東京最古のジャズバー「シャルマン」閉店へ 66年の歴史に幕、8000枚レコードの行方は

現存する中では東京最古といわれるジャズバー「モダンジャズシャルマン(以下シャルマン)」が2022年1月29日に閉店する。創業当時とほとんど変わらない佇まいで、8000枚に及ぶレコードを昔ながらの再生環境で奏で続けていた。

国内外の多くのジャズ好きに愛される店だが、入居している物件の都合で閉店を余儀なくされた。店主や常連たちは、移転などの形で店の存続を望んでいるが、目途はたっていない。

J-CASTニュース編集部は2021年12月中旬、西日暮里にある同店を訪れた。

■著名なアーティストも訪れた歴史的な店

JR日暮里駅北口にある「夕やけだんだん」と呼ばれる階段を下ると、谷中銀座商店街の手前のビルから往年のジャズが漏れ聞こえてきた。音源に向かい、暗く軋む階段を上ると、こぢんまりとしたスナックがある。1955年創業のジャズバー、シャルマンだ。

オーナーの石岡守之助さんは、レコードを背にしたカウンターで客を待っていた。本業は歯科医で、店を開くのは水、金、土曜日の夜のみ。もともと常連客で、2010年にシャルマンを引き継いだ。

「創業者の毛利好男さんが怪我をして店を売るというので、居抜きで買いました。
私はここでしか飲んでなかったので、この場所がなくなったら居場所がなくなってしまう。飲みに行くところは居酒屋のようなところではなく、リラックスして良い音楽の聴けるところが良いんです」

石岡オーナーが店に出会ったのは約25年前。都内のジャズ喫茶を紹介する本を手に、ジャズを楽しめる店を探し回った。掲載されていた店はほとんど閉店していたが、最後にたどりついたシャルマンだけは音を絶やしていなかった。

全国のジャズ喫茶情報を発信する合同会社ジャズシティ(名古屋市)の楠瀬克昌さんによれば、シャルマンは現存する東京最古のジャズ喫茶(現在はジャズバー)だという。開店当初は1階で喫茶店として営業していたが、その後2階にスナックを開き、80年代以降は2階のスナックのみで営業を続けている。

1961年1月にはアメリカのジャズドラマー、アート・ブレイキー率いるジャズバンド「アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」も来店した。

「1961年のアート・ブレイキーの来日は日本にモダンジャズの大ブームを起こしたきっかけとなった歴史的公演です。その際にメンバーが全員訪れたというジャズ喫茶はほかにはなく、このことだけでもこの店が大変な歴史を持った店であると言えると思います」(楠瀬さん)

店内にはアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズのサイン入りレコードが残されていた。

■貴重なレコードが残されている

「シャルマンの魅力は60年代からそのまま変わらない佇まいと、7000枚に及ぶレコードコレクション、そしてスナック(ジャズバー)にもかかわらず大爆音でジャズを流していることでしょうか。いまの東京であれほど音の大きいジャズ喫茶はもう2、3軒しかありません」

楠瀬さんがこう述べるように、シャルマンでは大音量でジャズが流れていた。

石岡オーナーは新たにお気に入りのレコードを取り出すと、手際よく表面を磨き、再生テーブルに載せた。針を落とすと、再び店内に爆音が響き渡った。

「大きな音がちゃんとした音。スピーカーがちゃんと動くワット数があるんですよ。一定の音量まで上げないと38センチのウーハー(編集部注:低音を奏でるスピーカー)が動かない。ちゃんと動くと、ベースの音が生き生きと出てくる」

シャルマンにはCDプレイヤーなど最新の再生機材は置かれていない。真空管アンプとJBLのビンテージスピーカーが現役で活躍している。石岡オーナーは「これが60年代のアメリカの家庭の音です」と得意げに語った。

こうした音楽環境を求めて、シャルマンには多くのジャズファンが集う。新型コロナウイルス感染症拡大以前は、多くの訪日外国人も訪れていた。

取材日には2人の常連客が訪れた。そのうちの1人、坂下さんは74年からシャルマンに通う古参の常連だ。家で聴くよりも良い音を楽しめるのだと、自宅から持ってきたレコードを常連用の棚に並べていた。坂下さんによれば、店にあるレコードも非常に貴重なものであるという。

「モダンジャズが一番盛んだった時代に初代オーナーが集めていたレコードは大変貴重です。開店時は戦後10年ほどで、まだ庶民にはレコードが手に入らない時代、ジャズレコードはアメリカなどから手に入れる必要があり、米軍関係者などからのバイヤーを介さないと手に入りません。
70年代には多くのジャズ喫茶が現れましたが、その時代には入手が困難な発売当時のレコードは中古で探す必要があり、オリジナル盤と言われる貴重なレコードをワンオーナーで所持し、昔ながらの再生装置で聴けるジャズ喫茶はなかなかないですね」

店には、初代オーナー・毛利さんが集めた約7000枚のジャズレコードが残されている。石岡オーナーのロックやブルースのレコードを含めると、約8000枚のレコードがある。

しかしシャルマンは現在、閉店の危機を迎えており、貴重なレコードの行き先も決まっていない。

■時代とともに消えていくジャズの店

シャルマンは、多くのジャズ喫茶が消えていった中で残った珍しい店だった。坂下さんによれば80年代、アナログからデジタルが主流になりCDが広まったころ、ジャズが衰退すると同時にジャズ喫茶も減っていったという。バブル期に土地を手放す店も多かったそうだ。

「シャルマンは一等地でなかったので持ちこたえられたのでしょう。この周辺はお寺が地主で、昔ながらの街並みが残っていました。
しかしお寺が何らかの事情で土地を手放し、再開発が進んでいます。この周辺も地上げにあい、シャルマンの入っているビルの大家さんも売る判断をしました」

石岡オーナーは「まさか自分の代でつぶすことになるとは」とこぼした。店を続けたい気持ちはあるものの現実的には厳しいという。

「移転先を探すのも厳しく、このままでは廃業することになります。クラウドファンディングなどは考えていません。クラウドファンディングを実施するなら人々に何かしら返さなければいけませんが、返せる当てがありません。本業ではないところでリスクは負えません。家計にも負担はかけられない。続けたいけれども、そういうことはできない」

こうしてシャルマンは、66年の歴史に幕を下ろすことになった。店がなくなってしまうと、約8000枚のレコードを保管することも困難になる。石岡オーナーは、貴重なものを除いたほとんどのレコードを中古屋に売るつもりだと話した。

しかし常連たちは、レコードコレクションとシャルマンの歴史などを残していきたいと考えて動き出している。

■「シャルマンの名前やスピリッツといったものは残ってほしい」

この日訪れた常連のもう一人、早坂さんはシャルマンの存続を願い、店のフェイスブックやインスタグラム、ツイッターの運営を行っている。

「石岡さんに許可をもらって数年前からお店の代理でSNSの投稿を行っています。お客さんを呼びたいからではなく、この店の存在を知ってほしいという思いで始めました」

早坂さんは各SNSでシャルマンの閉店を伝え、移転先を探していることを明かした。SNSでの拡散によって、シャルマンの今後に関するアイデアは何件か寄せられているが、移転の目途はたっていない。12月16日現在は、近所のバーに間借りする形で一部のレコードを移せないか調整中だという。

「内装を含めてのシャルマンなので、たとえ移転をできたとしてもこの空気は再現できません。寂しさはありますが、なくなるよりはいいと思い移転先を探しております。現在は近所のお店に間借りする形で、時折貸し切り営業のような形で残せないか検討中です」

早坂さんは「常連のエゴである」と前置きしたうえで、こう訴えた。

「シャルマンは60年代の雰囲気を残しており、全国的に見ても最古参のジャズバーだと思います。大げさに言えば文化遺産です。何らかの形で残ってほしい。建物は消えるけどシャルマンの名前やスピリッツといったものは残ってほしいと思います」

(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)

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