東電OL殺害事件<前>うちの壁際に黒い定期入れが落ちていた【「告白」あの事件の当事者】

東電OL殺害事件<前>うちの壁際に黒い定期入れが落ちていた【「告白」あの事件の当事者】

被害女性の定期券が発見された民家(提供写真)

【「告白」あの事件の当事者】東電OL殺害事件(前編)

 今から22年前の1997年3月、渋谷区円山町にある時代に取り残されたような木造の古ぼけたアパートの一室からひとりの女性の遺体が発見された。遺体には首を絞められたような痕があり、その部屋で殺害されたことが分かっている。

 女性は東京電力の会社員(39)。なぜそんなところで、被害女性は遺体となって発見されたのか。この女性は会社員と娼婦という2つの顔を持っていて、円山町界隈で交渉がまとまった男と、この部屋へ足を運んでいた。そこで何らかのトラブルに巻き込まれた。

 当時、大手企業のエリート会社員が、娼婦として体を売っていたという事実は世間に衝撃を与えた。

 事件の容疑者として逮捕されたのが、ネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリさん(当時30)だった。

 裁判は1審無罪、控訴審無期懲役、最高裁では上告が棄却され、有罪が確定したが、一貫して無実を主張してきたゴビンダさんの再審請求が認められて、2012年に無罪判決が下された。

 裁判で、被害者の膣内から発見された体液が、ゴビンダさんのものではなく、第三者のものであるということがDNA鑑定によって明らかとなり、無罪が言い渡された決定的な理由となった。部屋に残されていた陰毛や被害者の爪からも、膣内に残されていた体液と同じDNAの皮膚片が発見され、真犯人は被害女性の体内に体液を残した男ということが明白となった。

通勤経路と外れた巣鴨で証拠品

 果たして、真犯人はどこに潜んでいるのか。

 この事件で、犯人と結びつくのは、体液以外に巣鴨で見つかった女性の定期券だ。報道などによれば巣鴨は女性の通勤経路から外れていて、まったく土地勘のない場所だ。定期券が発見されたのは、殺害されてから4日後の3月12日の午前中のことで、とある民家の庭先に落ちていた。

 この民家は、土地勘のある人物でなければ、来ることはない細い路地の奥にある。発見者の女性が貴重な証言をしてくれた。

「朝、花に水やりをしていたら、壁際に、黒い定期入れが落ちていたんだよ。名前を見たらカタカナでワタナベと書いてあったんだ。近所にワタナベなんて名前の人はいないから、警察に届けたんだよね。水やりは毎日の日課でね。前の日は定期券なんてなかったよ。酔っぱらいが間違って捨てていったんじゃないかと思っていたら、まさかこんな大きな事件に関係あるとは思わなかったよ」

 この界隈に当時住んでいた人物か、もしくは友人、知人が住んでいた人物が捨てたということが考えられないか。

 地元の住民に話を聞いてみると、事件後、警察がこの界隈で聞き込みなどをした形跡はないという。

 警察にしてみれば、定期を持った人物の存在は、“ゴビンダ犯人説”を崩す邪魔でしかなかった。当時、この付近を徹底的に捜査していれば、定期に関連ある人物を見つけることができたのではないか。

 ちなみにこのあたりは97年当時、イラン人やバングラデシュ人などが多く暮らしていた。特にイラン人は、違法テレホンカードを販売したり、不法滞在をしている者も少なくなかった。

「当時は、ちょっと夜になると物騒なところはあったね。イラン人が店を閉めたあとの夜中に酒を売ってくれって来たんだけど、売らなかったら、自動販売機を壊されたなんてこともあったな」

 今も定期が発見された現場周辺で酒屋を経営する男性が言う。そうした話がこの事件と結びつくわけではないが、何らかの事件の温床となり得る空気が、この町の周辺には間違いなく漂っていた。 =この項つづく

(ルポライター・八木澤高明)

関連記事(外部サイト)