世界初のコロナワクチンの開発に成功したと豪語するプーチン大統領

世界初のコロナワクチンの開発に成功したと豪語するプーチン大統領

世界初のコロナワクチンの開発に成功したと豪語するプーチン大統領の画像

[著:浜田和幸]このところ世界中で感染が拡大し、死者も増え続けている新型コロナウィルス(COVID-19)であるが、ロシアはアメリカ、ブラジル、インドに次いで世界で4番目の感染者数約100万人を抱えている。プーチン大統領とすれば、国内的な不安感を払しょくしなければ、政権の維持にも暗雲が立ち込めるとの危機感にさいなまれているようだ。20年以上に及ぶ長期政権を維持してきたが、若い世代や地方の国民の間では経済の先行きへの不満がたまり、いつ爆発してもおかしくない状況に追い込まれている。

そこで国内の研究者を総動員し、世界に先駆けてコロナ用のワクチン「スプートニク5」を完成させたというのである。記者発表を行ったプーチン大統領は自信満々で、「自分の娘にもこのワクチンを投与した。1回目の投与直後に少し熱が出たが、翌日に2回目の投与を行うと平温に戻った。安全性には問題なさそうだ。これから増産し、10月から医療関係者や学校の先生たちに優先的に投与したい。年明けには希望する国民全員に提供できるだろう」と「世界初の快挙」に力を込めた。確かに世界中で2000万人を超える感染者が発生し、死者もうなぎ上りとなれば、一刻も早く治療薬やワクチンの開発が求められる。日本を含め各国の研究者や100社近い製薬メーカーがしのぎを削っているわけだ。とはいえ、ビル・ゲイツ氏でさえ「完成は早くて年末か年明け」と予測しているワクチンである。WHOのテドロス事務総長に至っては「開発を期待するが、永久に無理かも」と慎重な姿勢を見せている。

にもかかわらず、今回のプーチン大統領による「世界初のワクチン開発成功」の勝利宣言には世界中が驚くと共に、「本当に大丈夫なのか」と半信半疑の声が出ているのも当然であろう。実際、このロシア製ワクチンはWHOが注目する治験薬6種には含まれていない。というのも、名前は世界初の人工衛星「スプートニク」に因んだ勇ましいものだが、短期間の開発で、治験者の数も38人と少なく、しかもワクチンを開発したとされるモスクワのガマレヤ研究所からは実験データの開示が一切されていないからだ。専門家同士による国際的なピアレビューも行われていない。そのためか、ドイツ、フランス、スペイン、アメリカなどの医療関係者の間では「にわかには信じがたい」と首をかしげる反応が専らだ。しかし、強面のプーチン大統領は「ロシアにはウイルス研究20年の歴史がある。治験者の数は少なくても大丈夫」と自信たっぷりである。実際、その影響は大きく、世界20か国以上から既に注文が殺到しているという。

中でもフィリピンのドゥテルテ大統領は自ら「最初に投与をお願いしたい」と積極的な反応を見せているほどである。フィリピンは東南アジア諸国の中では最も感染状態が深刻で、ロックダウンを実施したにもかかわらず、感染の拡大が収まらないため、同大統領とすれば「藁にも縋る」思いに違いない。ドゥテルテ大統領は国内向けのテレビ演説で「プーチン大統領には全幅の信頼を置いている。彼は自分にとってはヒーローだ。ワクチンのサンプルが届き次第、自分が治験者の第一号になる。国民の見る前で投与を受けるつもりだ。自分に効けば、フィリピンの国民全員に効くはずだ。来年5月までにはフィリピンでの予防接種を実現したい」と表明した。フィリピンの大統領府によれば、「ロシアはフィリピンでの試験的投与に関する費用を負担してくれる。10月から治験をはじめ、来年4月までには食品医薬品局のお墨付きも得られるようにしたい。その結果が良ければ、フィリピンでもワクチンの共同製造が可能になる」とのこと。同じような動きは今後、他のアジア諸国でも加速しそうだ。

更に、この分野の研究では最先端を走るイスラエルでも「効果を確認した上で導入したい」と前向きな対応ぶりである。イスラエルには旧ソ連から移住したユダヤ系の研究者も多く、これまでもITや医療の分野を軸に人的交流が積み重ねられていた。アメリカ政府が後押しし、オックスフォード大学やビル・ゲイツ財団が資金を提供するモデルナ社のワクチンの場合は3万人が参加する臨床試験が最終段階に入っている。しかし、ロシアの「スプートニク5」の場合はたった38人での治験である。プーチン大統領の娘が39人目になるのだろう。

いずれにせよ、余りにも少ない治験データであり、その効果の程は「神のみぞ知る」といったところかも知れない。第一、「自分の娘には投与した」と自慢するものの、「自らは投与を受けていない」というのでは、やはり説得力に欠けると言わざるを得ないだろう。しかし、ロシア保健省では「このワクチンは極めて効果が高く、安全である。人類がCOVID-19との戦いに勝利する上で、大きな第一歩になるだろう」とプーチン大統領の援護射撃に余念がない。

[著者浜田和幸]国際未来科学研究所代表国際未来科学研究所代表。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。参議院議員、外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員、2020東京オリンピック招致委員等を歴任。ベストセラー『ヘッジファンド』(文春新書)、『快人エジソン』(日経ビジネス人文庫)、『未来の大国』(祥伝社新書)等、著書多数。

関連記事(外部サイト)