「この人達なら一緒に店をやりたい」 閉店する東京最古のジャズバー「シャルマン」の意志継ぐ店ができるまで

東京最古のジャズバー"シャルマン"閉店の危機 常連たちがモダンジャズとその意志継ぐ

記事まとめ

  • 東京最古のジャズバー「モダンジャズシャルマン」が、閉店の危機を迎えているという
  • 常連たちは、この店の"モダンジャズ"を残そうと移転先を探し求めてた
  • 千駄木のバー「Player's Bar R」で、"モダンジャズ"とその意志を継ぐことに

「この人達なら一緒に店をやりたい」 閉店する東京最古のジャズバー「シャルマン」の意志継ぐ店ができるまで

現存する中では東京最古といわれるジャズバー「モダンジャズシャルマン」が、閉店の危機を迎えている。今では貴重となったジャズレコードの数々、真空管アンプやJBLのビンテージスピーカーが奏でる音が、都心の下町「谷根千」から途絶えようとしていた。

「シャルマンを残したい」と感じていた常連たちは、千駄木のバー「Player's Bar R」で「モダンジャズ」とその意志を継いだ。両オーナーと交渉し実現した。

J-CASTニュースは2022年6月16日、リニューアルオープンした「モダンジャズPlayer's Bar R」を訪れ、双方の関係者に取材した。

■「谷根千」で進む再開発、失われる昭和の風景

シャルマンは「夕やけだんだん」の愛称を持つ階段を下った先にあるジャズバー。1955年に都心の下町・谷中で創業した。昭和の趣を残す店内には、1950年代から70年代にアメリカから輸入されたジャズレコードが8000枚ほど並ぶ。1960年代に日本のモダンジャズブームを巻き起こした、アメメリカのジャズドラマー「アート・ブレイキー」も訪れた歴史ある店で、当時のサイン入りレコードも残されている。

店外に漏れ出るほどの大音量で音楽を再生していることも特徴で、石岡守之助オーナーは一定の音量まで上げないと低音を奏でるスピーカーが動かないのだとこだわりを語る。店で用いているのは真空管アンプやJBLのビンテージスピーカーなど当時の再生機器だ。CDプレイヤーなどは置いていない。

古き良きジャズを求めて国内外から多くの人々が訪れていたが、入居している物件の都合で閉店の危機に晒されている。谷中・根津・千駄木エリアを指す「谷根千」の再開発の影響だ。シャルマンの広報を手伝う常連の早坂さんは、取材に対し次のように説明する。

「1月末には閉店し2月末に完全退去をすると、ビルの大家さんと約束していました。現在は新しい土地の所有者に変わりましたが、立ち退きを拒否する店によって再開発がすすめられないそうで、開発に着手できるまでの間、営業を認めてくださっています」

J-CASTニュースは21年12月にシャルマンを取材していた。レコードを当時の再生環境で聞くことを楽しみとしていた常連たちは、この店の「モダンジャズ」を残そうと移転先を探し求めていた。しかし2022年6月現在までに移転先が見つかることはなかった。大音量で音楽を流せる立地は少なく、家賃などの問題もあった。さらには、嵩張るレコードやそれを再生するための大掛かりな音響装置を置くスペースも必要としていた。

「このままでは本当にシャルマンの歴史が閉じてしまう、今後はどこでジャズを聞けばいいのか。客の立場から、何かしたいという思いがありました」(早坂さん)

困り果てた早坂さんは同じくシャルマンの常連である坂下さんとともに、千駄木で「Player's Bar R」を営む塚本了介オーナーに相談を持ち掛けた。

■他店オーナーを説得した、シャルマン常連の熱意

「Player's Bar R」は塚本オーナーが2017年ごろにオープンした。

「音楽が好きだったから、生演奏のできる店が作りたくて、カラオケスナックを居ぬきで借りました。もともとコテコテのカラオケスナックでしたが、仕事仲間に協力してもらって手作業で内装を作り直しました。壁の色も天井も自分たちで塗りました」(塚本オーナー)

塚本オーナーの本業は作業療法士で、放課後等デイサービスの事業責任者を務める。2020年、新型コロナウイルス感染症拡大や本業が忙しくなった影響で、店を続けることが難しくなった。営業できないまま店を維持する余裕はないが、思い出の詰まった店を手放すこともできなかった。

そんな時、早坂さんと坂下さんからシャルマンを移転できないかと相談された。塚本オーナーは、「移転の話は魅力的だと思いましたが、賃貸の契約上、又貸しができない点や、自分たちが作ってきた店が全く異なる店になってしまうのではないかという心配から躊躇しました」と振り返る。

話し合いを続ける中で、塚本オーナーは「シャルマンの音を残したい」と願う早坂さんたちに何らかの形で協力したいと考えた。移転は受け入れられなかったものの、シャルマンの常連たちと一緒に店を営業することを決意した。協力の決め手については、こう話す。

「一言でいえば、早坂さんと坂下さんの人柄が誠実で、信頼できる人だと感じたからです。話を進める中で二人の人柄の良さが伝わってきて、この人達とだったら一緒に店をやりたいと感じました」

「Player's Bar R」は2022年6月16日、「モダンジャズPlayer's Bar R」としてリニューアルオープンした。店には、シャルマンのものと同等の音響機材と約1200枚のジャズレコードが運び込まれた。店の運営は、早坂さんと坂下さんを含むシャルマンの常連5人が手伝うことになった。

■「定年したらシャルマンのカウンターに立つのが夢でした」

「モダンジャズPlayer's Bar R」のリニューアルオープン初日、店内にはエプロンを着てレコードを磨く坂下さんの姿があった。店に持ち込まれた音響機材は、真空管アンプを除いてすべて坂下さんの私物だ。早坂さんによれば、ジャズ喫茶で用いられるオーディオシステムとしては上位のもので、シャルマンと同等かそれ以上だという。

坂下さんは週3日の営業日の全てに顔を出す予定だという。

「定年したらシャルマンのカウンターに立つのが夢でした。家では大きな音を出せないので、店で人々とジャズを共有して交流することを楽しみにしていました。昨今は会話禁止の店も多いですが、モダンジャズPlayer's Bar Rはシャルマンのように、ジャズ好きやこれからジャズを知りたい人々の交流の場としていきたいですね」(坂下さん)

坂下さんの本業は技術系で、シャルマンではオーディオ機器のメンテナンスを手伝っていた。モダンジャズPlayer's Bar Rに持ち込まれた真空管アンプは、石岡オーナーの許可を得てシャルマンから引き継がれた。壊れていたため長らく使われていなかったが、坂下さんが修理した。

レコードの音に触れた塚本オーナーは次のように感動を伝えた。

「レコードがこんな音を奏でるとは思わず、びっくりしました。もっとノイジーなものだと思っていました。本当にクリアな音で、音のない静かな感じと音が出る時のメリハリがしっかりしています。スピーカーの大きさにも驚きました」

その日、シャルマンの石岡オーナーも来店した。モダンジャズPlayer's Bar Rには定期的に通いたいと話す。

「とにかくスピーカーの切れ味がいい。アンプはシャルマンとほとんど同じだけど、シャルマンのは古くてへたってるからね。ものすごくいい、聞いていて楽しい。初めて来たけど感動しました。将来、店でライブできる可能性があるというのも面白いと思います。スモールなコンボから、2〜5人くらいの編成はできそう。期待しています」

石岡オーナー自身がモダンジャズPlayer's Bar Rを手伝う予定はないという。年齢のこともあり、シャルマンの閉店とともに引退を考えている。「早坂さんや坂下さんはシャルマンの音を聞きつくしてるから、ジャズバーの運営は楽々できると思う」と信頼を寄せた。

そんな石岡オーナーに、5人の常連たちはサプライズで花を贈った。これまで店を続けてきたことへの感謝だという。石岡オーナーは驚きながらも笑顔で花を受け取った。

■シャルマンから引き継ぐものとは

モダンジャズPlayer's Bar Rを手伝う常連の気持ちは様々だ。

5人の中で最も若手の堀江さんは、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急事態宣言後、外で音楽を聴ける場所を探し求めてシャルマンにたどり着いた。シャルマンに通った期間は短いが「若い人も含めてシャルマンのような純粋に音楽を楽しめる場所を引き継ぎたい」と話す。将来的に自分の店を持ちたいという思いもあり、店を手伝うことにしたのだという。

この日、カウンターに立っていた滝花誠吾さんはシャルマンの良さをこう語る。

「シャルマンの好きなところは何と言っても、普通のジャズ喫茶とは違ったハードボイルドなところ。硬派な感じがしました」

シャルマンは昭和の外観を残したビルの2階、暗くきしむ階段を上がった先にある。レコードがひしめく暗く狭い店内に、大音量のジャズが響き渡り、知らない人を寄せ付けがたい雰囲気を放つ。しかし一旦入店すると別の顔を見せる。

「シャルマンの1番いいところはお客さん同士が友達になれること。見ず知らずだった常連5人が一緒にお店を手伝うことができたのも、その典型的な例でしょう。交流できる場だったんです。
中年も多いけれども若い人もいる。普段は関わりのない職種の人の話もいっぱい聞くことができて面白いです」(滝花さん)

モダンジャズPlayer's Bar Rには、リクエストの多いレコードは揃っているものの、シャルマンの8000枚には到底及ばない。約1200枚のレコードが新設された戸棚に並ぶ。店内はシャルマンと比べれば広く、今風でおしゃれだ。シャルマンとは異なる趣を持つ。

「5人集まって一つのことに取り組むと、それぞれ違う思いを抱えています。すり合わせていくのはとても難しいです。なかなか意見はまとまらないし看板も決まらない、思うようにいかない。チラシ1枚作るのも相当な日数がかかりました。
それでも音楽を通してリラックスできる場所、交流できる場所を残したいという思いは共通していました。この店にハードボイルドさは感じないけれども、ジャズ喫茶でありながらフレンドリーでリクエストされたレコードを回す。そういったところはシャルマンから引き継がれていると思います」(滝花さん)

それぞれ異なる思いを抱えながらも、ジャズを楽しめる場を残したいという気持ちは共通していた。

この日は、シャルマンの常連たちが10人ほど訪れた。「楽しみにしていました」と笑顔で扉を開け、ゆったりとレコードの音に耳を傾けたり、店を運営する常連たちとの会話に花を咲かせたりしていた。谷中から千駄木へ、東京の下町・谷根千にシャルマンのモダンジャズは残り続ける。

(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)

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