水圧に順応し、潜水病予防=「飽和潜水」仕組みや利点は―知床観光船、近く船内捜索

水圧に順応し、潜水病予防=「飽和潜水」仕組みや利点は―知床観光船、近く船内捜索

水深の深い海底で作業可能な潜水スーツを身に着けた海上自衛隊の飽和潜水員(海自提供)

 北海道・知床半島沖の観光船「KAZU I(カズワン)」沈没事故で、潜水士による船内捜索が近く始まる。地上の13倍もの圧力がかかる水深約120メートルの捜索は、特殊な装置で潜水士の体を水圧に順応させる「飽和潜水」で行う。潜水艦事故などに備える海上自衛隊の飽和潜水員は「水深100メートル以上で細かな作業を行う方法は他にない」と話す。

 空気ボンベによる通常の潜水は水深約50メートルが限界とされる。水圧が増すほど、呼吸で取り込まれる窒素が血液や体の組織に溶けやすくなり、酩酊(めいてい)したような状態になる「窒素酔い」や、浮上時に再び体から排出される窒素が気泡となって血管や臓器を傷つける「減圧症(潜水病)」の危険が高まるからだ。

 飽和潜水では、潜水士はまず船上にある「チャンバー」という密閉された部屋に入り、半日〜1日かけて作業を行う水深と同じ気圧まで室内を加圧して体を慣らす。体はこれ以上、窒素などを取り込まない「飽和状態」になり、さらに窒素より安全性の高いヘリウムと酸素を混ぜた混合ガスを室内に供給することで、窒素酔いを防止する。

 準備が終わると、潜水士は同じ気圧に保たれたカプセル状の「水中エレベーター」で現場に移動し、水中に出る。作業期間中は食事や睡眠も室内で済ませ、同じ気圧下を往復して過ごすため、何度浮上しても減圧症にはならない。終了後は1週間程度かけて室内を徐々に減圧してから外に出る。

 水中作業は体を温める装置や通信機、カメラが付いた特殊なスーツを着て実施。呼吸用の混合ガスもホースで供給され、長時間作業が可能だ。海自では水深約450メートルまでの作業実績がある。

 ただ、海中の作業は困難も伴う。海自の潜水医官によると、圧力の影響で呼吸がしづらく、めまいや関節痛が出る場合もある。ヘリウムによる変声で意思疎通も難しく、密閉空間で過ごすため高いストレスがかかり、期間は1カ月程度が限界という。

 海自の潜水員は「ドアの開閉など水中ドローンや作業艇には無理な作業が人にはできる」とした上で、「ホースでつながれた飽和潜水は行動範囲に制限があり、狭い船内には適さない。現場の潮流が速ければ活動できないこともある」と話した。 【時事通信社】