介護業界に本格参入するパナソニック・ソニーの思惑

 家電業界の介護ビジネスへの本格的な参入が進んでいる。中でも注目されているのは、パナソニックやソニーだ。

 実は、パナソニックが介護事業を手がけ始めたのは'98年と古い。介護保険が導入された2000年を目途に参入したのだが、ここへ来て大きく注目されているのは、それまで小規模だったものを'16年に一気に拡大路線へと大きく舵を切ったためだ。
 「昨年4月、(1)在宅・施設双方の介護サービス、(2)介護用品を扱う介護ショップ、(3)水回り設備やベッドなどの関連企業、(4)入浴・排泄設備などの介護用品の開発を行う企業の4社を統合し、新たに、パナソニックエイジフリー社という企業を設立したのです。パナソニックは'25年に向け、この介護事業での売上高の目標を2000億円へと引き上げる方針です」(介護事業関係者)

 一方のソニーは今年5月、有料老人ホーム『ソナーレ』の2棟目をさいたま市に開設、こちらも介護事業の拡大を急いでいる。同社はこの4月、介護事業子会社のソニー・ライフケアが、有料老人ホームの運営企業・ゆうあいホールディングスを子会社化。年商1億円規模を、計31拠点で年商50億円超に拡大させた。

 2社が介護事業に積極的になっている理由を、業界関係者はこう語る。
 「'25年に、人口が最も多い団塊世代が一斉に75歳以上になる。その数、約700万人。日本の人口の約4人に1人という状態です。そんな超高齢化社会に合わせ、介護の市場規模も現在の10兆円から'25年には21兆円に膨れ上がるとされる。2社は、そのうちの1割でも顧客にすれば、利益は十分に上がると読んでいます。パナソニックはサービス付き高齢者住宅や訪問介護センターを、ソニーは老人ホームを中心に事業展開します」

 両社とも、土地オーナーが投資して建物を建築。それを20年以上借り上げるという仕組みを取っている。しかも、単に介護事業を手がけるだけではないのが、家電業界の取り組み方だ。

 ソニーと言えば、日本でいち早く'99年にペット用ロボット『AIBO』を開発して話題を呼んだ。しかし、大きな収益を上げるまでにはいかず、'06年に撤退している。
 「ところが最近は、介護施設や老人ホームに、ソフトバンクの『Pepper』や船井電気関係者らが立ち上げたベンチャー企業のコミュニケーションロボットが導入され、認知症予防やお年寄りの屋内移動のサポート役などに一定の効果をもたらす事が分かってきました。以来、介護用ロボットは盛んに導入される傾向が強まり、'16年では40億円市場、'20年には80億円から100億円規模が見込まれている。そのためにソニーは、再度、ロボット産業に参入する動きを見せているのです」(同)

 パナソニックもしかりだ。経営アナリストはこう言う。
 「パナソニックでは、高齢者や身障者などがベッドに寝たまま、ベッドの一部を切り離して車椅子にする『リショーネ』という商品を開発、販売している。ほかにも同社の施設には、顔認証技術を使った徘徊を防ぐためのドアシステムや、繊維の強化樹脂を取り入れた世界最軽量の掃除機を製作し、家電メーカーの強みを活かしてアピールしている。これが介護施設のみならず、在宅介護、普通の家の高齢者にも浸透していけば巨大な市場になるという期待も、介護事業に力を入れている理由です」(家電メーカー関係者)

 しかし、各社が思い描くほど介護市場はバラ色なのか。というのも、民間信用調査機関の調べでは、'16年度の老人福祉・介護事業の倒産は107件。2000年の調査開始以来、最多となっているからだ。
 「介護業界は、ここ数年、三重苦で苦しんでいる。まず、介護報酬が3年ごとに見直され、毎回職員に対するプラス改定で収益は徐々に悪化していること。さらに職員不足による離職防止のため、人件費は上昇の一途。三つ目は、事業者の過当競争で利用者が集めにくいという点。決して美味しい商売ではないのです」(経営コンサルタント)

 さらに、介護事業関係者がその厳しさをこう続ける。
 「介護事業は、家電メーカーだけでなく、大手ハウジングメーカー、保険業界なども続々と参入している。現在はソニーの施設を見ても分かるように、入居額が40万円〜50万円と高額で、体力のある大手同士で富裕層の激しい争奪戦が起こっている状態です。一方で、中小の介護事業者は三重苦で厳しい経営に陥り、業界内で二極化が顕著となっている。かといって、大手家電メーカーが体力勝負の富裕層争奪サバイバルに勝ち残れる保証はない。日本に外資乱入の可能性もありますからね」

 ソニー、パナソニックともに、これからが正念場だ。

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