森永卓郎の「経済“千夜一夜"物語」 ★いきなり白旗の日米貿易交渉

9月26日に行われた日米首脳会談で、日米二国間の関税交渉に入る合意がなされた。安倍総理は、「両国間の貿易を拡大し、ウィン・ウィンの関係を築く合意だ」と自賛したが、実態は日本の惨敗だった。

 そもそも、日本は米国に対して、TPPに復帰するよう働きかけてきた。しかし、トランプ大統領はそれを拒絶し、日本から輸入する自動車に25%の関税をかけると脅してきたのだ。それに怯えた日本は、関税交渉を始める前に、「関税はTPP水準までしか下げませんよ」と言って、事実上、下げることを約束してしまった。自動車を守るために、農業を生贄にした形だ。しかも米国は、関税交渉の協議中は、自動車への関税引き上げを凍結すると約束しただけで、将来のことは何も言っていない。つまり、米国は何も譲歩せず、日本だけが犠牲を払ったのだ。

 本来なら、米国が厳しい立場に置かれるはずだった。TPPが発効すれば、TPP参加国から日本が輸入する牛肉の関税は、現在の38・5%から16年かけて9%まで下げられる。そうなると、TPP参加国の豪州産牛肉だけが安くなって、不参加国の米国産牛肉は、競争力を失ってしまう。米国は焦るだろう。本来なら、それを交渉カードとして使うべきだった。

 それなのに、いきなり日本が輸入する農産物の関税をTPP水準まで下げると約束して、それと引き換えに、関税交渉協議中の自動車関税引き上げを凍結してもらうというのが、今回の取引だった。これだと、協議が終われば、米国はいつでも同じカードで日本に脅しをかけられるから、中長期でみれば、日本は何も得ていないのと同じだ。

 元々、TPPでは米国が日本から輸入する自動車への関税は、撤廃するという約束になっていた。それを25%にするというのは、滅茶苦茶な話だ。だから、日本もAmazon締め出しとか、iPhone禁止とか、滅茶苦茶なことを言って、対抗すべきだったのだ。それができなかったのは、安倍政権が、対米全面服従戦略を採っているからだ。

 米国との貿易交渉で、日本と対照的なのが中国だ。中国が知的財産権を侵害しているとして、トランプ政権が課した制裁関税に対して、中国は即座に報復関税で対抗した。制裁と報復の関税引き上げはエスカレートして、9月24日に発動された第3弾では、ついに米国が中国から輸入する商品の半分に制裁関税がかかるところまでいった。

 私は、第3弾発動の前に中国が妥協すると見ていた。中国の専門家によると、そのプランも中国は準備していたという。しかし、トランプ大統領の暴挙に対して、徹底抗戦を決めたそうだ。今後、関税の引き上げで、中国の輸出にブレーキがかかり、中国経済は確実に苦しくなる。しかし、同時に米国も物価上昇で苦しくなる。そうした切羽詰まった状況になって初めて、落としどころが見えてくると、中国は考えたのだ。

 トランプ大統領のやっていることは、明らかに“カツアゲ”だ。その行為に対して、いきなり財布を差し出した日本と、財布を握りしめボコボコに殴られた中国。どちらが正しいか、判断は分かれるかもしれない。だが、明らかなことは、無抵抗ならカツアゲはエスカレートするということだ。

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