石破茂が推す「マイクロツーリズム」 地元の良さを知ってみましょう

石破茂が推す「マイクロツーリズム」 地元の良さを知ってみましょう

石破茂

■近場の良さを知ってみませんか 石破茂の「異論正論」(2)


 感染拡大を防ぐためにさまざまな施策を打つことは当然重要だが、経済を放っておいていいはずはない。「まずは完全に封じ込めてからだ」といった“極論”を唱える向きもいるものの、それでは経済への悪影響は計り知れない。

 感染防止と経済という矛盾する問題をどう考えるべきか。

 石破茂の「異論正論」、2回目の今回はGoToとは別の旅行のあり方を考える。

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 政府の情報発信が重要であること、日本の場合、それがうまくいっているとは言い難い状況であるがためにインフォデミックのような傾向も見られることを前回書きました。

 感染拡大を防ぐために政府が全力を尽くし、国民ひとりひとりにも尽力をお願いする、そうであればその方向性を誤るわけにはいきません。そして、経済に与える悪影響も、最小限にとどめなければならない。「稼ぐ」ということは、とても大切で、大変なことだからです。

 そして前回も述べたように、コロナに関してはここまでにかなりのことがわかっています。たとえば、旅行や会食が問題視されていますが、交通機関での移動そのもの、食事そのもので感染するリスクが高まる、というわけではない。

 注意しなければいけないのは、それぞれの行動の態様なのです。新幹線やバスでも、座席を向き合わせて大声で話したりすれば、飛沫が飛んで感染リスクが高まります。食事をするときにはマスクを外すので、そこで大声で話せばまた同様です。そして接客型の飲食店は、近い距離で話すことが想定されているからリスクが高いわけですし、そもそも昼夜逆転の生活環境だと免疫力が下がるという問題もあります。

 こうした点を捉えれば、政府の「GoTo自体には問題ない」という考え方自体は、必ずしも間違いではなかったとも言えます。対策を本当にきちんと取っていれば、感染のリスクが低いのは事実でしょう。

 そうだとすると、飲食店などが対策をきちんと取るようにするにはどうすればいいか。あるいは無頓着なお客さんをどうすればいいか。そういう方向に絞っていくことも可能ではないでしょうか。

 接客型の飲食店はそもそも対策が難しいわけですが、しかるべき機関(本来は保健所が適任でしょうが、今はあまりにも仕事が多すぎますので、自治体の委託など、あり方を考える必要があります)による認証と定期的あるいは抜き打ちの点検、といったやり方によって、営業を続ける方策もありうるのではないでしょうか。

 観光業や飲食業のダメージは極めて大きく、だからこそ政府もGoToキャンペーンを実施しました。しかし、ここでは少し違った観点をご紹介したいと思います。

 星野リゾートの星野佳路社長は、コロナ禍における旅のあり方として、マイクロツーリズムの意義を語っていらっしゃいます。

「近くにあるのに、まだ体験したことのない、心躍る体験や知られざる特産・名産・伝統工芸。見たことのない景色、触れたことのない文化、食べたことのない料理…。自宅から1〜2時間で行ける範囲の旅行『マイクロツーリズム』で地元を再発見しませんか」

 同社のHPにはこのようにあります。つまり旅行イコール遠出と考えないで、近くにあるのに行ったことがないところ、よく知らないところに出かけてみては、という提案です。

 鳥取県鳥取市で育った私は、県西部にほとんど行ったことがなかったのですが、小学校高学年の社会科見学や大山登山で訪れた米子市や境港市、大山町などに新鮮な感動を覚えたものでした。米子市には自衛隊や鉄道の修理工場など、私の好きなものがたくさんあったのに驚きました。

 このように、自分が暮らしている都道府県でも知らないところは存外多くあるもので、その自然や歴史、文化を学ぶことはとても大切です。マイクロツーリズムには地方創生の観点からも大きな意義があります。とてもいい考え方だと思いました。

 コロナ禍においては、県をまたいだ移動に対する危機感は消えにくいでしょう。このような中だからこそ、近場に行って、地元の良さを改めて知ろう、というのがマイクロツーリズムの訴えているところです。

 都民であっても、八王子には行ったことがない、檜原村がどこにあるのか知らない、という方は珍しくないでしょう。そういうところに足を運んでみたら、きっと発見があるはずです。

 スケールが小さい、と思われるでしょうか。しかし、冷静に数字を見てみてください。

 この数年、日本経済の起爆剤のように語られていたインバウンドが日本に落とすお金は約3兆円です。コロナでこれがほとんどゼロになりました。

 ところが一方で、日本人が海外に出掛けて使うお金も2兆円あったのです。さらに国内の旅行会社等に使うお金が1兆円ほど。これが国内での消費に向けられれば、インバウンド減で失った分のかなりの部分がカバーできることになります。

 もともと私は、インバウンドに頼るようなやり方には懐疑的でした。増やす努力は必要だけれども、こういった危機には弱い経済になってしまうからです。今から4年程前に著した『日本列島創生論』では次のように書きました。

「インバウンドにのみ過大な期待を抱くことは避けるべきだと思います。というのも、実はどんなにインバウンドを増やしたところで、旅行産業全体に占める売り上げの20パーセントくらいまでが限度だと見られているからです。しかも、中国の景気や為替の動向次第ですぐにまた減少することも十分ありえます。

 もちろん、欧米からの旅行者を増やせれば、その分でカバーできるかもしれませんが、それもまた何らかの要因で減少するリスクは常にあるわけです」

 もちろんこの時点では、まさかそのリスクがこういう形で現れるとは思っていませんでしたが、基本的な考え方は当時と変わっていません。国内需要の方が安定的であり、日本人の国内旅行を増やすことが王道だ、というものです。

 そして、現在の状況であれば、無理をせずに地元の良さを知る旅であるマイクロツーリズムはとても魅力的なアイディアではないでしょうか。地域限定小旅行を中心に考えてみる。

 本来、GoToキャンペーンをする際には、参加者にはPCRあるいは抗原検査を義務付け、また旅行先は地元、といった限定をしてもよかったのではないか、と考えています。

 年末になり、急にキャンペーンを一時停止することになり混乱を招いたといった批判も起きましたが、マイクロツーリズムのようなものは、必ずしも予算を使ってシステムを構築することなく、考え方ややり方を広めるだけでも意義があったように思います。

 もちろんこうしたことも地域の状況によって異なるでしょう。しかしある程度落ち着いている地域であれば、「コロナを機会に地元のことを知りましょうよ」といった呼びかけをするのもいいのではないでしょうか。

 もちろん、不特定多数と接触する機会は増えるのですから、その分感染症対策は厳格に取り、受け入れる側も、訪れる側も、感染するようなリスクは抑えるということが求められることは言うまでもありません。

2021年3月10日 掲載

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