匿名報道は「ダブスタ」「身内に甘い」? 給付金詐欺の沖縄タイムス・元社員逮捕、ネットで議論

匿名報道は「ダブスタ」「身内に甘い」? 給付金詐欺の沖縄タイムス・元社員逮捕、ネットで議論

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沖縄県警は2020年11月13日、新型コロナウイルス対策での国の持続化給付金100万円を不正に受給したとして、沖縄の地元紙「沖縄タイムス」の元社員、牧志秀樹容疑者(45)を詐欺容疑で逮捕した。容疑を認めているという。各メディアが報じた。

沖縄タイムスも自ら報じたが、ウェブ版記事では「当事者が不利益や迷惑を被る恐れ」があることなどを理由に匿名報道だった。読者からは対応をめぐり異論が噴出している。

「極めて重大な事態」

沖縄タイムス社によれば、牧志容疑者は同社に勤務していた6〜7月にかけて、虚偽の内容で給付金を申請し、100万円を受給した疑いがもたれている。

社内の聞き取り調査では、申請書の職業欄に「フリマ雑貨」と虚偽の記載をし、給付金以外にも緊急小口資金20万円と総合支援資金60万円を不正に借り入れていたと明かした。

牧志容疑者は、代表を務める投資グループのメンバー26人にも不正受給の手口を指南し、「そこから(直接声掛けしていない人も含め)全体で130〜150人くらいに広がっているかもしれない」と話している。

紹介料は受け取っていないものの、「直接紹介した人たちに給付金の半額くらいを投資してほしいと促した。(その見返りとして)仮想通貨の配当で100万円以上の利益を得た」

沖縄タイムス社は、総務局付課長だった牧志容疑者を10月8日付で懲戒解雇処分とした。容疑者に誘われて、小口資金を不正に借り入れた「タイムス印刷」の30代男性社員も同じく懲戒解雇処分とした。

同社は牧志容疑者の逮捕の翌日、社説で「新聞は読者との信頼関係の上に成り立っています。その存在基盤をも揺るがす極めて重大な事態であり、読者の期待を裏切り著しく信頼を損ねたことを、心からおわび申し上げます」と謝罪し、再発防止を誓った。

氏名公表、各社で判断分かれる

全国で持続化給付金や支援資金の不正受給が相次いでいる。沖縄タイムスは9月12日のウェブ記事で「税理士事務所に"行列" コロナ給付金不正キャバクラなどに情報出回る 『若い女の子やアジア系外国人がひっきりなしに』と問題の深刻さを伝えていた。

牧志容疑者の一件は大規模の詐欺事件に発展する可能性もある。逮捕を受け、大手メディアのウェブ版の多くは実名で報じ、「FNNプライムオンライン」(フジテレビ系)、「TBS NEWS」は顔の映像も使用している。

地元の主要メディアでは、琉球朝日放送(テレビ朝日系)、琉球放送(TBS系)が実名。沖縄テレビ放送(フジテレビ系)、琉球新報、沖縄タイムスは匿名と社によって判断が分かれた(15日調べ、いずれもウェブ記事)。

沖縄タイムスは11月14日、「ネット上の匿名報道についてのご説明と題した記事を配信し、牧志容疑者を匿名にした理由を説明している。

同紙では実名報道を原則としているが、事件・事故報道は紙面では実名、ウェブサイトなどでは匿名を基本としているという。

「インターネット上では、一度掲載すると情報が広がって長く掲載され、すべてを消すことは困難です。逮捕で容疑者を実名で報じた後、不起訴や裁判で無罪になったりするケースもあることや、刑期満了後もネット上に長く残り続けることで、当事者が不利益や迷惑を被る恐れがあります。また、近年は『忘れられる権利』の訴えも一部で認められるようになりました」

一方、ネット記事でも政治家などの公人や、有名人の事件・事故については実名で報じるケースもあると注記する。そのほか、「多くの犠牲者がでるなど社会に甚大な影響を及ぼすような殺人や連続強姦、放火、子どもが巻き込まれるような重大事件」も実名を検討する。

「こうしたネット上の特性を踏まえ、事件・事故の報道は匿名を原則とし、容疑者の顔写真も掲載してきませんでした。このような基本方針に基づき、今回の弊社元社員の逮捕については、ネット上では匿名報道としております」

沖縄タイムスの報道姿勢に対し、ネット上では「そういう対応を世の中じゃダブルスタンダートっていんじゃない?」「今後もう紙面で『身内に甘い』という言葉は使えないね」などと不信感を表明する意見が目立つ。

実名・匿名報道巡り過去にも議論

実名・匿名報道の是非をめぐっては、直近では19年7月に起きた京都アニメーションでの放火殺人事件の際も議論となった。多くの遺族が氏名を公表しないように求めたものの、一部メディアが報じて報道機関への批判が湧き起こった。

在京テレビ局や新聞社などが加盟する日本新聞協会は20年6月、「メディアスクラム防止のための申し合わせ」との声明を発表し、「報道機関が、特に社会的影響の大きい事案で被害者を原則として実名で報じるのは、実名が事実の核心であり、正確な報道に不可欠であるからです。報道の真実性や訴求力を高めて公共の利益に資するためであり、被害者がかけがえのない存在であることを示す意味もあります」などと事件・事故の被害者を実名で報じる意義を述べていた。

メディア関係者の事件や不祥事では、東京高検の黒川弘務・前検事長が産経新聞や朝日新聞の社員と賭けマージャンをしていた問題や、東京新聞の記者が厚生労働省の職員を取材した際に怒鳴るなどの暴力的行為をした問題も、「匿名」対応を疑問視する声が上がった。