埼玉県ふじみ野市 散弾立てこもり男 住民が直面した恐怖の瞬間【あの騒動と事件の今】

埼玉県ふじみ野市 散弾立てこもり男 住民が直面した恐怖の瞬間【あの騒動と事件の今】

送検される渡辺容疑者(C)共同通信社

「パンッ、パンッ」

 2022年1月27日午後9時ごろ、埼玉県ふじみ野市の住宅街で銃声が鳴り響いた。

「痛い、痛い、痛い」

 胸のあたりからあふれ出る血を手で押さえながら、地べたに這いつくばるようにして玄関先から逃げ惑う理学療法士の男性。

 傍らにいる女性看護師が、「誰か救急車を呼んでください」と大声で叫ぶ。目の前の住宅に住む30代男性は銃声を聞き、2階ベランダから立てこもり犯、渡辺宏容疑者(66)の自宅をのぞき込むと、渡辺容疑者が散弾銃を手に呆然と立ち尽くしていたという。

 男性から救急車を呼ぶよう頼まれた妻は、消防と警察に通報。「犯人は銃を持っています」と伝えると、「絶対に外に出ないでください」と指示された。

■すべてが母親中心の生活

 通報した30代の女性が事件を振り返る。

「1カ月に1回ほど、お医者さんがお母さん(92)の往診に来ているのを見掛けました。いつもきちんと挨拶してくれる礼儀正しい方で、遅い時は夜の8時や9時に来られることもありました。その夜は先生はじめ、理学療法士や看護師さんら大勢だったので、何があったのだろうかと思っていました。そうしたら事件が起きたのです。うちには子供が2人いて、本当に怖かった」

 渡辺容疑者は同日夜、「(前日に亡くなった母親の)線香をあげに来い」と、母親の主治医で在宅診療にあたっていた鈴木純一医師(44)らスタッフ7人を電話で呼び出し、「心臓マッサージをして蘇生させてほしい」と無理難題を吹っ掛けた。鈴木医師が「難しい」と断ると、渡辺は躊躇なく、散弾銃の引き金を引いた。鈴木医師は胸を撃たれ、即死だった。渡辺はそのまま自宅に約11時間籠城。翌朝8時ごろ、警察が踏み込み、身柄を確保した。

 渡辺容疑者親子は2019年3月、市の家賃補助を受け、事件を起こした住宅に移り住んだ。

「引っ越しの挨拶に来た際は『母親の介護があるので近所付き合いはできないんです』と言ってました。ある時、お母さんの具合が悪くなり、主人が慌てて救急車を呼んだのですが、結局、何事もなく回復し、後日、菓子折りを持ってお礼に来られました。普通の優しそうなおじさんという印象でした」(前出の30代女性)

 渡辺容疑者は動機について「母が死んでしまい、この先いいことはないと思った。自分一人ではなく、先生やクリニックの人を道連れにして自殺しようと思った」と供述している。

 巻き添えになった鈴木医師の家族や病院のスタッフ、患者たちの心情を察すると、何ともやりきれない。

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