秋津壽男“どっち?”の健康学「戸締まりが気になって仕事が手につかない。日常生活に支障があれば病院への通院を」

秋津壽男“どっち?”の健康学「戸締まりが気になって仕事が手につかない。日常生活に支障があれば病院への通院を」

秋津壽男“どっち?”の健康学「戸締まりが気になって仕事が手につかない。日常生活に支障があれば病院への通院を」

 先日、ある人と待ち合わせをしました。約束の時間を20分過ぎてやって来たその人は「出がけにカギをかけ忘れた気がして戻ってしまった。すいません」と平身低頭でした。

 外出後に「家のカギをかけたっけ?」と心配になることは誰にでもあるでしょうが、毎回のように気になってしまう場合、病院へ行くべきか、行かないままで様子見すべきでしょうか。

 毎朝、家を出る時に何度も確認しないと気が済まないような症状は「不安神経症」と呼ばれます。これは心配事が頭から離れない症状で、いったん外出しても戸締まりや火の元などが気になってしまいます。トイレのあと、繰り返し手を洗ってしまう潔癖性も同じ類いの症状です。

 自分はそうかも、と思う人は、家のドアに「戸締まり」「入り口のカギ」「火元」「風呂」などと書いておき、確かめてから家を出てみてください。それでも気になる人は「不安神経症」に該当します。

 しかし、この程度なら通院の必要はありません。まず、カギをかけ忘れた、スイッチを消し忘れたと心配できるということは、認知症の疑いがありません。

 認知症の場合、心配事など頭に浮かばず、帰宅したらカギが開いていた、となります。「カギをかけ忘れたことに気づかない」場合は認知症が疑われ、通院の必要が生じます。

 外出時に心配事が頭に浮かび、何度も家に戻って確かめる。こうした症状が日常生活に支障を来していないなら、わざわざ病院に行くこともないでしょう。

 通院の必要があるのは、例えば会社に着いてから「気になってしかたないので帰宅します」など、日常生活に支障を来すような症状の場合です。

 こうなると「強迫神経症」となります。

 強迫神経症は精神疾患の中でもきつめの症状で、治療には抗うつ剤や向精神薬が用いられます。薬を飲まないと強迫観念から逃れられない場合、薬の量が増えて依存性になる場合があります。

 抗うつ剤により覇気がなくなるなど、悪循環にはまるケースが少なくないので、日常生活に支障がなければカウンセリングだけで済ませたいところです。

 いい医師に受診できるまでドクターショッピングをするのもありで、薬物療法はギリギリまでやらないでください。

 それでなくとも薬物療法は、不安を治すのではなく、不安のセンサーを鈍くするだけの治療です。

 そもそも世の中に「100%安全」ということなどありません。何重にカギをかけても、そのカギを壊せる泥棒に入られたらアウトです。

 墜落事故が怖くて飛行機に乗れない、という人もいますが、飛行機の安全性は徒歩の数千倍とも言われています。

 さまざまなダブルチェックで事故を防止する飛行機ですら、墜落事故をゼロにはできません。車の運転にしても、どんなに気をつけても交通事故の危険性はゼロにはなりません。

 極端なことを言えば「明日も生きている」確率が100%の人など、この世に存在しないのです。つまり「事故が起きたら、それは運命だ」と悟ることが重要なのです。しょせん、世の中に100%など存在しないのです。「世の中はそんなもんだ」と悟れれば、自然と不安は解消されます。

 誰かに悪口を言われている気がする、という人には「耳栓をすれば悪口は聞こえなくなります。その代わり、耳栓をしたことで後ろから車にぶつけられるかもしれないよ」と教えてあげることです。

■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。

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