引き継がれなかった失踪事件 動燃OBは「顔を見るのも初めて」【消えた核科学者 警察庁拉致関係リストの真実】

引き継がれなかった失踪事件 動燃OBは「顔を見るのも初めて」【消えた核科学者 警察庁拉致関係リストの真実】

動燃の後身である日本原子力研究開発機構(写真)友永翔大

【消えた核科学者 警察庁拉致関係リストの真実】#21

 動燃(現・日本原子力研究開発機構=JAEA)の総務部門と、茨城県警勝田署(現・ひたちなか署)は竹村達也が失踪した当時、緊密な関係を維持していた。

「動燃が扱う核物質を『過激派集団』から守る」ことが目的だ。動燃の労働組合が監視対象になっていた。竹村が失踪した直後には、勝田署の刑事が動燃にやってきて「北へ連れていかれたな」と言っている。それならば当然、竹村の失踪後も動燃と勝田署は事件を追い続けたのではないか。私はそう考え、動燃の総務畑を歩んだ人物を探した。

 入手した職員名簿を手掛かりに、あるOBを見つけた。竹村がいた動燃東海事業所の総務課長や本社の総務部長、動燃理事長の秘書役を歴任している。エリートで、竹村よりは10歳年下だ。

 そのOBは、核燃料を再処理してプルトニウムを取り出す許可を得るためのアメリカとの交渉も経験している。竹村はアメリカの国立アルゴンヌ研究所に留学し、アメリカの原子力技術を吸収した人材だ。失踪については当然調べているはずである。そう期待して自宅を訪れた。

 私は、竹村の顔写真を見せた。

「存じ上げないなあ。このお顔を拝見するのは初めてです」

 OBは麦茶を私に出した後、写真をまじまじと見て言った。

 ――失踪と言いますが、北朝鮮に拉致された疑いがある。

「プルトニウム技術者の失踪事件、ましてや拉致の疑いがあるとなったら大変なことです。重大事項として引き継がれるはずです。でも引き継がれていないし、聞いたこともない」

「私は東海事業所の総務課長をやっていますからね。理事長の秘書も務めた。何より『外国に追いつけ、追い越せ』で、日本でも核燃料を再処理してプルトニウムを持てるようにする交渉をアメリカとしましたから。こんな重要なことがあれば耳に入ってくるはずですがね。不思議だなあ」

 OBは首をかしげた。

 ――勝田署と動燃の総務はともに労働組合の監視でコミュニケーションを取っていたのでは?

「ええ、カツケー(勝田署)とはよくコンタクトを取っていましたね。茨城県警本部とも年に1回か2回の付き合いはあった。でも本当に竹村さんのことは聞いていないんですよ」

 核物質を「過激派集団」から守る目的で、警察と協力していた動燃が、竹村の失踪事件については何も知らない、引き継ぎがないということがあるだろうか。私は動燃の後身である日本原子力研究開発機構に当たることにした。 =敬称略、つづく

(渡辺周/「ワセダクロニクル」編集長)

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