火事場泥棒?議論の機会に? 新型コロナで露呈「緊急事態条項」への温度差

火事場泥棒?議論の機会に? 新型コロナで露呈「緊急事態条項」への温度差

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新型コロナウイルスによる感染拡大は「憲法改正の大きな一つの実験台。緊急事態の一つの例」となるのか――。

こう述べて議論の口火を切ったのは、自民党の伊吹文明元衆院議長だ。伊吹氏は2020年1月30日、自民党二階派の会合で、新型肺炎を「指定感染症」とする政令の閣議決定後、強制入院などには一定の周知期間が必要になると指摘。「周知期間を置かなくてもよくするには憲法を変えないと」とし、感染拡大は「憲法改正の大きな一つの実験台。緊急事態の一つの例」と述べたのだ。

新型コロナウイルスの感染拡大を契機とした憲法への「緊急事態条項」の新設をめぐる議論。感染地域からの帰国者の移動など私権を制限する内容を含むうえ、停滞する国会の改憲論議に弾みをつける思惑が透けて見えるため、野党だけでなく公明党も強く反発している一方で、自民党や日本維新の会からは後押しする声が続く。

自民党と日本維新の会からは賛成続々

これに先立ち行われた1月28日の衆院予算委員会では、改憲に積極的な日本維新の会の馬場伸幸幹事長が、「新型コロナウイルスの感染拡大は非常に良いお手本になる」としたうえで、安倍晋三首相に「緊急事態条項について国民の理解を深めていく努力が必要だ」と迫った。

安倍首相は「今後想定される巨大地震や津波等に迅速に対処する観点から憲法に緊急事態をどう位置付けられるかは大いに議論すべきものだ」と応じた。

その後、自民党が31日に開催した新型肺炎に関する対策本部では、出席者から「憲法改正への理解を国民に求めるべきだ」との声が上がった。現行憲法下では、人権への配慮から感染拡大を防ぐための強制措置に限界がある、との考えからだ。

自民党内の声に続くように、鈴木俊一総務会長は、緊急事態条項の創設について「それも一つのやり方だ」と述べた。小泉進次郎環境大臣は「公益と人権のバランスも含め、日本としてどうすべきかが問い直されている」と、改憲論議の活性化に期待感を示した。

ここで自民党の憲法改正をめぐる動きを振り返ると、2012年の憲法改正草案で緊急事態条項を新設。首相が武力攻撃や大規模災害などで緊急事態を宣言すれば、法律を成立させなくても個人の権利を制限できるとした。18年にまとめた「改憲4項目」では、大規模災害に限って国民の権利を一時的に制限したり、国会議員の任期を延長したりできるとした。

しかし、感染拡大で国民の不安に乗じるように改憲論議を進めようとする姿勢に、他党は一斉に反発を強めている。

公明党からも反発が

立憲民主党の枝野幸男代表は1月31日、「感染症の拡大防止はあらゆることが現行法制でできる。憲法とは全く関係ない。悪乗りで、人命に関わる問題を憲法改正に悪用しようとする姿勢は許されない」と述べた。国民民主党の玉木雄一郎代表も「悪乗りだ」と語った。

れいわ新選組の山本太郎代表は「コロナウイルスを利用して緊急事態は必要だという空気を醸成しようとしているやからたちがいる。なに火事場泥棒をやろうとしているんだって話だ」と批判した。

自民党と連立を組む公明党の斉藤鉄夫幹事長も「緊急事態条項の議論は国会議員の任期(延長)だけで、特別な権限を政府に付与することは抜きにして議論しようというのが各党のコンセンサスだ。それを越えた議論は冷静に、平時にするべきことではないか」と述べ、自民党とは一線を画している。

下村博文選対委員長は2月1日、「人権も大事だが、公共の福祉も大事だ。直接関係ないかもしれないが、(国会での)議論のきっかけにすべきではないか」との考えを示した。野党や公明党の反発に対しては「大規模災害などへの対応のため憲法に緊急事態条項を盛り込んだ場合でも、国家主義的な強権政治で圧政に向かうことはない」と強調した。

新型肺炎を契機とした「緊急事態条項」をめぐる改憲議論は、自民党と日本維新の会と、それ以外の党との温度差を改めて浮き彫りにしている。