森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 金融庁長官発言で業界激震

 金融庁長官の発言に証券業界が揺れている。4月7日に証券アナリスト協会の国際セミナーで基調講演を行った森信親金融庁長官が、「来年からスタートする積み立てNISAの適用対象となる投資信託は、全体の1%弱の50本以下だ」と発言したのだ。
 これを逆に言うと、金融庁長官は99%の投資信託に“失格”の烙印を押したことになる。監督官庁トップにそんなことをされたら、業界の面目は丸潰れだ。森長官の意図は、いったい何なのか。

 新設される積み立てNISAは、少額投資の非課税制度で、現行のNISAが個別株の運用も認めているのに対して、運用対象を投資信託に限定している。
 現行のNISAが年間120万円までの投資を5年間行えるのに対して、積み立てNISAは年間40万円の投資を20年間にわたって続けることができる。つまり、積み立てNISAは、長期間かけて老後資金を作るための投資を優遇する制度なのだ。

 虎の子の老後資金を作る投資だから、金融商品も国民に寄り添ったものでなければならない、と考えた森長官は、長期投資にかなう投信を選別した。
 選別の基準は明らかになっていないが、販売時の手数料が無料で、なおかつ信託報酬がアクティブ型で1.5%以下、インデックス型で0.5%以下ではないかと言われている。それだけの基準でふるいにかけると、99%が脱落してしまうというのが、日本の投資信託の現状なのだ。

 信託報酬というのは、投資信託を運用する側への報酬。簡単に言えば、ファンドマネージャーのギャラだ。それが2%も3%もかかるというのは、そもそもおかしなことだ。
 一般国民は、ファンドマネージャーは金融の専門家だから、専門的知見に基づいて高い利回りを得られると思い込んでいる。しかし、神様ではないのだから、将来のことなんて当然分からない。もちろん、優秀な成績を残しているファンドマネージャーはいるが、それは彼らの運がよかっただけのことだ。
 そうしたなかで、運用成績がよくても悪くても、運用残高の2%も3%もギャラとして取っていくということ自体、かなり問題があると、私は以前から思っていた。だから私は、森長官の発言には全面的に賛成なのだ。

 もっとも、だからと言って積み立てNISAを強く勧めるわけではない。大部分のサラリーマンにとっては、積み立てNISAよりも、確定拠出年金(イデコ)のほうが、圧倒的に利用価値が高いからだ。どちらも投資収益は非課税になるが、確定拠出型年金は、掛け金そのものが所得控除の対象になる。
 普通のサラリーマンは、地方税10%、所得税10%の合計20%を支払っている。だから、所得控除を受けられる確定拠出年金制度を使えば、投資信託を実質2割引で買えるのと一緒なのだ。

 積み立てNISAがもたらす最大のメリットは、金融庁の選別によって本当に良心的な投資信託が何なのかが、あぶり出されることにある。
 来年1月の積み立てNISA開始までに、証券業界がどれだけ国民に寄り添った商品を開発してくるのか、今後に注目だ。

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