高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 熊本豪雨で考える「治水のコスト」 筆者が10年前「ダム中止」反対した理由

高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 熊本豪雨で考える「治水のコスト」 筆者が10年前「ダム中止」反対した理由

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熊本県の水害で多数の方が被害に見舞われている。心よりお悔やみ申し上げたい。

それで思い出されるのは、川辺川ダム(熊本県相良村)の建設中止だ。2009年8月30日衆議院選挙があり、大勝した民主党政権が誕生した。公約の中で「東の八ッ場ダム、西の川辺川ダムの中止」があった。

その当時、この中止に対し、筆者はサンクコストによる意思決定理論から反対を論じた(「日本の大問題が面白いほど解ける本」)。

サンクコストを計算すると...

サンクコストとは、経済学でよく使われる概念で、それまで投入したコストは度外視して考えるというものだ。公共投資に則して言えば、それまで投下したコストを考えずに、完成までに要するコストだけと完成後の便益を比較し、便益が勝るときには工事継続、便益が劣るときには工事中止となる。

八ッ場ダムも川辺川ダムもどのように計算しても、工事中止という結論は出てこない。しかし、当時は政権交代の熱気なのか、当時のマスコミは八ッ場ダムと川辺川ダム中止ばかりだった。今の熊本の洪水被害の惨状を伝えているのと10年前に川辺川ダム建設に大反対していたのは、同じマスコミである、筆者としてかなり違和感がある。

東の八ッ場ダムについては、地元群馬県知事だけはなく首都圏知事も中止反対になったので、民主党政権時代に中止から建設続行に転じた。これは、結果として、その後の治水環境に大きく貢献した。

一方、西の川辺川ダムについては、地元熊本県において、2008年3月脱ダムを主張する蒲島郁夫氏が知事選に当選し、現在にいたるまで知事を続けている。

適正に公共投資するための「基準」

蒲島氏は、当時から「ダムによらない治水」と言い続けている。ダムによらない治水で考えられるのは堤防などの改良であるが、それを河川全体で行うより、上流の一カ所にダムをつくるほうがはるかにコストパフォーマンスがいいのは明らかだ。その結果として、今になっても「ダムによらない治水」はできておらず、今回の災害を防げなかった。しかし、今に至っても、蒲島氏は「12年間『ダムなし治水ができず』悔やまれる」とか第三者的であり、当事者意識に欠けているといわざるを得ない。蒲島氏の脱ダム行政を検証し、今後の政権運営に生かすべきだろう。

ダム建設に限らず、公共投資を適正に行うために、先進国ではB/C(便益・コスト比)基準が導入されている。これが1以上ならいい公共投資、1未満なら悪い公共投資と、定量的判断ができる。この基準なら、中止も合理的に判断できるが、川辺川ダムではその合理性を欠いていた。ダム中止に浮かれていた民主党政権もマスコミも同じである。

安倍政権も合理的とは言えない。B/Cの算出には、社会的割引率を使うが、日本の場合、4%と高いモノを十数年も使い続け、その結果過小投資になっている。昨年からいろいろなルートで国交省に圧力をかけたら、やっと国交省でも検討しはじめた。その見直しができれば公共投資は倍増し、災害対策にもっと貢献できるだろう。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長 1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「FACTを基に日本を正しく読み解く方法」(扶桑社新書)、「明解 経済理論入門」(あさ出版)など。