実さん(66)に県観光ブランドプロデューサーを委嘱。また、99年には「いしかわ動物園」をオープンさせ、16年には同園に「トキ里山館」を新設した。

 産業振興にも力を入れており、2010年度には企業の新技術開発などを支援する「いしかわ次世代産業創造ファンド事業助成金制度」を創設。その規模は300億円で、地域独自のファンドとしては全国最大規模。

 家族は夫人。好きな言葉は「誠実」「衆人皆師」。


■杉本達治・福井県知事(57) 2019年初当選 1期目 年間報酬1970万円(推定) 


 全国的にマスクの品薄状態が続いていた4月19日、県内全世帯にマスク購入券を配布すると発表。購入券は同23日から郵送された。この券を県内のドラッグストアに持参すると、50枚入りボックス(税込2350円)が2箱まで買えるようにした。

 首都圏では楽観ムードが強かった2月18日、県庁に感染症学の権威として名高い岩崎博道・福井大医学部教授を招き、県と市町村職員を対象とする研修会を実施。岩崎教授は「うがいやマスクより、手洗いをしっかりするほうが感染を防げる」と、具体的な予防法などを説いた。

 県内感染者が42人に達した4月3日には緊急会見を開き、県民に対し、感染が広がっていた首都圏や関西圏との不要不急の往来の自粛するよう要請。また、平日夜間と週末の不要不急の外出も控えるよう呼び掛けた。

 国の緊急事態宣言が全都道府県に拡大される2日前の4月14日、県独自の緊急事態宣言を発出。平日夜間と週末に限定していた不要不急の外出自粛要請を、平日昼間も含めた終日に広げた。また、ほかの都道府県からの不要不急の来県も自粛を求めた。

 事業者への休業要請は4月25日から。業種は飲食店、劇場、パチンコ屋など約100業種におよんだ。ただし、関西電力の大飯発電所など原発は対象外に。社会生活の維持に必要な施設と判断した。

 9月入学制度については「反対ではないが、冷静な議論が必要」と発言し、慎重な構え。

 岐阜県中津川市生まれ。進学校の同県立多治見北高から東大法学部に進み、卒業後の1986年に当時の自治省に入省した。総務大臣秘書官などを務めた後、2004年に福井県に出向し、総務部長に就く。内閣参事官などを歴任した後の2013年には再び福井県に出向し、今度は副知事に就いた。

 2018年、退職。翌19年の知事選に出馬した。ライバルは知事を4期務めた現職で、かつての上司であり、自治省の先輩でもあった。その上、どちらを支援するかで自民党県議が分裂。最終的に自民党本部は杉本知事を推薦した。

 原発に絡む金品受領問題が起きた関西電力に対しては今年3月、「地元との信頼関係は完全に地に落ちたと、肝に銘じてほしい」と猛省を促した。

 家族は夫人と1男1女。座右の銘は「人に処すること藹然」(中国古代の格言「六然」の1つ。人にはいつも和やかでいなさいという意味)。


■平井伸治・鳥取県知事(58) 2007年初当選 4期目 年間報酬1614万円(2018年)


 感染拡大によって全国的に文化や芸術のイベントの中止・延期が相次いでいた4月2日、県として文化・芸術を支援すると表明。県内の会場で無観客公演を行い、ネットでライブ配信する場合、その経費の一部などを補助すると発表した。

「文化芸術は生活に必要なインフラの一つ」(平松知事)

 4月7日に東京など7都府県で国の緊急事態宣言が発出されると、翌8日に対策本部会議を開く。その中で、7都府県から県立学校に転入する生徒は14日間にわたって出席停止とすることを決めた。同時に、該当生徒の学習はオンライン教育で行う方針も固め、親と生徒の不安を和らげた。

 国の緊急事態宣言が鳥取県を含めた全国に拡大した4月16日、「(新型コロナ対策は)全都道府県でスクラムを組んでやっていく必要がある」と理解を示す。当時、県内の感染者は1人に留まっていた。

 生まれたのは東京・外神田。東大合格者数トップの開成高から東大法学部に進み、1984年に卒業すると、当時の自治省へ。90年には福井県に出向し、財政課長などを歴任。自治省に戻り、税務局企画課理事官などを務めた後の99年には鳥取県に出向。総務部長を経て、39歳の若さで副知事に就任した。

 その後、総務省ニューヨーク事務所長などを務め、2007年に退職。翌08年、知事選に出馬し、初当選。自民、公明の両党から推薦を受けた。19年の前回選挙では立憲民主党、自民党県連、国民民主党県連、公明党県本部から推薦を得た。

 2012年にはスターバックスが隣県の島根に進出したため、全国で唯一、スタバのない都道府県に。その際、テレビ局から感想を求められると、「スタバはありませんが、日本一のスナバ(砂場=鳥取砂丘)があります」と答え、話題に。県の存在感アップに一役買った。

 単なるダジャレのように思われたが、その言葉にはスタバがないことを冷ややかに見るほうがおかしいという反骨精神が込められていたという。ただし、スタバは2015年には県内にも出店。現在は4店舗ある。

 人口は約69万5000人。全都道府県の中で最も少ない。それも背景にあって、「移住定住支援」「子育て支援」に熱心。医療費や保育料を助成している。保険適用外の不妊検査も全額助成する(条件は35歳未満か結婚3年以内)。また、高校生の通学定期券代も助成している。

 18歳未満の子供を育てている親には「とっとり子育て応援パスポート」を発行。これを協賛店舖で提示すると、商品などの割引などが受けられる。店舗によっては授乳室の利用も出来る。

 ひとり親支援にも力を入れている。ひとり親が生活援助や保育援助を必要とする場合、家庭生活支援員を派遣。中高生の学習サポートや、ひとり親の就職や資格取得の支援なども行っている。

 家族は夫人と2男。座右の銘は「人は城、人は石垣、人は堀」。


■中村時広・愛媛県知事(60) 2010年初当選 3期目 年間報酬1951万円(2018年)


 2月24日、集団感染が起きたダイヤモンド・プリンセス号から降りた乗客のうち、愛媛県在住者は7人だと県が発表。その全員のPCR検査を行い、感染者はいないことを確認した。

 7人のうち、5人は2月20日に下船し、同21日に2人が下りていた。だが、厚労省から県に名前や連絡先などを知らせたのは同23日未明。中村知事は翌24日の記者会見で、「遅いんじゃないか」と不信感を表した。

 県内で初の感染者が確認された3月2日には、県立衛生環境研究所での検査態勢を強化すると表明。1日に可能な検査数を約20件から40〜80件に増やすと明言した。

「万全の対策をしたい」(中村知事)

 3月24日には医療体制の充実や経済支援などの緊急措置のため、補正予算計97億6147万円を専決処分(予算やなどを知事が議会の議決を経ずに自らの権限で決定すること)している。

 愛媛県を含む39県では国の緊急事態宣言が5月14日解除されたものの、その直前に松山市の病院で職員と患者計20人の集団感染が発覚。このため、愛媛の宣言解除には、この感染経路を徹底調査し、国に報告するという条件が付けられた。

「20日間は封じ込めに成功していたが、一夜にしてこういうことが起こる。これがコロナなんだとあらためて痛感した」(中村知事)

 松山市生まれ。幼稚舎から慶應に通い、1982年に慶應大法学部を卒業。三菱商事に入社し、燃料部門に勤務する。87年に愛媛県議会議員選挙に出馬し、初当選。90年には衆院選に旧愛媛1区から出馬するが、落選。93年衆院選で再び同区から日本新党公認で出馬し、当選する。

 94年に日本新党が解党されたため、新進党へ。96年衆院選に愛媛1区から出馬したものの、落選。99年、松山市長選に出馬し、現職を破って当選。父・中村時雄氏も元松山市長であり、2代続けて市政を担う。

 2010年には知事選に出馬し、当選。自民党県連、公明党県本部が推薦し、民主党県連が支持、社民党県連が支援した。18年11月の前回知事選では自民、国民民主の両党県連が推薦し、公明県本部が支持した。

 同年4月、今治市に設置された岡山理科大獣医学部について、計画段階で県や同市の職員が首相官邸で柳瀬唯夫首相秘書官(当時)と面会したとする県文書の存在が発覚。だが、政権側は面会を否定し、柳瀬氏も認めなかった。

 県職員と文書に疑念が向けられる形になったため、中村知事は同5月に職員が受け取った柳瀬氏の名刺を公開。その際、「県の信頼にかかわる」「(地方公務員にも)誇りやプライドもある」と声を強めた。中央政界、官界に物申す知事として知られるようになった。

 家族は夫人と1男。座右の銘は「至誠通天」

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 新型コロナ禍の収束の日まで知事たちの奮闘は終わらない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
ライター、エディター。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年5月25日 掲載

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