「菅総理」最大の弱点は「しゃべり下手」 語彙力不足、すでに失言も

「駅に行くのは、Aの道とBの道がありますよね。Bの方がこれこれこういう理由でいいと思いますが、なぜAを選んだのですか」

「Aがいいからです」

 文字にしてみれば、まるで小学生のような回答だが、乱暴に言えば、菅義偉・新総理の論法は、これを多少、複雑に述べているに過ぎない。これまでは官房長官として「守り」の立場に終始していたから、それはむしろ長所となることもあったが、これからはそうは問屋が卸さない。

 突如の辞任を受けたにしては、異様な高支持率でスタートした新内閣。読売新聞の調査では74%と、小泉内閣、鳩山内閣に続く数字をたたき出した。

 総裁選を通じてアピールした「地方出身のたたき上げ」イメージがこれに貢献したことは間違いなく、例えばBBCは、「派手さを避ける新首相の性質は、貧しい家の出身ということから来ている」と報じている。

 本誌(「週刊新潮」)でも既に明かしたが、新総理の実家は秋田で手広く商売を広げていたイチゴ農家。父は町会議員も務めるなど決して「貧しい」わけではない。この辺り、出自を積極的に語り、「庶民派」としてのイメージを強める戦略が功を奏したが、こちらはどうか。戦略で糊塗できず、白日の下にさらされているのは、そのボキャブラリーの貧しさである。

「総理のトーク力を危ぶむ声は、今や自民党の共通認識となっていますね」

 とは、さる政治部デスク。

「7年8カ月、官房長官として、マシーンみたいに政府の答弁を外さないように用意された紙を読み上げてきたわけです。いざ総理となってみると、どこまで自分で話していいか、ということがわからないんじゃないかと。国会が始まり、予算委員会や党首討論になれば、どうなるのか」

 実際、就任会見でも、

〈安倍政権が進めてきた取り組みをしっかり継承して、前に進めていくことが私に課された使命である〉

〈アベノミクスを継承して、一層の改革を進めていく〉

 と、前任者の名前を連呼したのは記憶に新しい。数えてみると、30分間に10回と、3分に1度は触れていた計算に。これでは一体誰の内閣かわからないのである。

「とにかく、形容詞や修飾語に乏しいですよね」

 とは政治アナリストの伊藤惇夫氏。

「『〜を検討します』『〜との指摘は当たらない』など、玉虫色の発言が多い。味もそっけもない発言ばかりです」

 それだけなら、逆に「朴訥さ」をアピールする戦略に合致するかもしれないが、意図的なのか、質問に対して「はぐらかし」も目立つ。

 例えば、9月8日のTBS「NEWS23」では、憲法改正について、「自衛隊の存在を明記するだけで、膨大な政治エネルギーを使っていいのか。自衛隊の地位向上など、法律でもっと見直せることがあるのではないか」との問いに、「位置付けを盛り込むことは大事です」という趣旨の話だけを長々回答。

 あるいは、

「アベノミクスが格差を拡大していないか」との問いには、「大事なのは雇用が回復していること」の一点張り。

 訊かれたことに答えず、原則論ないし自分の主張を述べる冒頭の論法を駆使したのである。

「テレ朝の『報ステ』に出ていた時は、思わず笑ってしまいました」

 と述べるのは、さる政治ジャーナリスト。

「『自助、共助、公助、絆』とのキャッチフレーズについて、“最初が自助とは厳し過ぎるんじゃないんですか?”と問われて、延々1分間反論。その後、男性アナウンサーに“それぞれのキーワードがバラバラではないということですね”とあっさりまとめられ、“はい”と言う場面が」

 その後、「コロナ対策」について突っ込まれた際も、延々説明した挙句、同じアナに「だから改正がすべてじゃないということですね」とまとめてもらうシーンがあった。

■角栄との違い


 前出のジャーナリストによれば、

「もともと滑舌が悪い。差しで話していても、何を言っているのかわからないことがあるんです。国会で厳しい質問が来ても、年金問題を追及された際、“人生いろいろ。会社もいろいろ”とかわした小泉元総理のような芸当は難しいでしょうね」

 付言すれば、これだけ守備の発言に徹していた割には、消費税増税やむなしと言及し、波紋が広がると翌日、「10年は上げない」と慌てて修正したり、「自衛隊は憲法で否定されている」と事実誤認の発言をしたりと、失言めいたことも。ますます先が危ぶまれるのである。

「菅さんは、たたき上げとのイメージから、田中角栄元総理と比較されることもありますよね」

 と言うのは、政治評論家の小林吉弥氏。

「ただ、決定的に違うのは、角栄さんは自分の生い立ちの苦労をアピールしなかったこと。また、角栄さんは、自らの政策を語る言葉に自信がほとばしっていましたが、菅さんの発言には、携帯電話の値下げにしろ、デジタル庁にしろ、それが感じられないことです。逃げと原則論ばかりの答弁なら、国会は止まり、国民に見透かされ、支持率はあっという間に落ちてしまう」

 こと国会論戦に関してなら、野党は、今回総裁選に出た3人の中で一番戦いやすいと思っているのでは……と言うのである。

 その菅総理。就任後も「ぶら下がり」取材を受けつけない姿勢を見せるなど、ご本人も弱点を自覚しているように見えるが、

「巧言令色鮮(すくな)し仁、とも言いますからね。答弁が立て板に水というのが必ずしもいいとは思いませんが」

 とは、論戦を共にした、石破茂元幹事長である。

「ただ、菅さんも前々から総裁選に出ると用意していたわけでもなかったでしょうし、いろいろな想定問答が頭に入るだけの余裕がなかったんじゃないでしょうか。次の国会では、つまらないことを聞いて、総理のおしゃべり下手をクローズアップしようとしたら野党に批判が集中する。逆に彼らが日本をどうするのか、というものをちゃんと提示できた場合、それに答えられなかったら、どうしようもない、ということにはなると思いますよ」

 政治は言葉。ましてその頂点に立つ総理は尚更だ。「守りの内閣」の最大の穴は、実は総理自身にあったという皮肉……。身体検査はまずどなたに必要であったのか。

「週刊新潮」2020年10月1日号 掲載

関連記事(外部サイト)