社会と個人の対立描く=「スパイの妻」で銀獅子賞の黒沢清監督―ベネチア映画祭

社会と個人の対立描く=「スパイの妻」で銀獅子賞の黒沢清監督―ベネチア映画祭

黒沢清監督

 「社会とその中に生きる個人がどうあるべきか。社会と個人はどのように共存・対立するのか。それが、以前から自分にとって興味深いテーマだった」。ベネチア国際映画祭で銀獅子賞を獲得した黒沢清監督(65)は、同映画祭期間中に行われた記者会見でそう語っていた。

 長年のキャリアで黒沢監督が一貫して描いてきたのは、社会における個人の存在の分からなさ、不確かさだ。例えば、出世作となった1997年の「CURE」では催眠術による猟奇殺人、2017年の「散歩する侵略者」では宇宙人の襲来を題材に、日常に溶け込む不安や脅威に向き合い葛藤する個人の姿を映し取った。多彩な角度から「社会と個人」を描いた数々の作品は国際的にも高い評価を受けてきた。

 ただ、現代が舞台では「個人と社会は入り交っていて、なかなか対立が目に見えたものにはならなかった」といい、「いつの日か社会と個人がはっきりと区別して描ける40年代前半の戦時下の日本をテーマにしたい」と感じていたという。

 その意味で「スパイの妻」は念願とも言える歴史劇。戦争というあらがえぬ運命に翻弄(ほんろう)される夫婦の姿を描くことで対立が鮮やかに生まれ、登場人物の愛や苦悩が一層真に迫る仕上がりとなった。

 「社会の中での個人や自由、正義といったテーマは、時代を超えて関わり合うものだと思っている」と語った黒沢監督。長年思い続けたテーマが結実した作品が、栄冠を呼び込んだ。 【時事通信社】