米国の建築デザイナーが警鐘「カジノは日本に必要ない」

米国の建築デザイナーが警鐘「カジノは日本に必要ない」

建築デザイナーの村尾武洋氏(C)日刊ゲンダイ

「ラスベガスやリノ(いずれもネバダ州)はカジノの街です。カジノがないともはや生きていけない。一方でフィラデルフィアはいい街だったのですが、シュガーハウスというカジノをつくりました。ぼくが(カジノ・ルームの設計を)やっているのでなんともいえない話ではありますが、カジノができた途端、その周りのエネルギーが嫌なものになっていきました。でも横浜にはカジノがなくても人は来ますよね。横浜はこのままでいいと思います。カジノは日本に必要ないと思います」

 そう断言するのは、本場米国でカジノ・ルームの内装などを長年手がけてきた建築デザイナーの村尾武洋氏。

「全米で25カ所くらいのカジノの設計を手がけました。日本に来る前にも契約をとってきました。新しいカジノをラスベガスでやるそうです」と話す村尾さんは、カジノビジネスを熟知していると言っていいだろう人物。12月に一時帰国、26日に「カジノを考える市民フォーラム」の講演会で、カジノビジネスの実情を話した。それは華やかなカジノのイメージをぶち壊す衝撃的な内容だった。

「日本人がカジノの実情を知らず、○○らしいという議論をしていることがとても危ないと思ったんです」と村尾氏は講演した理由を説明した。

 今春、米国の自宅にいるとき、YouTubeに配信された日本のテレビニュースを観て、横浜にカジノ誘致があることを知った。ニュースには“ハマのドン”と呼ばれる藤木幸夫・横浜港運協会会長が「おれは命をはってでも(カジノに)反対する」と発言していた姿が流されていた。それを見た村尾さんは「日本にカジノを作る必要性がないということを、ただ、ただ、藤木会長に伝えたくて」手紙を書いた。その手紙を藤木会長が読み、両者はその後連絡をとりあって今回の運びにもなったという。

 以下、発言要旨を報告しよう。

■カジノ側がボロ儲け

 村尾氏が関わってきたカジノビジネスとはどういうものか。

「最初の仕事は2004年でした。カジノをアジア向けのデザインにしたいということでぼくに声がかかりました。日本円で4億円の仕事で一年をかけてつくりました。するとお客さんから、6週間でもとがとれた、と連絡がありました。次もやってくれと言われて12億円の仕事をしました。それも8週間で元がとれたと連絡がありました。それでお客さんがイケイケになって、以後は毎年2件か3件のカジノ設計をしてきました。しかし考えれば、カジノ事業者がそんなに儲かるのは負けた方がいるからです」

 日本にも競輪、競馬など公営ギャンブルはあるが、カジノはギャンブルとして性格が違う。ファストギャンブル、速い博打という点だ。

「たとえばバカラというゲームはインディアン・ポーカーと同じ、ゲームがだいたい5秒くらいです。ぱっぱとやって、5秒で1000万円がなくなります。パチンコで1000万円使うには何日かかりますか。バカラなら1億円を1時間でなくせます」

 そのため何億円も失う日本人もニュース沙汰になるわけだが、そのような高額のギャンブルをする客でなくともカジノ側にとって収益は大きいという。

「スロットマシーンは1日500万円の収益がないと機械がおかしいという話になります。それでレイアウトを変えたりします。1回25円程度ですが、一台あたり1日500万円の収益が入ります」

 素人がもっとも飛びつきやすいスロットマシーンは予想外に収益源だという。さらにはオケラになった人へのさらなる対策もカジノは設計している。

「カジノには負けている人にクレジットをつけてカジノからお金を借りさせる部屋をつくります。上限ぎりぎりまでクレジットカードで借りさせ、家を抵当に入れさせます。限界まで負けられるようにカジノはお金を貸し出すんです」

 日本の公営ギャンブルやパチンコではそこまで身ぐるみはがない。

■お客の感覚を狂わすデザイン

 それでは村尾氏はどのようなカジノをデザインしてきたのか。

「駐車場からブティック、コンサート、ロビーからホテルにはいるのもどこにいくのもカジノの横を通るように設計します。保育所に行くにもカジノの横を通ります。カジノの部屋をデザインするときに窓はつくりません。何時ってわかると冷めてしまいますから。時計もありません。照明は全体的にだいたい夕方5時くらいの明るさでつくります。お風呂にでも入ろうかなという時間帯ですね。椅子の高さ、テーブルに手を置く場所、色調やデザイン、音の反響、人と人の間隔なども考えます。カジノ内部ではところどころでお客さんが勝っているBGMも流します。外でタバコを吸うと冷めちゃうので、そこでもカジノから出さないようにします。ともかくお客さんをカジノから出してはいけないんです。お客さんが出たらぼくらの負けです。そして休憩できるような椅子は置かずに座れないようにします。そうするとスロットマシーンに座りたくなるわけです。前に座ればちょっとコインを入れようかなとなりますから」

 ただ、カジノから外に出ることにカジノ事業者が好意的な場合もあるという。それは別のカジノに行く場合だ。

「カジノは1軒だけあってもつまらないんです。カジノのハシゴができないと。それができるのがラスベガスです。それでカジノタウンがあるんです。カジノがお互いにショーをやったり、ホテルでブッフェをやったりする。たくさんあればあるほど面白い街ということなのです。かりに横浜で(IRが)オッケーになり横浜でカジノを作ることになるとします。するとカジノ事業者はお金を回収しないといけない。しかしそれが回収できない場合はどうするのか。競争相手をつくらないといけないとなるでしょう」

 考えられる限りお客からカネをむしりとる緻密な仕組みだが、現時点ではお客にならない相手もカジノは狙っているという。

「次世代のことも考えてカジノはデザインされています。カジノの周りには健全なものもありますよね。高級ブティックやレストランとか、ファミリーでいけるような場所です。そうすると週末にブッフェがあるからと家族が訪れます。そこにはカジノがあるのです。子どもはカジノには入れないけど目でカジノを体験できます。いつか自分も行けるかなと。兄や姉も行っているし、21歳になれば自分も入れるとなります。そうやって次の世代を育成しています。カジノが近くにあるというだけで、カジノが身体の一部になります。そもそもカジノがなければ行かないわけです。マカオにカジノがあっても、(日本人は)そこまで行かないでしょう。だけど、家の隣にカジノがあったらどうしようもないのです」

■米国カジノの苦しい台所事情

 なぜ米国のカジノ事業者は日本をターゲットにするのか。講演会に参加していた横浜市民らからも質問が出た。

「アメリカではお金持ちはカジノに行きません。ちゃんとお金を稼いでいる人は普通の生活がギャンブルですから。宝くじも買いません。いまアメリカのカジノ業界全体がすごく苦しいと思います。2002年以降、どん底だったカジノ景気はよくなってきていました。しかし2005年から期待されていた中国マネーは締められてしまって入ってこなくなり、2008年のリーマン・ショック以降、アメリカ人は初めて預金口座の存在を知って、お金を貯めるようになりました。いまの若い子はカジノで無駄金は使いません。この10年間に10軒くらいのカジノが倒産しています。小さい自治体でやっていたカジノが次々に潰れています。アトランティック・シティ(ニュージャージー州)はほとんど瀕死の状態です。カジノ周りには質屋が並んでいて、ホームレスがいるような状態です。ラスベガス(ネバダ州)は少しよくなったが、だいぶつらいようです。そういうことで日本がターゲットになっています。日本人のベッドの下に隠れているお金を取り出したいのだと思います」

 一方で米国では衰退している自治体ほどカジノ誘致に手を上げているという。

「州との契約によって違いますけど、アメリカ先住民の居住エリアでカジノをつくってきました。それはアメリカ先住民を税で助けていくのではなく、カジノで働いてがんばって稼いでほしいという趣旨でした。カジノからの収益の70%が地元に落ちて、民間事業者側の収益は25%から30%くらいです。日本政府の方針だと収益の7割が民間事業者だと聞きますから逆です。びっくりしました。

 これまでは街を助けるためにカジノをつくってきましたが、2004年にはじめてダウンタウンにつくりました。ニューオリンズ(ルイジアナ州)です。ここを皮切りに、ワシントン州、ボルティモア(メリーズ州)やセントルイス(ミズーリ州)など主要な街につくってきています。

 業者は最初にテレビやラジオやインターネットを使って、カジノがいかに街にとって良いのかということを2年くらいかけて呼びかけます。雇用がどうなった、税がどれくらい入るかとよいサンプルケースを出してきます。そして市長や街の有力者を抱き込みます。それで賛成派が51%以上になれば勝ちですから」

 日本の自治体のプレゼンも同じようなものだろう。IRなどといって自治体が掲げる経済波及効果は期待できるのか。日本でもカジノ事業者がJリーグのサッカーチームをスポンサードしたり、華やかで友好的なイメージを振りまきはじめている。その一方でカジノ誘致に熱心な政治家への収賄容疑も明らかになった。

「自治体は税収が入る、人をたくさん雇える、街の活性化になるとプレゼンテーションをします。だけど、ぼくら(事業者側)はカジノからお客さんが出ないようにデザインするわけです。カジノからお客さんから出たらぼくらの負けですから。結局、地元の人からお金をとるためにカジノをつくっているんです。米国のカジノではそんなにお金を持っていないような人がカジノに来て賭けています。たとえば、日本の人が、ラスベガスに行ってカジノでちょっと賭けてショーを観て帰ってくるというのが理想的なのですが、どうしても下流に行きます」

■「飲む・打つ・買う」とカジノはセット

 日本政府が知ってか知らずか、まったく検討していない議論がある。

「カジノで一番怖いことは<飲む・打つ・買う>がセットであることです。カジノで酒は無料で出しますが、裏では売買春のシステムがあります。ラスベガスでの売買春はもともと違法でしたが、合法にしました。そうすれば娼婦の健康を維持できる保険が出せるからです。それでなあなあになりました。

 IRはカジノと全然関係がありません。IRは総合的なリゾートですが、カジノって賭博場でしょう。日本の法律では賭博はだめだと言っているのにそれをひっくり返すのはおかしい。カジノが成功しているというのはそれだけの人がお金をすっている。それだけのことです。よくないわけです。人の弱みにつけこむということです。

 藤木さんたちがプレゼンしている国際展示場による再開発という計画はすごい手です。カジノは人が外に行かないようにデザインするわけですが、国際展示場は街に出て楽しんでという。大きい街ならコンサートもあるし、スポーツイベントもできる。そちらのほうがよほどいいと思います」

 格好良くカジノをプレイしているイメージとは真逆だという米国のカジノ実情。そこには将来の日本の姿も見えてくる。それでもカジノを地元に誘致したいと言えるのか。

(取材・文=平井康嗣/日刊ゲンダイ)

関連記事(外部サイト)