「桜を見る会」捜査の行方は 安倍前総理は不起訴?

「桜を見る会」捜査の行方は 安倍前総理は不起訴?

桜を見る会(2019年4月13日)

「桜を見る会」の捜査が大詰めを迎えているが、果たして安倍前総理の逮捕はありえるのか。東京地検特捜部は、安倍氏への任意の事情聴取や事務所への家宅捜査も視野に入れているというが――。

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 目下、東京地検特捜部の関心は「桜」と「卵」に注がれている――。

 元農水大臣の立件を視野に入れた「卵」の疑惑を詳述する前に、まずは大詰めを迎えた「桜」の捜査について触れておこう。

 言うまでもなく、疑惑の渦中にあるのは、安倍晋三後援会が主催した「桜を見る会」の前夜祭だ。11月23日に、読売新聞が朝刊1面で〈東京地検 安倍前首相秘書ら聴取〉と報じ、一気に問題が再燃した格好である。取材に当たる社会部記者によれば、

「安倍前総理の地元支援者らを集めた前夜祭は、毎年1人5千円の会費制で行われてきました。直近の5年間における会費の総額は計1400万円にのぼりますが、実際の費用はおよそ2300万円。差額に当たる約900万円を安倍氏側が補填していたとされる。さらに、ホテル側は安倍氏が代表を務める資金管理団体“晋和会”宛に領収書を発行したものの、安倍事務所はそれを廃棄したと説明しているのです」

 特捜部は、前夜祭の会計は後援会の収支報告書に記載すべきだと判断しており、

「後援会の代表である前総理の公設第1秘書と事務担当者を、収支報告書への不記載を理由に政治資金規正法違反の疑いで立件する方針を固めています。現状では、二人とも略式起訴で済まされ、罰金刑が科される公算が大きそうです」(同)

 今回の「桜」捜査に繋がる告発状にも名を連ねた、神戸学院大学法学部教授の上脇博之氏は手厳しい。

「この問題を立件する方向であることは評価しますが、秘書ら二人の罰金刑で終わらせるようなら、特捜部の存在価値はなきに等しいと言わざるを得ません」

 たしかに、これでは大山鳴動して鼠二匹。しゃんしゃん総会ならぬ、「しゃんしゃん捜査」の感は否めない。

「報道によれば、費用の不足分を負担したのは晋和会だった可能性が高い。では、差額を補填するためのお金を晋和会はどうやって用意したのか。それこそ、安倍前総理自身の文書通信交通滞在費や、官房機密費が使われたとも考えられます。これらは本来、公務に使うべきお金なので、政治活動に用いられた時点で法に抵触します。晋和会の代表である安倍氏の責任を問わずに、秘書だけを立件すれば問題の本質的な部分を見失ってしまう。少なくとも、公判が開かれない略式起訴ではなく、公開の刑事裁判で真相を明らかにすべきでしょう。安倍前総理が不起訴になったら、その理由次第で検察審査会への申し立ても有り得ます」(同)


■菅総理は黙認


 特捜部もこうした反応を予測しているのだろう。

 先の記者が続けるには、

「特捜部は安倍前総理への任意の事情聴取や、事務所への家宅捜索も行う予定で、メディアも臨戦態勢です。そこまでやっておけば、もし“検審”に申し立てられても、特捜は捜査を尽くしたという体面が保てますからね」

 無論、事情聴取や事務所へのガサ入れが現実のものとなれば、安倍前総理が被るダメージも決して小さくあるまい。

 では、官房長官時代に“内閣の大番頭”として安倍一強を支え続けた菅総理は、この捜査を事前に関知していなかったのだろうか。

 官邸関係者が声を潜めて明かす。

「安倍政権下で政治家に絡む捜査案件が浮上した場合、捜査当局は、まず警察キャリア出身の杉田和博官房副長官にお伺いを立てるのが慣例でした。今回の安倍さんの件についても、首相官邸の事務方トップである杉田さんが内々に容認した。もちろん、それは菅総理も捜査を黙認したということ。菅総理が安倍さんを見捨てたとは言わないが、二人の関係にすきま風が吹いているのは間違いありません」

 果たして、二人の関係にどんな変化があったのか。

「菅さんは安倍さんがうっとうしくなり、牽制したかったのでしょうね」

 とは政治部デスクである。

 今年9月に総理を辞任した安倍氏は読売、共同、時事、日経、日刊スポーツ、産経のインタビューに相次いで応じている。そこでは、〈(憲法改正の手続きを定めた)国民投票法改正案を成立させるべきだ。本気でやるべきだ〉〈五輪・パラリンピックはぜひ実現してもらいたい〉と主張。さらに、靖国神社に参拝し、保守層へのアピールにも余念がない。

「体調不安を払拭するように発信を続け、安倍待望論や再々登板説が囁かれ出したのも菅さんにすれば面白くなかった。また、イージス・アショアが頓挫したことで、安倍さんが辞任直前までこだわった“敵基地攻撃能力”の保有についても菅さんは後ろ向き。安倍さんから引き続き検討してほしいと言われていたのに、11月4日の衆院予算委員会では、“閣議決定を得ておらず、後の内閣に効力が及ぶものではない”とまで明言しましたからね」(同)

 これには敵基地攻撃能力保有に反対する公明党への配慮もあったようだが、

「安倍さんは気に入らなかったらしく、さらに踏み込んだ発信をするように。確執の決定打となったのは、それからまもない11日に、安倍さんが衆院初当選同期との会食で“私だったら来年1月に解散する”と発言したことです。総理の専権事項にまで口出しされ、さすがの菅さんも“秘書止まりであれば”と捜査を黙認、つまり事実上、了承したのだと思います」(同)

 こうして「桜」の捜査に落としどころが見えた矢先、特捜が追うもうひとつの捜査案件が浮上した。それが「卵」の疑惑だ。


■“筋のいい事件”


 検察担当の記者が言う。

「特捜部は現在、吉川貴盛元農水大臣を受託収賄容疑で立件することを目指しています。吉川氏には、広島県に本社を置く鶏卵生産大手“アキタフーズ”の秋田善祺・元代表(87)から、計500万円の現金を受け取った疑いがある。金銭授受の時期は吉川氏が大臣在任中の2018年から19年にかけて。その当時、OIE(国際獣疫事務局)はアニマルウェルフェア(動物福祉)を重視した飼育基準の作成を進めていました。ただ、ケージでの飼育が9割を占める日本では、この基準に従うと莫大な負担増が見込まれた。そこで、元代表が吉川氏に便宜を図ってもらえるよう“請託”した、というわけです」

 結果、農水省の反発もあって、OIEの基準案から止まり木や巣箱の設置についての義務化は見送られた。

「特捜部はアキタの元代表から現金提供について言質を取っている。ただ、金銭の授受は複数回にわたるため、具体的にどのカネが請託と結びついているのか立証が難しい。吉川氏が聴取前に入院して逃げてしまったこともあり、捜査は少々難航しています」(同)

 とはいえ、元東京地検特捜部副部長で弁護士の若狭勝氏に言わせると、

「桜を見る会の疑惑と比べれば、こちらは“筋のいい事件”だと感じます。吉川氏は農水大臣だったので職務権限の有無については問題がなく、現金を贈った側も事実を認めている。特捜部は立件に向け、かなり力を入れて捜査に当たっているはずで、来年の通常国会が始まる1月18日までには強制捜査に踏み切るのではないか。国会が始まると逮捕許諾請求が必要になりますからね。おそらく特捜部は、河井夫妻の事件に絡んだ捜索で、それなりの証拠を掴んでいるのでしょう」

“河井夫妻”とは、公選法違反の罪に問われた元法相の河井克行被告と、妻の案里被告のことだ。

 特捜部は今年7月、この事件の関係先として、広島のアキタフーズ本社を家宅捜索している。

 地元の記者によれば、

「すでに河井夫妻の逮捕後でしたが、アキタの社員からの情報提供を受けてガサ入れが敢行されました。その際に幹部社員が記した裏金に関するメモが見つかり、そこに西川公也元農水相ら複数の農水族議員の名前があったのです」

 その時点で“農水”人脈に絡む捜査を念頭に置いていたものと考えられる。

 地元の政界関係者は、

「アキタが自民党議員とのパイプを作ったのは、第2次安倍政権が発足した12年以降。なかでも、地元選出の克行被告との関係は深く、彼が吉川氏をアキタに紹介したと聞いています」

 実際、克行被告が支部長を務めた「自由民主党広島県第3選挙区支部」の収支報告書(要旨)には“アキタ”の文字が散見される。

 献金の総額は13年から18年までの6年間で、実に1866万円にのぼる。

「アキタへのガサ入れ後には、内閣官房参与を辞任する意向を今月8日に示した西川公也氏や本川一善元農水次官、大野高志元畜産部長らが、同社の所有する高級クルーザーで接待を受けていたことが発覚しました。本川氏は農水省の食肉鶏卵課長だった2000年代前半からアキタと付き合いがあり、業者側に便宜を図ってきたと目されています」(同)


■「ガサ」を巡る綱引き


 こうした背景まで明らかになれば“毒卵”を食らった吉川元農水相の逮捕は時間の問題のように映る。

「当然ながら、法務検察トップの林眞琴検事総長は立件を急ぎたい構えです。吉川氏は、菅総理の権力基盤と呼べる二階派で事務総長を務め、先の総裁選でも菅選対の事務局長だった人物。それでも、菅総理が特捜部に捜査を進めさせたのは、“桜”の件をしゃんしゃんで済ませる見返りという点に加え、安倍氏への捜査を認めながら、自分の身内について突っぱねては党内からの批判を免れないと考えたからでしょう。一方、安倍政権の“守護神”と呼ばれた黒川弘務東京高検検事長(当時)が賭けマージャン問題で辞職して以降、官邸が検察に対し、あからさまには影響力を行使しづらくなっているのも事実です」(政治部デスク)

 だが、「桜」、「卵」と立て続けに永田町をターゲットにしてきた検察側にも不安材料はある。

 先の検察担当記者によれば、新旧総理と同じく、法務省の“赤レンガ組”と“現場組”の間にもすきま風が吹いているという。

「実は、辻裕教(ひろゆき)事務次官や、伊藤栄二官房長といった法務省の幹部には、吉川氏の事案についてきちんとした情報が上がっていなかった。一連の黒川問題の前には、検察側も法務省サイドと捜査情報を共有していたのですが、このところ、両者の間に深い溝ができてしまっている。とりわけ、林検事総長は辻次官を全く信用していないのです」

 その原因は安倍政権時代に遡る。先代の稲田伸夫検事総長は、林氏を後任と考えていた。しかし、安倍官邸は“守護神”として信頼を寄せる黒川氏が後釜となることを望んだ。

 高検検事長の定年は63歳なので、慣例通り、稲田氏が検事総長を定年の65歳まで2年続けると、誕生日の都合で黒川氏は高検検事長のまま定年退職せざるを得ない。そのため、稲田氏は通常よりも早い段階で退任するよう安倍官邸から迫られたが、本人がそれを拒否して検事総長を続投。

「そこで、官邸の意向を受けた辻次官が、黒川氏の定年延長という奇策に打って出ました。黒川氏と林氏は司法修習同期。黒川氏が検事総長になれば林氏はその座に就くことができなくなる。結果的に、賭けマージャン問題によって黒川氏は自滅し、検事総長となった林氏ですが、官邸と一緒になって自分を外そうとした辻次官を許していません。遺恨は“桜”の捜査にも影を落としています。法務省側は“処分方針も決まっているのだから安倍事務所への捜索は必要ない”という立場。ガサ入れを既定路線とする検察側との綱引きが続いています」(同)

 季節外れの「桜」が狂い咲き、最終局面に差し掛かる一方、「卵」を巡る捜査はまだ始まったばかり。

 官邸と法務省を睨みながら、捲土重来を期する特捜部の暗闘は続く。

「週刊新潮」2020年12月17日号 掲載

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