日露急接近 一気に動き始めた北方領土返還問題

 日露関係がにわかに熱くなってきた。12月15日には安倍晋三首相の地元・山口県で首脳会談も開催される。露プーチン大統領の来日は実に11年ぶりだ。
 「首相は政権浮揚に拉致問題を利用してきましたが、一向に進展のメドが立たない。そこで視点を北方領土に変えたのです。12月のプーチン来日で5月に提案した経済協力を具体化させ、郷里に場を移してからはプーチンが大好きな温泉やフグ料理でもてなし、一気に“北方4島返還”の言質を引き出すつもりでしょう」(北方領土に詳しいジャーナリスト)

 5月のソチ会談後、日本側から日露関係担当の原田親仁政府代表、ロシア側はアジア担当のイーゴリ・モルグロフ外務次官が出席し、東京で両国外務省による平和条約交渉が行われている。
 「首相は原田代表以外にもロシアに幅広い人脈を持つ上月豊久氏をロシア大使に、第一次安倍内閣で首相秘書官を務めた林肇氏を欧州局長に配置し、また世耕弘成経産相に新設のロシア経済分野協力担当相を兼務させるなど、領土返還をにらんで盤石の体制を敷いている。一方、ロシアも8月、プーチンと同じ旧KGB出身の側近セルゲイ・イワノフ大統領府長官を更迭し、副長官で若いアントン・ワイノ氏を昇格させる人事を断行している。ワイノ氏はロシアきっての知日派です」(国際関係アナリスト)

 日ソ共同宣言から60年。島を侵略され追い出された元居住者の平均年齢も80歳を超え、北方4島返還のチャンスはこれが最後かもしれない。日露間に平和条約が締結されれば返還に向けて大きく動き出すのではないかとの見方もあるが、領土問題はやはりそう単純なものではなさそうだ。
 「首相が強調している『新しいアプローチ』がよく分かりません。ロシア極東地域の開発を中心とする経済協力『8項目』ですが、橋本首相や小渕首相がエリツィン大統領と試みた『共同経済活動委員会設置の合意』とさして変わらず、安倍、プーチンがそれぞれ“先祖返り”したにすぎません。2島返還か、択捉を放棄しての3島返還か、4島返還でなければ応じないのかという基本方針についても、官邸と外務省の間で共通認識ができているのかも不明です」(全国紙外務省担当記者)

 今年2月、当時の北方担当大臣が「歯舞群島(=色丹島を含む)」を「はぼ…何だっけ?」と読めずに話題になった。それほどまでに北方領土は、多くの日本国民にとって忘却のかなたにある。それを多少なりとも思い起こさせたのが2006年。当時の麻生太郎外相が、4島全体の面積を2等分する境界線を両国の国境とする新たな解決案を示したのだ。
 「日本政府の主張する4島返還論や日ソ共同宣言に基づく2島先行返還論とは全く違う発想でした。最大の択捉島(全体の64%の面積)の25%を残り3島に合算すると、ちょうど50:50の比率になるという“引き分け論”です」(前出・ジャーナリスト)

 2番目に大きい国後島の広さは約1490平方キロメートルで、同島1島で沖縄本島(約1207平方キロメートル)より大きい。つまり麻生試案での返還であれば、沖縄県二つ分の領土が返ってくることになる。そうは言ってもこれは希望的観測にすぎない。戦後70年が経ち、択捉、国後両島の風景は今や完全にロシアそのものだ。
 「ロシアは択捉と国後を『特別発展地域』に指定しインフラ整備も着々と進めていますが、さらに昨年、この2島で計392の軍事関連施設の建設に着手。3500人規模の部隊を駐留させ、新たな駐屯地の建設も行っています。返還される可能性の高い歯舞と色丹2島は、陸地面積では北方領土全体の約7%にすぎず、特に歯舞は無人島のようなもの。色丹にはすでに中国資本が進出し、北朝鮮やベトナムからも労働者が流入しています」(同)

 9月9日、北朝鮮が5回目の核実験を行った。いよいよ本気で第2次朝鮮戦争の準備に入っていることが明らかになった。そして、その盟友中国も、ロシアと並んで日本の脅威であることは言うまでもない。
 「かつてロシア国営の国際放送『ロシアの声』が『反日統一共同戦線を呼び掛ける中国』という内容を報じたことがある。《日本との間に領土問題を抱える中国(尖閣諸島)は、ロシア(北方4島)と韓国(竹島)と共同戦線を組み、日本の指導部に第2次世界大戦の結果を認めさせ、近隣諸国への領土要求を退けさせよう》という内容です」(軍事アナリスト)

 韓国の抱き込み成功まであと一息の中国だったが、韓国国内の経済の低迷や北朝鮮の不穏な動きにより“野望”は遠のきつつある。
 「アメリカの著名な軍事戦略研究家・エドワード・ルトワックが自身の著書で、日本にとってのロシアの重要性について触れています。要は『日本はシベリア開発に中国を押しのけて入り込み、中露を分断させろ』と説いているのです。北方領土返還が第一であるにしても、日本が最重要視すべきポイントは“中国の戦略を無力化させること”に全力を注ぐべき。そうすれば北朝鮮だって中露の後ろ盾を失うのです」(同)

 日韓関係については、ようやく“過去”を乗り越えて課題に取り組もうとの機運が生まれつつある。その上でロシアとの関係改善を果たせば、中朝の無力化、やがては北方領土返還の道筋が本当に見えてくるのかもしれない。

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