「核開発の父」カーン博士の告白には日本も敏感に反応【消えた核科学者 警察庁拉致関係リストの真実】

「核開発の父」カーン博士の告白には日本も敏感に反応【消えた核科学者 警察庁拉致関係リストの真実】

竹村の情報を巡り、ワセダクロニクルがCIAとやりとりした文章

【消えた核科学者 警察庁拉致関係リストの真実】#28

 プルトニウム製造係長 竹村達也さん

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 1972(昭和47)年、茨城県東海村の動燃(現・日本原子力研究開発機構)で働く科学者・竹村達也が失踪した。大阪大学工学部を卒業し、米アルゴンヌ国立研究所にも留学、帰国後はプルトニウム製造係長も務めていたエリートだ。その後、竹村の名前は警察庁の拉致関連リストに登場する。

 プルトニウム技術者だった竹村達也の失踪に対して、警察や動燃の後身である日本原子力研究開発機構の動きは鈍い。しかし、2004年にある科学者と北朝鮮の関わりが発覚した時は、日本政府に緊張感が走った。

 その男の名は、アブドル・カディール・カーン。パキスタンでは「核開発の父」と言われ国民的な英雄だったが、北朝鮮、リビア、イランに核兵器に使える技術や機器を流したことを04年の2月に告白した。

「核の闇市場」が存在する――。世界中に戦慄が走った。

 国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長は、カーン博士がパキスタンの国営テレビで告白した翌日、「カーン博士は氷山の一角だ。核の闇市場は巧妙に活動している」と語った。

■「核関連技術の流出は核不拡散体制を損なう」

 日本でも緊張感が高まった。カーン博士の告白があった年の12月、参議院で「北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会」が開かれ、外務大臣の町村信孝が次のように述べている。

「ウラン濃縮計画については、02年10月のアメリカ代表団が訪朝した際に北朝鮮側がアメリカに対してウラン濃縮計画の存在を認めたと、こうされているわけであります」

「日本も例のパキスタンのカーン博士による証言を含めて関連情報の収集に努めているところ」

 09年6月の衆院外務委員会では、外務副大臣の伊藤信太郎がこう語った。

「カーン博士は、(北朝鮮に)数次訪れていまして、北朝鮮をはじめとするパキスタンの国外への核関連技術の輸出に関与したことを明らかにした」

「我が国としては、いかなる形であれ北朝鮮等に対して核関連技術の流出があったことは、国際社会の平和と安定また核不拡散体制を損なうもので、極めて遺憾」

 当時の町村外務大臣や伊藤副大臣からは、日本がアメリカをはじめ国際社会と連携して、北朝鮮への核技術の流入を防ごうとする姿勢が見られる。

 では竹村の失踪事件については、外国の当局と連携しているのか。警察当局は竹村が北朝鮮に拉致された可能性があると疑っている。竹村がもし北朝鮮の核開発に関与していたなら、日本政府には大きな責任がある。
ワセダクロニクルは、CIA(米中央情報局)に情報公開請求をかけるなどして、アメリカに竹村の失踪事件に関する情報がないか探している。だが今のところ、竹村についての記録は見つかっていない。 =敬称略(つづく)

(渡辺周/「ワセダクロニクル」編集長)

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