フィリピンの貧困層では日本語学習が立身出世の近道に

フィリピンの貧困層では日本語学習が立身出世の近道に

現地の日本語学校(C)共同通信社

【現地リポート 外国人労働者の実像】フィリピン編

 外国人の新在留資格「特定技能」の対象9カ国のうち、今回はフィリピンから現地報告する。首都マニラでは4月13、14日、特定技能の対象14業種のうち介護の技能試験を他国に先駆けて実施。113人が受験した。

 なぜ、フィリピンが最初なのか。国際交流団体勤務のA氏は「国策として外国への労働者派遣を推進。近隣諸国よりも制度が整っており、日本政府の声にすぐ応えられたのでは」と説明する。

 事実、人口の約1割の約1000万人が海外で働き、母国への送金総額はGDPの約1割を占める。国家が「送り出し機関」の役割を担っているため、迅速な対応も不思議ではない。

 それではなぜ、介護試験なのか。海外への出稼ぎ先はサービス業が多い。2006年9月の日比EPA締結以降、日本はフィリピンから看護師・介護福祉士候補者を受け入れてきた実績もある。17年9月末までに来日した介護福祉候補は累計で1400人に上る。

 マニラで技能実習生の送り出し機関を運営するB氏は「介護職が条件でも、日本で働きたいか」と、日本語を学ぶ「実習生の卵」10人に聞けば全員「イエス」と答えるだろうと断言。「日本は近くて、安全」と信じられており、問題多発の中東などよりも働き口として人気だという。

 現地では英語が広く使われているが、マニラで四半世紀以上も日本語教育に従事するC氏は「生活水準が低い層ほど、タガログ語を主に話す」と分析。タガログ語からは英語よりも日本語の方が学びやすいと言う。マニラでも大卒初任給は月4万〜5万円程度。貧しい人々にとって日本語を学び、日本で働くことが立身出世の近道なのだ。

■2次産業が弱体化した「人材派遣国家」

 とはいえ、問題もある。前出のA氏は現地の2次産業の弱さを指摘。「人材派遣国家」として1次産業から3次産業に“ワープ”してしまったため、海外帰りの労働者を吸収するハイテク産業がまだ弱い。

 マニラ市内をタクシーで移動中、運転手が「自分の息子は香川で溶接の実習生をして帰国したばかりだ」と話しかけてきた。渋滞で止まるたび、「マニラでは仕事がないので、また日本に行きたいから何とかしてくれ」と頼み込んでくる。車内には、息子さんが日本で友人から紹介されたというX JAPANの曲が流れていた。

(安井裕司/日本経済大学教授)

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