野村不動産も買収へ 民営化後初赤字 日本郵政の懲りない体質

 日本郵政が'17年3月期連結決算で、'07年郵政民営化以来、初の赤字転落したことにより、市場で懸念が広がっている。
 5月15日の日本郵政の決算報告記者会見に出席した全国紙経済部記者が言う。
 「前の期は4259億円の黒字で、今回は289億円の赤字となった。この原因は明確で、2年前、日本郵政が約6200億円という巨額投資で買収したオーストラリアの物流会社、トール・ホールディングスの業績悪化から4000億円の損失を計上し、それが今、まるまる日本郵政の経営を揺るがしているのです」

 トール社はもともと、鉄鉱石などの資源運搬がベースの企業で、現在は、その資源物流も含め国際物流全般を取り扱い、特に中国やアジアで強みを発揮している。
 銀行系シンクタンクのチーフエコノミストが、こう解説する。
 「中国が'08年のリーマンショックを、日本円で52兆円規模の国家主導による公共事業投資で乗り切ろうとした。そのため橋や建物、鉄道が続々作られたのですが、そこで伸びたのが鉄の需要。'00年に約1億トンだった中国の粗鋼生産量は、'14年には約8億2000万トン台にまで急増し、世界の粗鋼の半分を中国が製造した。その影響を受け、他の新興国でも急ピッチで経済成長が進み、トール社などの資源運搬部門を持つ企業が急拡大したのです」

 ところが'15年、中国経済に陰りが出始める。バブルを恐れた中国銀行が引き締め策で融資の蛇口を絞ったことによって不動産価格が大暴落し、チャイナショックが襲った。当然、資源価格も大暴落を引き起こすこととなった。
 「日本郵政がトール社買収時、世界の資源を取り巻く状況はすでに暗雲がたれこめ、社内外に不安の声が蔓延していた。しかし、当時の日郵幹部は、その懸念の声を押し切り『資源価格の低迷も踏まえている。世界全体を俯瞰する物流業を作り上げるには打って出なければ』と説得。その旗振り役が、'13年に社長に就任した西室泰三氏でした。しかし、重い物運搬で収益を上げる物流と、グラム単位の物を運び収益を得る郵便を混同してしまう安易さ、さらに当時の世界経済も見誤り、負の企業を高値で掴んでしまったのです」(同)

 その「高値」に関して、日本郵政の事情通がこう話す。
 「当時、社内外の物流に通じた関係者らは、トール社を高く見積もっても3000億円程度と見ていたが、西室氏はそんな話に見向きもしなかったという。20年間で年間200億円の利益が上がれば元は取れると、周囲には漏らしていたそうです。それが、たった2年で暗礁ですからね」

 そこまで西室氏が突っ走った理由には、日本郵政が'15年11月上場に向けて“世界の物流に打って出る”という大看板が必要だったためという話もある。
 「かつて東芝にいた西室氏は、入社後、海外事業をはじめDVDの規格事業で辣腕を発揮し、大きな実績をあげた。しかし、トップになってからは空回りの連続で、今日の東芝の屋台骨を揺るがす原因となった米原発会社ウェスチングハウス(WH)の巨額買収にも、西室氏は相談役として大きな役割を果たした。それにも懲りず、今度はトール社買収で同じような失敗を繰り返したわけです」(関係者)

 西室氏を三顧の礼で日本郵政トップに招いたのは、安倍首相と菅官房長官とされ、今日の日本郵政の不振は官邸の任命権責任にあると言っても過言ではない。
 「その西室氏は昨年3月に突如、体調不良で退任し、後任の長門正貢社長は、トール社の不振になんの効果的な手も打てずじまい。ただ減損処理しただけで、自らの責任も6カ月の報酬カットのみ。それどころか、このほど野村不動産HDの買収に向け、具体的な交渉にも入る予定というから驚きです」(同)

 日本郵政は、事業の柱の一つである年賀はがき販売が、ピークだった'03年の44億枚から現在は10億枚以上減り増加は見込めない。加えて、金融事業も低迷し、傘下のゆうちょ銀行が国債利息減少、かんぽ生命は保有契約減少で、'16年4〜12月期は対前年比でそれぞれ16.2%減、6.5%減と落ち込んでいる。そんな中、野村不動産の買収は、新たな収益力アップのため、全国に2万4000件超えの郵便局の土地の2兆円規模の有効活用が狙いだという。
 「畑違いのトール社に加え、今度は野村不動産買収…。日本郵政幹部たちには、親方日の丸的な甘い体質が抜けていないことが心配されている。また失敗すれば、本当に第二の東芝になると市場関係者は懸念しているのです」(経営アナリスト)

 日本郵政の筆頭株主は、8割を持つ政府と地方自治体。経営に事が起これば、そのツケは確実に国民に回ってくるのだ。

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