水道民営化と関空タンカー事故を外国に売り渡した謎の補佐官

水道民営化と関空タンカー事故を外国に売り渡した謎の補佐官

「民営化」が仇に?(共同通信社)

 日本の水道や空港を外資に"開放"する──生活に密着したインフラの民営化は、重大な国家政策の転換点だ。だが、かつての郵政民営化のような国を二分しての議論が起きないまま、それらの法改正はあっさりと、そして次々と決まっていった。そこには、仕掛け人たちの周到な計画があった。『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』『地面師』などの話題作を連発するノンフィクション作家の森功氏が"国家の盲点"を抉り出す。

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 コンセッション方式による民営化──。そんな言葉を昨年秋の臨時国会あたりから、しばしば耳にするようになった。民間の資金やノウハウを活用して公共施設の建設や維持管理、運営をするPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)の一種とされる。

 PFIは古く1999年、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI法)として、施行されてきたが、なかなか使い勝手が悪く浸透しなかった。

 そこで、2011年の法改正で、公共施設の運営を長期間民間企業に任せるコンセッション方式が導入された。コンセッションを単純に直訳すれば「譲歩」「譲与」。平たくいえば、公共団体の所有する施設の「運営権」を民間に販売し、利益の一部をバックさせて赤字経営を建てなおす手法だ。企業と30~50年の長期の契約をし、公共インフラの経営を任せる民営化事業である。

 民間企業がこれまで都道府県や市町村の手掛けてきた水道料金の徴収をすることになる。政府は先の臨時国会でそのコンセッション導入のために必要な水道法の改正に踏み切った。水道事業がにわかに注目されてきた。

「世界の水道事業は水メジャーと呼ばれる仏の『スエズ・エンバイロメント』や『ヴェオリア・ウォーター』、英の『テムズ・ウォーター』の3社が支配している。民営化すれば、そこに日本も牛耳られる」

 そんなドメスティックな心配を始め、反対の声があがった。民営化の進む欧州では民営化の失敗も目立っているため、野党はそこを突いた。

「水道事業の独占により、料金が高騰した」
「水質の低下を引き起こし、環境悪化が進んだ」
「いったん民営化すれば自治体のノウハウが失われ、もとに戻せない」

 といった塩梅だ。海外の事例を見ると、これらは単なる杞憂とも思えない。オランダの民間調査によれば、2000年以降の17年間、世界33か国267都市で水道事業が再び公営化されている。一方、政府は3例の海外の現地調査を実施したのみで、民営化に踏み切ろうとしているという。

 いきおい臨時国会は揉めた。12月10日の会期末を控えた5日午後の衆院厚生労働委員会では、立憲民主党の初鹿明博が、水道民営化の旗振り役だった内閣官房長官補佐官にまで追及の矛先を向けた。

「公共サービス担当の補佐官である福田隆之氏が6月にフランスに出張した際、ヴェオリア社の副社長と会食し、スエズ社の用意した車を移動に使っていた。ワイナリーにも行っています。その件の報告を(内閣府に)求めたところ、いまだ報告がありません」

 官房長官補佐官だった福田隆之は、コンセッション方式による水道民営化の仕掛人として、すっかり永田町で有名になった。繰り返すまでもなく、ヴェオリアとスエズは民営化後の日本市場への参入を虎視眈々と狙っている。

 福田は水道の民営化を進める当事者でありながら、海外事業者から便宜を図ってもらっているのではないか──そんな趣旨の怪文書が出回っていた。

 当の福田はコンセッションの民間有識者として政府の検討会に加わり、そこから官房長官補佐官に抜擢された異色の経歴を持つ。ところが、臨時国会が始まった直後の11月9日付で、唐突に補佐官の職を辞任。その原因が、この怪文書の流出ではなかったか、とも囁かれた。

 ところが安倍政権では、例によっていくら反対の声があがろうが、疑惑があろうがお構いなしだ。初鹿の質問があった12月5日、法案の採決を強行、翌6日の衆院本会議で改正水道法を成立させた。水道事業の民営化を巡っては、大きな疑念を残したまま国会の幕を閉じたことになる。

 おまけに目下、政府の進めるコンセッションは、これだけではない。すでに空港や下水道では外資が参入し、民営化されている。今年、一挙に増えそうなのだ。

◆関空民営化も手掛けた

 水メジャーとの関係が取り沙汰された当の福田が最初に取り組んだのが、関西国際空港の民営化である。

 関空は2016年4月、政府の出資する「新関西国際空港」から伊丹市の大阪国際空港とともに運営を引継ぎ、民間の関空エアポートとしてスタートした。日本のオリックスと仏のヴァンシ・エアポートが40%ずつ出資して設立されたコンソーシアム企業だ。

 オリックスから山谷佳之が社長(CEO)に就任し、ヴァンシから副社長(共同CEO)としてエマヌエル・ムノントを招いた。空港経営の事業期間は44年。関空エアポートが利益の中から2兆円以上を旧会社の借金返済に充て、経営を健全化すると謳っている。空港コンセッションの事実上の第一号事案として脚光を浴びてきた。

 ところが、その関空が昨年9月4日、台風21号の襲来により、パニックに陥った。なぜ、ここまで混乱したのか。あきらかなコンセッションの失敗事例といわざるをえないのである。

〈災害対策について〉。関空を運営する「関西エアポート」が、12月13日付でそう題し、レポートを公表した。台風の襲来から実に3か月半も経た調査結果である。その割には中身がスカスカというほかない。

 レポートには「災害対策タスクフォース立ち上げ」として、〈ハード/ソフト面の両面から以下の3つの観点で検討する〉と記されている。「護岸タスクフォース」(予防)、「地下施設タスクフォース」(減災、早期復旧)、「危機対応(管理)体制タスクフォース」(予防、減災・緊急対応、早期復旧)とある。3番目が肝心なソフト面の災害対応だろうが、こう書かれているだけだ。

〈災害発生時の状況を振り返って検証し、減災・緊急対応から早期復旧における意思決定の一元化・迅速化を含めた危機対応体制の再構築〉

 あまりに抽象的に過ぎてどこが問題だったのか、さっぱりわからない。

◆中国人を優先避難の怪

 台風21号の被害では、関空と対岸の泉佐野市を結ぶ連絡橋に燃料タンカーが衝突した。ありえない事故の映像が衝撃的だったが、災害対応という点では、それよりもっと深刻な問題があった。ある航空会社の役員はこう憤った。

「いちばん最初の混乱は、関空側が発表した空港島滞留者3000人という数字でした。目視で関空の職員が数えたところ、空港島に残されている飛行機の乗客がそれだけだった、とあとから言っていました。

 しかし、3000人という数字が独り歩きし、それが乗客だけの数なのか、働いている人数も含めた数字なのか、わからない。空港に勤務する従業員は1万人以上いる。滞留者の状況も把握せず、とにかくバスを出して移送させようとしていたのは明らか。だから従業員が乗客に混じって脱出したり、余計に混乱したのです」

 関空では、9月4日午後1時頃から浸水が始まった。2本ある滑走路のうち被害の大きいのは地盤沈下の激しい古い1期島の滑走路で、ターミナルビルが水浸しになり、地下の配電盤が故障して停電した。

 空港を運営する関西エアポートはこうした事態に戸惑いっ放しだ。空港島に取り残された人たちの移送を始めたのは、一夜明けた5日早朝からだ。ここでは滞留者を8000人と修正したが、その時点でも乗客と空港従業員の区別ができていない。

 移送手段は110人乗りのフェリーと50人乗りのリムジンバスだ。とりわけリムジンバスのピストン輸送で、対岸の泉佐野まで利用客を運ぼうとした。だが、わずか4km足らずの連絡橋の移送に深夜11時までかかる始末だった。そんな混乱のなかで悲劇も起きた。

「中国領事館から空港に連絡があり、泉佐野まで迎えに行くから団体ツアー客をまとめて運んでほしいと要請があったのです。それで中国人ツアー客は専用バスで橋を渡り、中国領事館はたいそう感謝した。けど、それを知った台湾人旅行者が、なぜ台湾外交部は同じような対応ができなかったのか、と騒ぎだしたのです」(同前)

 そしてSNSなどで責められた台北駐大阪経済文化弁事処(領事館に相当)の代表が14日、自殺してしまう。むろん空港側の過失だとはいわないが、移送に手間取り、パニック状態の中で起きた悲劇なのは間違いない。

 空港のような公共性の極めて高い交通インフラの運営は難しい。とりわけ災害時には、対策能力が問われる。関空エアポートの元幹部社員は、こう手厳しく指摘した。

「台風21号では、まさに関空のお粗末さを露呈したといえます。一つは責任の所在の曖昧さ。空港運営のノウハウを仏のヴァンシに頼りながら、オリックスから来ている山谷社長が運営の責任を負うことになっている。2頭立ての体制で、どちらが陣頭指揮をとるのかさえはっきりしてない。ふだんの運営もそうですが、災害時の連絡や広報でとくにその拙さを露呈してしまったわけです」

◆「何、まごまごやってるんだ」

 交通インフラである空港には、利便性や安全性が不可欠だが、被災した道路や鉄道をいかに迅速に復旧できるかが重要なポイントでもある。先の航空会社役員が言う。

「ところが、関空は当初、1週間は空港を閉鎖すると言っていたのです。たしかに飛行機を飛ばさなければ、事故は起きないし、混乱は避けられます。が、それでは空港がなくてもいいという話。

 実は1期島の滑走路はすぐには使えませんでしたが、2期島の滑走路は1期島に比べると3.5メートルくらい地盤がかさ上げされているので、浸水もほとんどしてない。台風の翌日にでも飛行機を飛ばせる状態だったし、実際、LCC(格安航空会社)のピーチなどはそう主張していました。でも、ターミナルのトイレが壊れているとか、ガスがまだ来ていないとか、四の五の理由をつけて再開しようとしなかったのです」

 空港を所管する国交省も早期の復旧を求めたが、民営化されている以上、強制はできない。台風当日の4日から5日にかけ空港再開の議論はあったが、コンセッション方式では、あくまで民間企業が空港運営を担うため、所管する大阪航空局でも従わざるを得ないのだという。

 ところが6日朝になると、事態が動いた。先の航空会社役員が続ける。

「安倍(晋三)総理が、関空は明日から再開すると非常災害対策本部会議でぶち上げたのです。われわれも驚きましたが、あとから聞くと、国交省から第二滑走路は大丈夫だと情報があがっていて、それを受けた総理が会議で話したようなのです。台風から丸一日以上経っても、関西エアポートが全然動かないのでね」

 内閣危機管理監の高橋清孝から台風被害の報告を受けた首相の安倍と官房長官の菅義偉は、首相補佐官の和泉洋人に指揮を任せた。和泉は国交省と連携をとり、対策チームをつくったとされる。

 そうなると、当初空港の再開を渋っていた関空も従わざるをえない。

「(国交省)大阪航空局が関係者連絡会議を開き、状況を整理して官邸にレポートしていました。そこで官邸側から『何、まごまごやってるんだ』という指示が飛んできたと聞いています。それを総理の発言が後押しした格好で、総理が言っているのに何やっているんだというシグナルのようなものでしょう」(同前)

 実は9月6日にも新千歳空港発の1便を関空に着陸させる計画だった。だが、同日に発生した北海道地震でそれを断念し、7日からの2期島滑走路の運航となったという。7日にはピーチの17便に加え、JALも2便が飛んだ。

 むろん1期島の滑走路や鉄道の復旧には時間を要したが、台風被害から3日目の空港再開については、まずまず評価が高い。しかし、それは民営化された関空エアポートが主導した作業ではない。関係者たちにとっては、むしろ足を引っ張られたというのが実感だという。

「災害対策を通じてわかったのは、日本のオリックスと外資のヴァンシの覇権争い。それは好きにしてくれていいけど、挙げ句、経営陣とこれまで働いてきた空港の専門スタッフとの意思疎通がまったくできてない。空港運営現場のリアリティを感じないのです」(同前)

 台風から3か月半経って災害レポートを発表した関空エアポート専務の西尾裕はこう言った。

「今度のレポートは最終形態の形をとっていますが、対策の詳細はこれから詰めていきます。最初に発表した滞留者の3000人は職員の目視で推計したものであり、8000人の内訳については調べていません」

 本格的な空港コンセッションの第一号事案として、インバウンド効果の強烈なフォローのおかげでようやく利益を出せるようになった関空。もとはといえば、官房長官補佐官に就任する前、福田が大阪府知事だった橋下徹にコンセッションの導入を働きかけて実現したものだ。そこから福田は補佐官として全国の空港民営化、さらに水道へと手を広げてきた。

 だが、民営化は魔法の杖ではない。赤字の公共事業に明るい未来が開けるわけでもない。

(敬称略、以下次号)

●もり・いさお/1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。新潮社勤務などを経て2003年よりフリーに。2018年、『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』(文藝春秋)で「大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション」大賞を受賞。近著に『地面師』(講談社)。

※週刊ポスト2019年1月18・25日号

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