Eテレ長寿番組で「最もセンシティブな回」放送 怪人「マスクトルモン」が伝えたかったコト

「みんな、マスクを取っていっしょに遊ぶぞ〜」

NHK・Eテレの教育番組「ストレッチマン・ゴールド」(毎週木曜放送)に2021年10月、異色の怪人が登場した。マスクをつけることを嫌がり、人々のマスクを外そうとする「ヤダヤダ怪人 マスクトルモン」だ。

ネット上では「時代を感じる...」と話題に。過去のストレッチマンシリーズの中で「最もセンシティブな内容」と位置付けた放送回。伝えたかったメッセージとは。

■「ぼくにむりやりマスクをさせようなんて、キミは友だちじゃないもん!」

紫色の身体に、2本の触角を生やした怪人。耳にかけた白い不織布マスクはなぜか「顎マスク」状態で、適切につけられていない。10月21日と28日、「ストレッチマン・ゴールド」に登場した怪人・マスクトルモン(演:愛知県刈谷市立刈谷特別支援学校の先生)だ。

特別支援学校に現れたマスクトルモンは「耳がいたくなるし、顔が見えなくなる」とマスクの着用を拒否。さらに「みんな、マスクを取っていっしょに遊ぶぞ〜」と、児童たちのマスクを外そうと追いかけまわす。

そこに番組の主人公・ストレッチマン・ゴールド(演:俳優の結城洋平さん、以下「ゴールド」)が参上。マスクトルモンにマスクのつけ方を教えようとする。しかし、「マスクつけなきゃだめなの〜? いやだ〜!」と抵抗。「ぼくにむりやりマスクをさせようなんて、キミは友だちじゃないもん!」とその場を去ってしまう。

ゴールドはあきらめず、白衣に身を包んだマスクの専門家に変身。「このマスク、耳がいたくて、口のまわりがいやな感じがして、苦しくってできないんです」というマスクトルモンの相談に対し、マスクのサイズが合っていないことを指摘した。さらに、マスクを大きく広げるように着ければ息がしやすくなる、と教えた。

マスクトルモンは「いろんなサイズや形があるんだ〜」「お〜、たしかに息がしやすいよ〜」と納得し、マスクをつけようとチャレンジする。この隙にゴールドは「ストレッチパワー」を集め、マスクトルモンに向けて放出。マスクトルモンは「ありがとう! マスク、つけられたよ!」と言い、学校を去っていく。

■マスクが苦手なこどもに「無理強い」せず

94年から放送が続いている「ストレッチマン」シリーズ。18年から放送中の5作目「ストレッチマン・ゴールド」は、何かしらの「スキル」を苦手とする特別支援学校・学級の児童に、スキルを教えることを目的としている。

番組に登場する怪人は、いずれも「特定のスキルが苦手」という特徴を持つ。これまで「歯ブラシの使い方を知らない怪人」「なんでも落書きをしてしまう怪人」など様々な怪人が登場してきたが、「マスクの着用を拒否する怪人」が登場したのは初だ。ネット上では「時代を感じる...」と話題を呼んだ。

「『ストレッチマン・ゴールド』は、特別支援学校の教師や特別支援教育の専門家と連携を取りながら放送内容を決めています。2021年度は『マスクをつける』スキルを取り上げてほしいという声が、特別支援教育の現場から上がっていたことから、検討を始めました。制作担当者が複数の専門家と協議を行った結果、マスクをつけることが社会で日常的に求められることが多くなったことや、マスク着用による感染リスクの軽減などを総合的に考慮し、ストレッチマン・ゴールドで紹介することを決めました。(それに伴い)マスクが苦手で取ってしまう、という怪人を登場させました」

NHK広報局の担当者は11月5日、J-CASTニュースの取材に対し、放送の経緯を説明した。今回の放送テーマは「マスクをつけよう」。触覚過敏を理由にマスクの着用を拒む子供たちに、マスクをつけてもらうことを目的としていた。

番組前半では「口のまわりがチクチクして、息苦しい」とマスクの着用を嫌うゴールドが、タオルやスポンジ、不織布など異なる感触のものを顔に押し当てて「触り心地」を確認。「これならマスクに挑戦できるかもしれない!」と喜ぶ場面があった。これには「ふわふわ」「ごわごわ」など、素材の違いを「言語化」することで、触覚過敏の軽減につなげる目的がある。

また、マスクを嫌がるマスクトルモンに対し、ゴールドがマスクのサイズが合っていないことを指摘するシーン。これは、サイズの合わないマスクでは皮膚への密着度が高まり、触覚過敏が出やすくなることから、サイズの重要性を指摘した、というものだった。

「お子さんに無理強いすることなく、少しずつ(マスクを)受け入れられる感覚を広げていく方法について、ストーリーを通じて伝えることを目指しました」(NHK広報局)

■「マスクをつけられないのは何らかの事情がある」

番組公式サイトには、番組制作に携わった東京都立矢口特別支援学校の主任教諭・川上康則氏による解説資料が掲載されている。コロナ禍で「マスクをつけられない」ことを放送テーマにした背景について、次のように語っている。

「規範意識が強い社会の中で、マスクをしていない姿はどうしても目立ちます。『ルールを逸脱している』とか『息苦しくても頑張ってルールを守っている人がいる中で、マスクをつける努力もしないのは、わがままで身勝手だ』などといった厳しい視線を向けられることが増えました」

「苦手なマスクであっても、つけていればそれだけ感染のリスクを低くすることができます。『マスクをつけることで健康を守りたい』という関係者の願いと『マスクをつけるのは本当に苦手』というその子特有の事情の間で、今回の『マスクをつけよう』の企画がスタートしました」

番組ではマスクの扱い方や登場人物の会話一つにも「慎重に協議を重ねた」、と川上氏は振り返る。

「表現は適切か、『からかい』や差別を助長するような内容になっていないか、過度に心理的負担を押し付ける内容になっていないか、など何度も制作スタッフと番組委員の間で内容を確認してきました。いずれにしても、これまでのストレッチマンシリーズの中では、最もセンシティブな内容に踏み込む回になりました」

今回の放送では触覚過敏によりマスクをつけられないケースを取り上げた。ただ、呼吸器系の疾病、皮膚疾病、誰かに口と鼻を塞がれたことによるトラウマなど、ほかの理由でマスクをつけられない子供たちもいる、と川上氏は説明。番組が発信するメッセージについて、次のような見解を示した。

「番組でマスクをつけることを取り扱うことが、嘲笑うような雰囲気、からかいや厳しい視線につながることだけは、厳につつしまねばなりません。まずは『マスクをつけられないのは何らかの事情がある』ということへの理解を広げる必要があります」

放送はNHK・Eテレの番組公式サイトで視聴できる。

(J-CASTニュース記者 佐藤庄之介)

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