はんこ文化を守る“令和のドンキホーテ”、自民党「城内実議員」の考え

はんこ文化を守る“令和のドンキホーテ”、自民党「城内実議員」の考え

城内実氏

 永田町や霞が関界隈で「はんこ廃止」の動きが加速している。新型コロナウイルスによるテレワークの浸透により、「ビジネスの現場で稟議書などにはんこを押す」という商慣習の弊害が浮き彫りになったからである。

 河野大臣は10月16日の記者会見で「民間からの申請などの行政手続きで求める押印のうち99%を廃止できる見込みだ」と発表した。内閣府は9月、行政手続きで求める押印の原則廃止を全府省に求めたところ、押印が必要な約1万5000種類の手続きのうち、各省が押印を存続する方針を示したのは111種類に過ぎなかったという。

 政府が行政手続きの押印廃止に向けた動きを加速させる中、「日本の印章制度・文化を守る議員連盟(はんこ議連)」は10月8日に総会を開き、国内有数のはんこ生産地である山梨県の長崎幸太郎知事とともに「不要な押印を廃止する動きによって生じるはんこ事業者への風評被害を防止する」よう、政府に要請した。

 はんこ議連は、印章(はんこ)制度の継続を訴える自民党議員で構成される団体である。

 2019年9月に同議連の会長だった竹本直一衆議院議員がIT政策担当大臣に就任するとメディアが注目するようになった。竹本氏は「デジタル化とはんこ文化は両立できる」との見解を示していたが、コロナ禍の今年5月に会長を辞任したことから、幹事長であった城内実衆議院議員が急遽会長代行となった。

 はんこ議連の会合でマスクをしながら自説を述べる城内氏の姿をメディアが伝えることが多くなったが、大方の国民の印象は「時流が読めない頑迷固陋なドン・キホーテ」だと思う。しかしなぜ城内氏はこのような損な役回りを引き受けたのだろうか。


■城内氏は「温かく、優しく見守って」


 城内氏は1965生まれ、静岡7区選出の5回生議員である。幼少時を西ドイツ(当時)で過ごし、東大卒業後に外務官僚となった。その後政界入りし、外務副大臣や環境副大臣を歴任している。父親は城内康光元警察庁長官である。

 このように書くと、嫌味なぐらいエリートと思われてしまうが、親交がある筆者に言わせれば、城内氏はオタクである。1950年代のヴィンテージ・オーデイオのマニアであり、SPレコードのコレクターでもある。議員会館の事務所に行くと、ヴィンテージ・オーデイオやSPレコードが所狭しと置かれていることに驚かされるが、ユニークな点はさらにある。「衆議院議員落選中に古神道を勉強した」ということで、執務室に立派な神棚が祀ってあるのである。

 とにかくバランス感覚というものがない城内氏だが、はんこの最大産地である山梨県の自民党国会議員を差し置いて会長代行になったのには、巷で言われている「はんこ利権」がさぞ美味しいからだろうか。

 筆者の不躾な質問に対し、城内氏は「そんなもの全くありません。詳しくはわかりませんがデジタル利権の方に注目すべきでしょう。はんこ議連に入ったのは山梨選出の国会議員に誘われたからであって、会長代行になったのも成り行きに過ぎません」とそっけない答えが返ってきた。

 城内氏は「はんこを押すためだけに出社するのは意味がない」とした上で、それでも「はんこがなぜ必要か」と言えば、「インターネットを使うことができない、どうしても紙を使いたいという人もいる。はんこが好きな人を排除しないで、温かく、優しく見守っていただきたい」と訴える。

 世知辛い風潮のせいだろうか、多くの国会議員が「勝ち馬に乗る」ことばかりを気にして「弱者切り捨てやむなし」の行動をとることが多くなっているが、城内氏は「政治は弱い者をつくらない」という古き良き時代の政治家の矜持を大切にしているのかもしれない。

 議連に参加した当初、はんこについて特段の興味を持っていなかった城内氏だが、神業のはんこづくりの職人の存在に触発されて、「日本のはんこ文化に根本的な変革を起こそう」と考えるようになっている。

 日本では今でも成人するとはんこを作る習慣が残っているが、はんこが社会で実効力を持っている国は、世界の中で日本と台湾だけと言われている。

 日本のはんこ文化の歴史は古い。はんこの関わりについての歴史書の記述で最も古いのは、教科書で習う「漢委奴国王」の金印である。中国の後漢書東夷伝に「光武帝が金印を贈った」旨が記述されているが、日本で広くはんこが普及したのは江戸時代中期からだとされている。商人が取引の際に使用することがその理由だが、明治時代になると郵便や銀行などで本人確認に利用されたことで、その使用はさらに広がった。

 日本のはんこ文化は近代化とともに歩んできたことがわかるが、「ポスト近代」のステージに入った現在の日本ではんこに求められているのは、「商慣習」ではなく日々の生活に潤いをもたらす「アート」だと思う。日本のサブカルチャーの世界では、昨年から「消しゴムはんこ(消しゴムを素材にして各自が思い思いの「マイはんこ」を作る)」が話題となっている。

 城内氏は、日本で最も注目されている現代美術作家である小松美羽氏とのコラボを計画している。小松氏は今年8月の「24時間テレビ(日本テレビ)」の「チャリTシャツ」を手がけたが、狛犬などの日本の伝統的な意匠を現在的にアレンジすることで、人々の魂を揺さぶることで知られている。小松氏に魂を吹き込んでもらうことで日本のはんこをアートにしよういうわけである。「はんこルネッサンス」を企てる令和のドン・キホーテの今後の動静に要注目である。

藤和彦
経済産業研究所上席研究員。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)、2016年より現職。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年10月27日 掲載

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