菅義偉と創価学会 かつての敵が学会にとって“歴代最も与しやすい首相”になるまで

菅義偉と創価学会 かつての敵が学会にとって“歴代最も与しやすい首相”になるまで

創価学会は大喜び!?

■菅=佐藤ラインの威力


 菅義偉首相と創価学会の佐藤浩副会長は、《盟友》と評されるほど緊密な人間関係を築いていることは、これまでに何度もマスコミに報じられてきた。それでも、一般の人は「佐藤浩」という名前を初めて知ったという方も多いだろう。

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《盟友》という言葉を使ったのは、経済誌の「週刊エコノミスト」(毎日新聞出版)だ。

 電子版の「週刊エコノミストOnline」は9月25日、社会情報大学院大学の北島純特任教授の署名原稿を配信した。

 タイトルは、以下のような具合だ。

《デービッド・アトキンソン氏の提言で観光立国を推進、創価学会の佐藤浩副会長と盟友関係、大阪維新の会とも太いパイプ……菅新首相の政治力を支える「人脈」の正体》

 その関係が、どれほど緊密なのかを報じたのは朝日新聞だ。9月18日と19日、企画記事の「実像 菅義偉首相」が紙面に掲載された。

 18日の見出しは「脱派閥掲げつつ“菅派”着々 若手ら勧誘『政治はやっぱり数』」というものだが、この記事の中に、2人の緊密な結びつきが描写されている。

 2015年、消費増税に際して軽減税率を導入するのか、導入するとして範囲をどこまで広げるのかといった問題を巡り、自民党の一部と公明党が対立したことがあった。

 この時、菅首相と佐藤副会長が《介入》する場面が朝日新聞には描かれている。


■2人で決めた軽減税率


《官房長官だった菅は党執行部の頭越しに調整に介入した。10%へ税率を上げる際の低所得者対策として公明は食料品を8%にとどめるよう主張したが、自民や財務省は渋っていた》

《菅は公明の支持母体・創価学会副会長の佐藤浩から「軽減税率の導入なしに選挙は協力できない」と告げられた》

《佐藤とは国会議員に当選後、菅の選挙区の神奈川で活動していた縁で知己を得た。官房長官に就いてからは政権中枢にいる自身の力と、佐藤が持つ選挙での集票力とを互いに頼んで足場を強化していった》

《菅は首相の安倍晋三を説き伏せ、自民党税調会長を交代させてまで公明の言い値で決着させた》
(註:全角数字を半角にするなど、デイリー新潮の表記法似合わせた、以下同)。

 菅首相と協力し、公明党の頭越しに軽減税率を導入させてしまう──。この《佐藤副会長》とは一体、どのような人物なのだろうか。


■「絶対的な実力者」


 総合情報誌「FACTA」(ファクタ出版)は13年10月、佐藤副会長について次のように伝えた。

《選挙参謀でもあり、支持政党・公明党の候補者選びでは今や絶対的な権限を握る実力者とされる》

 この記事で、佐藤副会長は53歳と記載されている。すると現在は60歳ということになるだろうか。

(2013年11月号「『創価学会のドン』は死なず 脳梗塞で倒れた池田大作名誉会長が職務に復帰。11月18日の『総本部』竣工祝賀に安倍首相を招き、復活をアピール?」より)

 佐藤副会長とはどのような人物なのか、学会ウォッチャーの乙骨正生氏が解説する。

「佐藤氏は大学を卒業すると、杉並区の男子部長に任命されます。その後、全国の男子部長、青年部長とエリートコースの王道を歩んでいきました」


■教宣・広宣部長として活躍


「全国の男子・青年部長は、選挙を取り仕切るポジションです。だからこそ出世コースなのですが、佐藤氏は別の仕事で評価され、頭角を現します。人のやりたがらない、厳しい仕事で成果をあげたのです」(同・乙骨氏)

 佐藤副部長は教宣部長、広宣部長も歴任している。これが出世の糸口になったという。

「かつて創価学会は日蓮正宗の在家信徒団体という位置づけでしたが、様々な対立の結果、91年に日蓮正宗は創価学会を“破門”します。

 その日蓮正宗の中で、最も反学会の旗幟を鮮明にしていたのが妙観講というグループで、杉並区に本部があります。

 この妙観講など、創価学会に敵対的な宗教団体や、マスコミ、ジャーナリストと対応・対峙するのが教宣部長、広宣部長の役割です。

 精神的にも負担が大きい仕事であるのは言うまでもありませんが、佐藤氏はこれをやり抜くことで、上層部に認められたのです」(同・乙骨氏)


■最初の選挙では「反学会」


 まさに体を張ることで、創価学会に対する忠誠心を証明したということのようだ。

 一方の菅首相だが、初めて衆院選に出馬したのは1996年、この総選挙は新進党が政権交代を謳って自民党に総力戦を挑んだことが最大の特徴だった。

 新進党には公明党の一部議員が参加していた。自民党にとっては文字通りの“敵”だった。

 そのため菅首相は当時、「自民党からも心配の声が出るほどの反学会キャンペーンを張って選挙を戦った」という。乙骨氏が言う。

「96年11月、自民党の機関紙である『自由新報』が菅さんの選挙のことを取り上げています。

 菅さんの対立候補は創価学会プロパーの公明党議員で、新進党の結党に参加し、新進党から出馬しました。

 そのため、菅さんは徹底して学会を攻撃。対立候補が約6万5000票だったのに対し、約7万票を獲得して初当選を果たしました」


■集団的自衛権でも協議


 ところが1999年、自民党は何と公明党と連立を組んでしまう。

「菅さんは神奈川県の本部に出向き、何度も何度も謝罪したといいます。そして神奈川県における公明党候補を全力で応援するようになっていきました」(同・乙骨氏)

 菅=佐藤ラインを、かなり早い段階で報じた新聞の1つに、九州のブロック紙・西日本新聞がある。

 同紙は2014年4月5日、「集団的自衛権を追う」という記事を1面と2面に掲載した。クレジットは《東京政治取材班》となっている。冒頭を引用しよう。

《「今国会中に集団的自衛権をやりたい」

 安倍晋三政権の大番頭である菅義偉官房長官が切り出した。2月中旬、都内で密会した相手は、公明党の支持母体である創価学会の佐藤浩副会長。全国青年部長を務めた実力者で政界とのパイプ役だ。佐藤氏は即座に首を横に振った。

「のめない。それでは共同歩調は取れない」》


■公明党の不興も意に介さず


 この記事には《菅氏が党の頭越しに学会幹部と「握った」ことは、公明党に不快感を広げた》とあるが、ある意味では当然だと言える。

 学会幹部と官房長官が直接、集団的自衛権という極めて重要な政策について協議しているのだ。公明党の面子は丸潰れだろう。

 だが菅首相は、学会とのパイプがある限り公明党は恐るるに足らず、と見透かしていたのかもしれない。

 やはり西日本新聞は14年6月28日の朝刊に「読み解く=集団的自衛権 閣議決定案を自公了承 公明ずるずる後退 容認 割れた創価学会」を掲載した。

 この記事には、余裕綽々とも取れる菅首相の肉声が記載されている。

《政権中枢に座る菅義偉官房長官や自民党筋は早くから、原田稔会長、佐藤浩副会長ら学会幹部とそれぞれ密会を重ね、感触を探ってきた。「俺は全然心配していない」。菅氏は周囲に度々こう語った》


■沖縄県知事選では苦杯


 2018年2月、沖縄県の名護市で市長選が行われた。普天間基地移設の是非が争点となった。

 移設容認派の渡具知武豊市長が勝利するのだが、「FACTA」は「『名護の勝者』は菅長官と創価学会副会長」(2018年3月号)との記事を掲載した。

《政府筋は「菅義偉官房長官と創価学会の政治担当、佐藤浩副会長の連携がものを言った」と解説する》

《告示後は佐藤氏が選挙事務所に陣取り、自民党議員らに「〇△地区で運動量が足りない。もう一度やり直せ」とハッパをかける場面もあったという》

 創価学会の副会長が直接、自民党の議員に指示を出すのだ。“菅官房長官”の後ろ盾がなければできない“越権行為”だろう。

 7か月後の9月、沖縄県知事選では玉城デニー知事が勝利し、菅=佐藤ラインは苦杯をなめた。が、2人の信頼関係は揺らがなかったようだ。


■与しやすい首相


 2019年の北海道知事選で鈴木直道知事が勝利したのは、菅=佐藤ラインの“暗躍”があったからだと、これもFACTAが報じた。

(2019年6月号「『令和おじさんの天領』と化す北海道 菅官房長官が道政に入れあげるのにはワケがある。傀儡知事の誕生は、自らを首相候補に押し上げるから」)

 政治担当記者は「2人の“蜜月”は強化されることはあっても、距離が離れるようなことはありませんでした」と振り返る。

「2014年の総選挙では、維新の会が大阪の選挙区で対公明党の“刺客”を放つ構えを見せると、当時の菅官房長官は佐藤副会長の意向を受けて維新側と協議。結局、維新は立候補を取り下げてしまいます。

 この深く結ばれた関係を学会側から見ると、自分たちの声に耳を傾けてくれる政治家が首相にまで登り詰めたわけです。『菅首相なら、最も与しやすい』と考えていたとしても不思議はないと思います」


■菅首相に期待を寄せる学会


 乙骨氏は、創価学会とこれだけ太いパイプを持つ政治家が首相に就任したのは、「日本の憲政史上、恐らく初めてでしょう」と言う。

「創価学会は政教一致の批判を回避するため、自分たちは政治家と直接コンタクトせず、公明党を間に挟むことを心がけていました。その大前提を崩したのが菅=佐藤ラインということになります」

 創価学会にとっては、自分たちのほうを向いてくれる首相の存在が、ありがたいのは言うまでもない。

「創価学会は今年の11月に90周年を迎えますが、菅政権の誕生はまたとない朗報でしょう。今後を考えると、来年1月に93歳を迎える池田大作名誉会長の健康状態が大きな問題になります。

 学会のXデーに対する備えはあるでしょうが、実際に起きたとなると、様々な混乱が生じるかもしれません。こうした状況の中、菅さんが首相であることは、心強いはずです」(同・乙骨氏)

週刊新潮WEB取材班

2020年10月5日 掲載

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