ノンフィクション作家・溝口敦さんに聞いた 追い詰められた暴力団の行く末

ノンフィクション作家・溝口敦さんに聞いた 追い詰められた暴力団の行く末

溝口敦氏(C)日刊ゲンダイ

【注目の人 直撃インタビュー】

 溝口敦さん(作家)

 このところ、暴力団をめぐる動きが急だ。神戸山口組の中核組織だった山健組が六代目山口組に復帰したり、日本で唯一の特定危険指定暴力団の工藤会トップには“推認”で死刑判決が下った。暴力団は確実に追い詰められているのだが、社会から悪が放逐されることなどあり得ない。今後の暴力団、あるいはその残党たちはどうなっていくのか。第一人者のノンフィクション作家に聞いたのだが、溝口さんにはもうひとつ、聞きたいことがあった。なぜ、体を張り、ヒリヒリするような取材ができるのか。その気概や手法は後世に引き継がれるのか。縦横無尽に語ってもらった。

 ◇  ◇  ◇

 ――山口組や暴力団は今後、どうなるのか。

 消滅の一途。しかしながら、その前に新しいアングラ化というか、その現象が出てくると思う。ただ規模は小さく、話が膨らまない。個人商店みたいなもの。食うことに手いっぱいで、分裂抗争などしている場合じゃない。ヤクザがどんどん落ちこぼれて縮小している。今は1万なんぼになった。

 ――衰退した原因は。

 バブル後、無駄金を払いたくない経営者たちが、みかじめ料や工事の前さばき料を払わなくなった。そこに2010年から全国で施行された暴力団排除条例が決定打になった。それと親分が小粒になりました。

 ――六代目山口組は高山清司若頭が出所後、事態が動いた。

 あの人の考え方というのは、非常に単眼的というか、「おまえは山口組の代紋で飯を食ってきたんだ。辞める時は稼いだ金を置いていけ」という発想です。分裂抗争が起こる前から、彼がどんどんクビを切り、組織は縮小気味だった。それが抗争によって余計激しくなった。今になって元通りの山口組にしようとしても遅過ぎます。

 ――六代目が中田浩司組長率いる山健組の復帰を認めたのには驚きました。中田組長は、六代目山口組が対立する神戸山口組の井上邦雄組長の子分でしょう?

 山健はやはり名門。高山にはそれを復活させたいという気持ちがあるかもしれない。山一抗争の際、敵対する山本広組長宅にカチコミをかけた安東美樹若頭補佐に、竹中組を復活させたのと同じ。と同時に井上から山健を奪えば、井上はゼロだよというのを満天下にさらしたいんでしょう。

 ――中田組長は自らヒットマンとなり、弘道会系組員を襲撃し、重傷を負わせた張本人です。

 その中田を復帰させ、しかも幹部に登用することを約束した。中田は殺人未遂で20年は食らう。山健問題は一筋縄ではいきません。とにかく高山は井上を丸裸にしてなきものにしたい。そのためには気に食わないけど、中田を戻すことにしたのでしょう。

 ――20年後には高山若頭も引退していますよね。

 高山はすでに実質7代目組長みたいなものだが、ヤクザをやっている以上は、高山も7代目になりたいのでしょう。司忍引退、高山にバトンタッチの動きもある。司の勢力は、傘下の司興業ぐらい。あとはみんな高山に主導権を取られた。司は高山に太刀打ちできないぐらいの状況に置かれている。

 ――六代目山口組の司組長はいつ譲るのですか。

 できることならこのまま続けていたいのが本音でしょう。司が組長を降りたら、収入のアテがない。元の子分は司のところに行き、「親分、金を融通してください」ってタカるだろうが、組長を降りれば、そういうヤカラを排除できない。

「ヤクザは損得勘定で動く現実主義者です」

 ――それにしても溝口さんはヤクザからも一目置かれている。キッカケは「週刊アサヒ芸能」の記者1年目、23歳の若さでの山口組の取材ですよね。

 ちょうど兵庫県警が壊滅作戦を始めた時期です。本格的に山口組を取材した記者は、ボクが初めてだったと思います。警察にも評価されたし、ヤクザには警察の言いなりで書いているわけではないと理解された。ヤクザは新陳代謝が激しいから、死んだ先輩たちを扱ったということで後輩たちからも一目置かれるというか、信用されたのでしょう。

 ――どうやって懐に入り込むのか。コツみたいなものはあるのですか。

 結局のところ「金」じゃないでしょうか。金を受け取ったら、記事が書けなくなる。ある親分にポーンと100万円渡され、「これで子分の本を作ってくれよ」と頼まれた時も、目の前で出版社の担当者に金を手渡した。相手は不思議そうな顔をしていました。とにかく一切、金に関知しなかった。金を払って都合のいい情報を流そうとするヤクザもいるが、経済的利害が絡むと、彼らにとってはシノギだから切った張ったが伴う。ボクは一切、そういうのに関わらなかった。事は単純。あとは「押してダメなら引いてみな」かな。宅見勝若頭も言ってたけど、ただ押すだけじゃダメで、引いてみた方がいいことがあるかもしれない。

 ――読んでいてハラハラするような親分批判も平気で書いています。

 彼らは損得勘定で動くんですよ。ケチョンケチョンに書かれただけでは怒らない。シノギで損をする話なら別ですけど。

 ――子分は親分を悪く書かれると、コノヤローってなるんじゃないですか?

 親分に力がなければ子分が動いても損をするだけ。将来を保証してくれるわけではありませんから。力がある親分であれば、一肌脱ごうという若い組員がいる。義侠心だけでなく、損得勘定。だから鉄砲玉もやる。彼らは現実主義が基本です。

 ――でも渡辺芳則組長の就任翌年、「五代目山口組」を上梓し、襲撃されていますよね?

「新しい親分の顔にドロを塗るんか」という気持ちだったのでしょう。渡辺にしてみれば「溝口のヤロー、なめた本を出しやがって」と。ボクに渡辺を紹介したのは宅見だから、執行部で責任を追及されたのかもしれない。それで宅見がヒットマンをよこした。

 ――刺されると思っていたんですか。

 少なくともカチコミは覚悟していたけど、「刺してみやがれ」という気持ちもあった。そんなことしたら本が余計売れちまうぞと。危険は「本」がカバーしてくれると思っていた。書きたいように書くのが目的だから、歯に衣は着せない。宅見が渡辺をコントロールしていたので、ごまかし切ってくれるのではないかという淡い期待もあったが、ダメでした。

■「書きたいように書くから歯に衣は着せない」

 ――暗黙のルールというか、何か動物的な勘が働くのですか。

 ある編集者に「溝口は暴力団との間合いが分かっている。どこまで出していいか、どこまで書けるか、勘がある」と言われましたけど、素人みたいなポッと出の人はその線を踏み越えちゃう。全部書かず、いつか別の機会のために取っておく。ガツガツしないことも大事かな。

 ――その間合いにしてもギリギリのシュートを投げますよね?

 おべっかは使わない。ヤクザだってスリ寄られたり、褒められて悦に入るのではなく、事実の重さというか、そこを見て動くリアリストですよ。書く事実によって信用があるのかもしれない。

 ――とはいえ、暴力団の中にも信用できるのとそうでないのがいるでしょう。その見極めは?

 どんな商売も一緒ですけど、嘘をついたらダメ。嘘をつかないというのは、どの分野でも一番の眼目です。嘘をつかれると人を信用する気を失う。質問して嘘をつかれていたことが後で分かった場合、あるいは質問して答えない、何で答えないか分からない場合は信用できない。

 ――あとは溝口さん自身の胆力ですか。

 短気でかんしゃく持ちだから、時には爆発しちゃう。後から怖くなったことはある。息子が刺された件で山健組相手に訴訟を起こした際、井上から「おまえの出版祝いに2000万円出すから和解しよう」と言われたのにはカチンときた。後藤忠政若頭補佐から「『五代目山口組』の出版を中止してくれ」と言われた時は「こっちはライター生命がなくなるんだ」と断り、電話を叩き切った。爆発することによって、後戻りできなくなる。こっちのけんまくで相手に本気だということを分からせることも大事じゃないですか。

(聞き手=滝口豊/日刊ゲンダイ)

▽溝口敦(みぞぐち・あつし)1942年、東京生まれ。早大政治経済学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。「食肉の帝王」で講談社ノンフィクション賞を受賞。山口組に関する著書多数。今年5月、「喰うか喰われるか 私の山口組体験」を上梓。

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