AV強要が社会問題化でAV業界に最大の危機 首相官邸が緊急対策する事態までに発展

記事まとめ

  • 意思に反してAV出演させられる「AV強要」が昨年から大問題となっている
  • 16年7月には現役人気女優の香西咲やほしのあすかが脅迫や強要を受けたことを告発
  • 17年1月、カリビアンコムに無修整動画を提供したAV制作会社ピエロの社長摘発も

AVが消える![前編] フリーライター・中村淳彦

 アダルトビデオ(AV)が深刻な状況になっている。
 若い女性たちが事務所に連れて行かれて出演する契約書にサインするまで帰れなかったり、直前までAVであることを伝えなかったり、出演を拒否すれば契約に基づいて多額の違約金を要求されるなど、意思に反してAV出演させられる「AV強要」が昨年から大問題となっているのだ。

 2016年3月、『国際人権NGOヒューマンライツナウ(HRN)』が発表した「ポルノ・アダルトビデオ産業が生み出す、女性・少女に対する人権侵害調査報告書」と題された報告書が発表されたことが発端だ。
 HRNがAVの問題を大々的に訴えた大きなキッカケは、あるAVプロダクションが'15年に当時20歳だった現役女子大生に対して2460万円の損害賠償請求をした事件だ。提訴された現役女子大生はあるAVメーカーと10本の契約をしたが、契約途中で出演を拒否。プロダクションは契約書を盾にして多額の損害賠償を請求した。裁判所は請求を退けて事件は収束したが、怒った人権団体や女性団体によって若い女性たちが被害を受けるAV業界の実態が可視化され、意思に反したAV出演をさせる“AV強要問題”が社会問題化してしまった。

 そこから堰を切ったように問題が噴出した。
 '16年6月、AV撮影に女性を派遣したとして、AVプロダクションの元社長ら3人が逮捕、労働者派遣法違反で起訴された。また、'16年7月には神奈川県内にあるキャンプ場でAVの撮影を行ったとして女優、カメラマン、プロダクション関係者など52人が公然わいせつの疑いで書類送検される。

 さらに、今度は女優が強要被害を個人の判断で訴える事態が続発する。'16年7月には現役人気女優の香西咲が所属プロダクション社長による洗脳と騙しと囲い込みに、「1億円の損害を親に請求する」と脅迫を受けたことを告発し、同年11月には同じ事務所に所属する元人気AV女優のほしのあすかが半年以上の洗脳と、グラビア撮影と言われた現場でAV撮影を強要された事実をブログで訴えた。
 彼女らの告発で警察が動き、AV業界に対する捜査が本格化した。その後、複数のプロダクション関係者が逮捕されている。

 問題はこれだけにとどまらない。'17年1月、カリビアンコムに無修整動画を提供したAV制作会社ピエロの社長らが摘発され、出演女優・男優が逮捕されるまでに広がった。AVに関わる法律は売春や性犯罪から労働系まで多岐にわたるため、普通に真面目に働いているだけでも法の運用によって摘発は可能なのだ。シリアスな状況は現在も継続し、誰が逮捕されるか分からないといった状態である。
 しかし、AV業界はいくら女優の告発や摘発が続いてもノーコメントを貫いた。
 社会との対話を拒絶する間に、欠席裁判のような状態になって、話は雪だるま式に大きくなった。最終的には政治家が動いて公明党が対策チームを結成し、内閣府男女共同参画局や首相官邸が緊急対策する事態までに発展してしまった。まさに最悪の事態で、政府は現在('17年4、5月)を「被害防止月間」と位置づけて、AV強要に対する取り締まり強化を強く訴えている。

 AVが誕生して35年。これまでも業界内外では様々な問題は起こってきたが、政府が動くというのは初めての出来事だ。
 AVはかつて経験したことのない、最大の危機にあるといえる。

 出演強要を訴えるAV女優たちは、現段階ではみなヒエラルキー上位に位置する単体のアイドル女優たちだ。
 AV女優は「単体」、「企画単体」、「企画」と三段階のヒエラルキーに分類されて、売り出される。
 「単体」はAVメーカーと契約してアイドル女優候補となる。
 「企画単体」はどのメーカーにも出演できるが、出演料は単体ほど高くはない。「企画」は大人数物や盗撮などの作品に登場する無名の女性たちだ。

 '00年代前半から、AV女優は女性たちが自ら望んで応募する時代になった。AV女優になるための競争が始まり、スペックは急上昇。この10年間、単体に求められる水準は極めて高い。応募女性から単体候補を見つけるのは困難で、自然発生的に騙し、洗脳、脅迫などの強引なスカウトが行われるようになったのが、現在の強要問題の背景にある。
 AVメーカーはAV女優のキャスティングをプロダクションに頼り、プロダクションは女性の発掘をスカウトマンに頼る。強要問題で明らかになったのは、応募で見つけるのが困難な単体女優の発掘(スカウト)に、大きな問題を抱えていることだ。

 坂本小雪さん(仮名、31歳)は、'06年に大手メーカーから単体デビューし、4年間活動した。後半2年間は企画単体として活躍、おそらくAV関係者やファンの中には「エッチ好き。やる気満々なポジティブ女優」といったイメージがある元人気AV女優だ。
 坂本さんは18歳で都内有名私立大進学のために上京。直後の4月に渋谷でスカウトマンに声を掛けられた。
 「最初はAVなんて一言も言わない。歌手の事務所って。名刺をもらって、その人は資料を持っていて、そこに有名シンガーソングライターのNとかMとか載っていた。うちの在籍だって。そこから2カ月間くらいメールでやり取りしていた。すごく丁寧で、私は信用しちゃって、ボイトレに通うようになった。その頃は田舎者だし、『私って芸能界入れるのか』って、ただただ嬉しかった」

 坂本さんは、通行人が思わず振り返るような美人だ。見た目への自覚は当然あり、未知の東京に期待を膨らませて田舎から上京している。
 「同期の単体で友達4人いたけど、みんな同じ手口でボイトレを受けているんですよ。それで全員、結局AV女優になっている。ボイトレに通って2、3カ月経って、いよいよ事務所と契約ってなった。スカウトマンが所属するスカウト会社に呼ばれて、ハンコを持って事務所に行って、その場所にスカウト会社の社長、私をスカウトしたスカウトマンとか、その同僚がバーッと入ってきて、私を取り囲んだ。契約書を出して、『あのさ、まずAVに出演してもらうから』って。『え?』って。バレないし、お金にもなるから、とりあえずハンコを押してよって。『歌手のNやMもやっているんですか?』って聞いたら、みんなやってるって。最初は『無理です、なりたくない』って抵抗しました」

 ボイストレーニングを受ける前の段階で、スカウトマンに実家の住所や学生証のコピーを提出していた。
 「君が飛ぶ(AV女優にならない)ってことは、ここにいる全員飛ぶってことだから。君の両親も危ないから、分かってるよね、って恫喝されて…。もう怖いし、うなずいてハンコを押しちゃったんですよね。AV女優になるという、スカウト会社との契約書でした。私が逃げないように家まで送るってなって、それから何日かは家の前に車が停まっていましたね。警察に駆け込まないようにってことだと思う。バカだなって思う。あのとき警察に言えばよかったけど、怖くて、とてもそんなことできなかった」

 大学1年生の秋、坂本さんはAV女優となった。スカウト会社と契約を交わしてから大手プロダクションに所属が決まり、何社かのAVメーカーに連れて行かされた。
 「当時は本当にショックで、死のうと思っていました。人生終わった、今まで積み上げて来たものが終わったって…。私の実家は仲のいい、とてもいい家族だったけど、もう戻れない。私はなんてことをしたんだろう、AVに出演しないと殺されるっていう気持ちで、私がやらなかったら家族全員に危害を加えられると信じていました」

 AVメーカーの面接まわりでは、商品価値を確認するために、全裸の写真を撮影する。坂本さんは、契約したスカウト会社の言うがまま、AVメーカーに行って裸になることを繰り返した。大手メーカーから単体デビューが決まった。
 「初めての撮影ではプロダクションの人だけじゃなく、私を取り囲んだスカウト会社の人間が何人も来ていました。撮影現場で余計なことを言わないか、逃げないか、交代、交代でずっと監視される。それで何本か出演して、スカウト会社の人間は一切関わることがなくなって…。吹っ切れました。もう諦めて、お金のためにAV女優を頑張ろうって」

 大学卒業までAV女優を続けた坂本さん。収入は最高で月収200万円、稼ぎに稼いだ。脅されて仕方なく始めたAV女優だったが、継続したのは自分の選択だった。
 「私、ずっと成績よかったし、運動も得意で、モテて、こんなんじゃなかったんですよ。だから、私の人生、こんなはずじゃなかったなぁって、いつも思います。AV女優は自分で決めてやったことだし、誰も恨んでない。でも、こんなはずじゃなかったなぁ…って」
 最後に彼女は遠くを見つめ、小さな声でつぶやいた。

 '17年4月17日。AVメーカーや制作会社、プロダクションなどに提言や助言、指導を行う第三者機関としての「AV業界改革有識者委員会」発足を発表する記者会見が開かれた。委員には大学教授、弁護士などが名前を連ねている。
 AV強要問題が起こって1年以上が経ってから、AV業界は「自己決定をはじめとする人権を保障するなど、健全化に向けて業界を刷新する必要がある」と、声を上げた。

 これまでの長い時間、AV業界がノーコメントを貫き、防戦一方だった理由は、法律的にグレーだからだ。
 現在のAVは、本番行為が当たり前となっている。創世記から'90年代までは法律を意識して、疑似撮影が行われていた。しかし、だんだんと過激化し、なし崩し的に本番撮影が当然となった。現在では芸能人AV女優にも本番が求められる。AVは歴史的に「モザイクの向こうは本番ではない」という建前で流通してきた。つまり、どこまでもグレーなのだ。
 さらに、'16年6月に逮捕されたプロダクションの社長らは労働派遣法違反と有害業務斡旋で起訴された。AV撮影現場への斡旋はすべて違法という解釈で、違法に関わっているため世間に声の上げようがない。

 AV業界とは関係のない大学教授や弁護士が、魑魅魍魎が群れ、どこまでもグレー産業であるAV業界の暗部にメスを入れることができるのか、まだ、未知数である。

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